第7話蜜なる夜は、甘くとろける

想いが互いに重なったあの日から幾つか日にちも過ぎて行った。いくつかの仕事もこなし、人気も更に高まっていくS4の面々。そんな時だ。各マネージャーに一斉送信でメールが届いた。


『今度の6月末にS4の沖縄写真集発刊に伴う1週間の撮影が決定いたしました。日程は下記の通りとなります。よろしくお願い致します。』


その下には1週間の内容と日程、撮る写真のイメージ等大まかに、且つ詳細にかかれていたのだ。


「6末かぁ…そうすると…」


そうしていろいろと手帳を確認する美羽。幸いにも前日は半日ですむ撮りだった為一安心と言った所だった。部屋の予約等もしなくてはならない。そう思いながら読み進めていた時だった。


「…ホテルも大丈夫かぁ。」


そう室内での撮影もあった為、全て押え済みである事が解った。そんな時だった。美羽の携帯に秋人から電話が入る。


「もしもし?」

『もしもし、秋人。今大丈夫?』

「はい、大丈夫ですが…」

『沖縄の話、聞いた?』

「はい、先ほどメールが届きました。1週間だっていう事なんですけど、何か必要な事って…」

『特になくていいんじゃねぇ?俺も自分の荷物は自分で持ってくし。美羽は美羽の必要な物だけで』

「そうですか?解りました。」

『それで、夜…』

「はい?」

『夜、いつでも出れる様にしといてな?』

「え…っと…」

『少し遅くなるけど誕生日、2人で過ごそう?』


そう言われて少し沈黙が時間を取るものの『ありがとう…』と伝えて電話は切れた。

そうして沖縄出発当日。いつも余裕をもって移動する美羽いでさえもいつも以上に気を使っての移動にした。何度も確認をして他のメンバーを待つ。すると少し離れた所から手を振る男性が居る。その人は美羽に向かって走ってきた。


「美羽ちゃん!」

「あ…海君…それに和さんも…」

「和でいいって。それよりやっぱ秋人の手前呼べないかなぁ」

「いえ…でもなんか申し訳なくて…」

「申し訳なくないって。」

「そうそう!美羽っちもここ集合だったんだね!」

「美羽っち…」

「お前は慣れ慣れしすぎ。」

「美羽っちじゃいやだった?」


明らかにしょぼくれた平良だったが美羽は首を横に振り大丈夫と答えると時期にまた、満面の笑みに戻った。そうこうしていると秋人も到着。皆で移動すると全員時間の定刻通りに集合できた。


「美羽の事だから迷ってるかと思った。」

「そんな事ないよ!私だってちゃんとこれます!」

「初めの頃はスタジオでさえ迷ってたじゃん?」

「それは言いっこなしです!!」


久し振りにこの2人の様子を見た後の面々はどことなく嬉しそうに顔を綻ばせた。そう、今までのマネージャー相手では見る事のできない秋人だったからだ。それを見て、冬木の思いは核心へと変わった。


「やっぱり…な」

「和?やっぱりって何が?」

「いや?秋人。美羽ちゃんの事マジだぜ?」

「やっぱり?でも美羽ちゃんが拒んでそう…」

「フフ…」

「なに?和、その意味深な笑み!!」

「まぁ、核心になってないし。僕の思い込みでどうこうも言えないからね。」


そうして1人で楽しんでるようにも見えた。飛行機に乗り、互いのメンバー同士で2人ずつ乗り、マネージャーやスタッフ同士で席を固める。何かがあってからでは責任が取れなくもなると考えたからだろう。約3時間の飛行機の旅は時期に沖縄に着いた。

走り出そうとする海を止めながら、ひとまずホテルに向かう面々。着いて荷物を置くと、ひとまず会議室に集まった。ファン達に見つかって打合せが出来ないとなっては困るが故に最初の初日に押さえていたのだ。こうしてメンバーと各マネージャー、企画者は一同に集まり書類をもとに簡単な打ち合わせを行った。その時に手渡されたのは1人1台のデジカメだった。


「これって…何すんの?」

「僕たちも撮影するんですけど、例えばカメラが回っていても回っていなくても、メンバーだから取れる顔ってのも欲しいので。それ用です。」

「ってことは秋人の事盗撮してもいいって事?」

「やめろ…」

「いや、やめろって言ってもそうやってお達しが来てる以上仕方ねぇじゃん?」


くすくす笑いながらも話をしているメンバー達。そうして説明も終わると1時間後に集合として一旦着替え等支度に入った。それぞれが散り散りになっていくと美羽の携帯にメールが届く。


『部屋で待ってて』


たったひと言だったが美羽は顔色1つ変えずに返事を入れる。そうして部屋に着いて時期にコンコンとノックの音が鳴った。


「はい!」


そうして開けるとすぐに秋人が入り戸を閉める。戸を閉める秋人の背中に向かってクスリと笑っていた美羽。


「なぁに笑ってんだよ」

「だって…秋人さんおかしくて…」

「おかしくねぇっつぅの…」


そう言いながらもふわりと秋人は美羽の事を抱き締めた。そんな秋人の服の裾を握りしめる美羽の耳元で小さく呟いていた。


「美羽…」

「なぁに?」

「何で海たちは『さん』じゃねぇの?」

「…?何のこと?」

「呼び方。特に海…海くんって呼んでたろ…」

「えっと…うん…まぁ…」

「…で?和は?」

「和さん?」

「ハルは?」

「ハルさん?」

「…まぁ最悪?さんだからいいんだけど、何で俺は『秋人さん』な訳?」

「ごめんなさい、良く解んない…」


きょとんとしている美羽。それも素の状態で聞いていた。グッと抱き締める腕に力が入るとそのままゆっくりとすぐ横の壁に抑えると距離を間近にとってきた。美羽の両足の間に自身の右足を入れ、美羽にとって逃げ場などなかった。


「美羽は俺の何?」

「マネージャー…?」

「後は?」

「……彼…氏?」

「だろ?それでいつまで俺は『秋人さん』な訳?」

「だって…」


何か反論したいと思っても秋人の顔が間近にあって…そう思えば耳元で甘く声は響いてくる…息遣いさえも感じられる距離で美羽は秋人からの問いかけにドキドキを隠せずにいた。


「秋人…さん…あの…」

「ほらまた…秋人でいい…」

「でも…皆が変に思って…」

「思わねぇよ…だって美羽は俺のマネージャーだからね」

「あ…きと…?」

「何?」

「……さん…」


少し遅れての『さん』付に秋人は少し可笑しくなってきていた。


「クス…美羽?次俺の事『秋人さん』って呼んだら罰ゲームな?」

「秋人さん…罰ゲームって…ン」


言葉を遮るように秋人は美羽の口唇を塞いだ。それと同時に舌を割り込ませて行く。器用に美羽の舌を絡め取りながら深く…深くとキスの時間を重ねている。ゆっくりと離れると美羽はとろんとした目で見上げていた。


「いじわる…」

「何かいった?」

「もぉ…」


そういうと俯いてしまう美羽に体を重ねるように抱きしめる秋人。


「覚悟しとけよ?」


躊躇いがちで、戸惑い気味の美羽の耳元で秋人はいたずらっ子のように呟いていた。そのすぐ後に秋人の携帯が鳴り響く。そっと離れ秋人は美羽に背中を向けて携帯に出ていた。


「もしもし?…和か、どうした?……うん。……はぁ?だって部屋にいねぇし。ん?まぁ、散歩?」


電話の相手は冬木と解っても美羽はどこか離れてしまった事が寂しく感じていた。そんな気持ちになっていたからか…無意識の内に秋人のシャツの裾を握りしめていた。それに気付いた秋人は携帯を左手に持ち替えて右腕で美羽を抱き寄せる。その間もずっと冬木とは話していた。


「あぁ。……でもまだ十分時間はあるだろ?…そりゃそうだけど……はぁ?知らねぇって…クスクス…」


そう話す秋人。まだ電話はかかりそうだった。抱きしめられている美羽も気持ちが抑えられなくなってきたのか、秋人の背中に腕を回してきゅっと巻き付いていた。


「…悪い、和。あとでまた話聞くわ」


そういうと電話を切りデニムのバックポケットにするりとしまうと巻き付いてきた美羽を再度抱き締めた。


「頼むから…あんまり可愛いことしないで?」

「秋人…」

「…ッッ」


自分で言いだしたものの、実際に美羽に呼ばれるとどこか歯がゆくもあり、嬉しさからか、理性を抑えるのに必死にならざるを得なかった。


「秋人…?」

「ん?」

「時間…もぉそろそろ集合時間になっちゃう…」

「…そっか…」


そうして美羽の額に軽くキスを落として2人は部屋を後にしようと出た時だった。タイミングがいいのか悪いのか…冬木とばったり居合わせた。


「おぅ、和」

「おぅって…秋人の部屋って?」

「いんや?ここじゃねぇけど?」

「でも……」


ピンっと感付いた冬木はそれ以上問い詰める事もないまま、秋人の方に腕を回してニッと笑っていた。そうしてぼそりと呟くと秋人は冬木の方に回る腕をふいっと払いのけながらも楽しそうに話をしていた。そうして全員がロビーに集合するとこの日の撮影場所に向かう事となった。

順調すぎる程に撮影も進んでいく。ビーチでの撮影でもいろいろと撮られていく。その所々で美羽は秋人の事をやはり『さん』付で呼んでしまう。その度に秋人はニッと笑っていた。今もそうだ。


「ところで秋人?なんでそんなに嬉しそうな訳?」

「いや?なんでもねぇ…」

「…こいつさ?やらしいの…」

「え何々?」

「和…黙ってろ?」

「いいじゃん?ほれ…」


そう言いながら平良が秋人をグイッと捕獲状態になっていた。その間に冬木は色々と話している。観念したかのように力なく抵抗をやめた秋人。しかし、カメラマンには聞こえない様にうまく話している為、表情だけがうまい事に収められていく。


「…って訳」

「マジで!?」


声を上げた平良と春崎。しかし、嬉しそうにはしゃいでいた。秋人の口からも話し出されていく。


「だから…さ。」

「へぇ…美羽ちゃんとねぇ…」

「まさかそんな事になっていたなんて思わなかった。でも、俺聞いちゃってもいい?!」

「海…何聞くつもりだ」

「ひーみつ!!」


嬉しそうに、そして何かを企んでるかのように笑っていた。そうこうしている内にソロでの撮影に入っていく。待っている間にそれぞれ話をしていた。秋人も美羽の横に座ったまま色々と話している。


「美羽さ…」

「はい?」

「何回今の時間までに俺の事『秋人さん』って呼んだ?」

「…解りません……」

「結構呼んでるよな?」

「…その……」

「今夜…覚悟しとけな?」

「えっと…あれって本当だったんですか?」

「当然だろ…。嘘だとか思ったか?」

「はい」


そうこう話している時、冬木は近くに近寄ってきた。


「なぁに話してるの?」

「いえ、別に…?」

「そうそ、秋人も一緒に居るならちょうどいいや、今夜美羽ちゃん借りていい?」

「借りるってどうすんの?」

「美羽ちゃんと話したいなぁって。もちろん部屋には呼ばないから。誰でも入れるプライベートバーの所での話にするし。」

「…だって。どうすんの?」

「どうするって…」


ちらりと秋人の方を見るが秋人は目を合わさなかった。どこかむぅっとした美羽は冬木に答えた。


「解りました。何時にしましょうか」

「じゃぁ夜の19時かな。大丈夫?」

「はい。」


そうして約束を取り付けた冬木。目さえ合わさなかった秋人もまた、どことなく不機嫌になっていた。『お手洗い…』と席を外した美羽を見送ると秋人は冬木に話し出した。


「何話すつもりだ?」

「いや、秋人をよろしくって。」

「本当にそれだけか?」

「それ以上に何話すの。後あるとしたら、秋人への思いの強さをのろ気て貰うくらいかな?」

「和…」

「冗談だよ、もし心配ならさっき言ったでしょ?マジでそこで話すから、なんなら秋人も来たらいいさ」


にっこりと笑いかける冬木に対して大きくため息を1つ吐いた秋人だった。時間も過ぎながら今日の撮影も一通りは終わった。ホテルに戻り夕飯までの時間にとりあえず状況等の整理等をし始める美羽。その時に秋人からメールが届いた。


『俺の部屋これる?』

『少し待ってください?』


そう返信を入れる美羽。その少しあとに戸をノックする音がした。


ダンっ!


「はい?」


戸を開けるとそこには安易に予想がつくほど当然と言わんばかりに秋人が立っていた。開いた戸から入ってくる秋人。


「何してんの?」

「仕事の整理ですよ?」

「そっか。」


そうして招き入れた後に椅子に座りノートパソコンに向かい合う美羽。後ろからそっと抱き締める秋人。


「美羽…」

「…はい…」

「仕事、後でも良いだろ?」

「それは…それにすぐお夕飯…」

「夕飯までの時間、あと1時間くらいある。」


片手で抱き締めたままノートパソコンをパタンと閉じる秋人。首筋に顔を埋める。


「ン…秋人…さん」

「ほらまた。今日何回朝から『さん』つけた?」

「だって、やっぱり…」

「それとも、俺からの罰ゲームが癖になった?」

「それは…」


そう答えるも、すぐに椅子から下ろされた美羽。そのまま抱き上げられベッドに連れていかれる。ドサリと下ろすと、上に覆い被さり組敷く様に乗っかった。


「秋…っ…人?」

「今言っても貯まったもんは取り戻せねぇけど?クス」


そう言うとキスまでは行かずに口唇をそっと舐める。そうして耳元に口唇を寄せては甘く囁くだけ…そっと太ももをなぞり、指先で腰回りをなぞる。


「アッ…ンァ……」

「どうした。…ん?」

「秋人…ぉ…」

「ん?」


完全に焦らすだけ…それだけで秋人はふっと体を起こす。キス1つもないまま美羽の体を高潮させたまま秋人はゆっくりとベッドを降りた。


「秋人…ぉ。」

「ん?何」

「…ね…ぇ」


そう言うと美羽も秋人を追ってベットを降りる。背中からそっと巻き付くと服を握りしめた。


「秋人…あの…ね?」

「ん?」

「あの…」

「何?言わなきゃわからねぇよ?」

「…ッッその…」

「残念だったな。そろそろ時間だな。」


そっと美羽の腕を緩めた後に指を絡める。


「夕飯の後にいくんだろ?」

「…ん」

「和に触れさせんなよ?」


そう言いながら部屋を後にする秋人。部屋に残された美羽は火照る体をもて余していた。あと10分ほどで夕飯の時間になっていた。じっくりと時間をかけて焦らされた為自分自身で少し体に触れてもドクンと心と感情は反応する。なんとか夕飯会場に向かい夕飯を摂りに向かう。その場では他のマネージャーとの会話も弾んでいた。


「秋人くんのマネージャーってしんどくない?大丈夫?」

「しんどくはないですよ?」

「何て呼んでるの?私は海君かなぁ。」

「僕は和と呼んでますね。」

「僕もハルですかねぇ。」

「私ははじめは秋人さんって呼んでたんです。でも最近は秋人さんの方から『秋人で良い』といってくれまして。今直してる最中で。」

「珍しいね。秋人くんが呼び捨てでいいって自分から言うなんて。」

「本とねぇ!」


よほど珍しかったのだろう。他のメンバーのマネージャーも驚いていた。そうして、夕食も終えた時。美羽は少しラウンジでゆっくりしてから冬木に呼ばれている場所へ向かった。すると約束の時間10分前だったというのにすでに冬木は来ていたのだ。


「あの…すみません、お待たせして…」

「いうや、いいよ。大丈夫。僕もさっき来たばかりだしね。何か飲む?」

「いえ、私あんまり飲めなくて…すみません。」

「謝る事ないよ。逆に僕の方こそ済まなかったね。どうぞ?」


そうして横に座るように促した冬木。その仕草は本当に手馴れていた。その後にゆっくりと話し出す。


「美羽ちゃんさ?」

「はい…」

「秋人って…どう思う?」

「あの…どうっていうのは…すごくいい人ですよ?優しくて…」

「そうじゃなくてさ?例えば恋人っていう形の想いとか。そういうのはない?」

「和さん…?それって…」

「大丈夫。本音で話してくれれば。少なくとも俺らはリークはしない。うちの会社だって恋愛禁止じゃないし、確か社内恋愛だって問題はないから。」

「…私は…好きです。」

「私はって、秋人の気持ちは聞いてないの?」

「秋人さんも好きだって言ってくれました。だけど…私正直怖くなってて…」


そう言いうつむいた美羽。あえて優しくてを出すこともしないで冬木はグラスを回しながら話している。


「もしかして、SATSUKIの事?」

「…はい。」

「彼女とは終わってるって聞いてない?」

「聞いてます。でも、この間、2人揃っての雑誌の撮影の時。…凄くきれいで、愛おしそうに見つめあってた…もしかしたら私の事は繋ぎぐらいになってるんじゃないかって。…だって私はSATSUKIさんみたいにきれいじゃないし。」

「あいつのは商売道具だからな。」


不意に後ろから声がした。そう、秋人だ。宣言通りと言わんばかりにやはり来ていた。


「モデルが本職のあいつと、そうでない美羽が比べたってなんになるっての。くだんねぇこと気にしてんな。」

「秋人…」

「まぁま、立ち話もなんだから座ったら?」

「…ハァ…」


そうして秋人も美羽の横に座る。


「何かお飲みになりますか?」

「モスコミュール」

「秋人、やめとけ。マスター?今の、カンパリに変えて?」

「和…っ!」

「ずっと続くし、美羽ちゃんに迷惑かける気か?」

「…わかったよ。」


そうして他愛もない話をしているとふわりと甘い香りが鼻をついた。


「秋人…?」


その声を聞いて3人は振り返る。きょとんとした顔の美羽とあからさまに嫌な表情を見せる秋人。冬木は何と言っていいか解らない様子でもう1度グラスに口を付ける。


「やっぱり…秋人だ…和君も…って事は4人一緒なの?」

「何でSATSUKIがここに居るんだよ。」

「オフでちょっとね!偶然ね!」

「…んな偶然あるかよ…」

「和君何か言った?」

「いや?なぁにも。」

「そ?…にしてもマネージャー付じゃなきゃ飲めないの?気難しいのね…」

「私、部屋戻ってるから…明日もあるから飲みすぎない様にね?」

「…ッッ…美羽?」

「良かったぁ!さ!一緒に飲みましょ?」


そうして美羽が帰るのを見ていたSATSUKI。ぐいっと秋人の腕をつかんでいるSATSUKIの腕を振り解こうとするも行かせなかった。キッと睨みつくように秋人がSATSUKIを見た直後だった。


「あぁあ、行っちゃった」

「いい加減にしろよ…」

「何が?私悪い事言ってないよ?」

「…いいから離せ。」

「離してもいてくれる?」

「ふざけんなって。」


SATSUKIに対して冷たくなっているのも秋人自身解っていた。それでも今は美羽の事が気になって仕方がなかった。その目は牙をむいているかの様に鋭かった。SATSUKIもまた、少し観念したかの様に腕を緩める。そのすぐ後に隙をついたかの如くに秋人はその場を離れた。残された席には、グラスに半分ほど残ったカンパリオレンジが光っている。秋人の座っていた席に腰を下ろすSATSUKIに冬木は声をかけた。


「偶然を装うにはちょっと無理があったんじゃない?」

「…クス、相変わらず察しがいいのね。」

「誰だって解るだろ?」

「でも、あのマネージャーさんは信じてくれたわよ?」

「…あざとさも変わらねぇな。」

「それ、私には褒め言葉になるわよ?あざといって思われる位に素直になれてるって思ってるから。」

「…」


無言のまま席を立った冬木はマスターに挨拶をしてその場を離れようとした。SATSUKIのすぐ後ろ辺りで歩みを止めると『そうだ…』と思い出したかのように笑いながら話し始めた。


「秋人の、S4も邪魔だけはしてくれるなよ?」


そうたったひと言残して部屋に戻って行った。その場に残されたSATSUKIはぽつりと1人で飲むこととなっていた。その頃の美羽は部屋に戻り、キーロックまでして、部屋に閉じこもった。少し、ほんの数分前までは楽しかった。秋人が居て、なんだかんだ話しながらも一緒に居られる時間が嬉しかった。仕事をしていてもなかなか進まないままノートパソコンを閉じ、入浴してベッドに身を委ねた。


「…ハァ…」


携帯を開くと秋人からのメールと着信が何件か来ている。


『話がしたい。』

『部屋に居ない?』

『会いたい』


普通で行けば、すんなりと返事を返すものの、美羽はこの時、返事を返すはしなかった。というより、どう返していいかが自分自身でもよく解っていなかったのだ。

ここに着いてから、初日に少しの触れ合いがあったものの、それ以降は美羽が避けていた為、なかなか2人きりになる事は難しかった。こんなんじゃいけないと頭では解っていても、どこでSATSUKIが現れるか解らない…もう彼女と鉢合わせるのは心が壊れそうになって嫌だった。そんな事を考えていると、時間も無情に過ぎて行き沖縄で過ごす最後の夜になった。これまでメンバーが撮りあってきたものや、カメラマンが撮って来た物、それで十分写真は集まっていた為、最後の夜は個々それぞれで思い思いに過ごす事に決めた。その夜…美羽の部屋に来客がやってきた。


コンコン


「はい?」


返事はなく、のぞき窓を見る前に美羽は開けてしまう。直後に秋人は室内に滑り込むように入った。


「あ…きと…?」

「よぅ。」

「どうしたの?」


そう答えながら美羽は背中を向けた。すると時期に秋人の腕の中に納まっていた。


「秋人、ちょっと…」

「なんで…?」

「え?」

「何でそうやって俺を避ける?」

「避けて何て…」

「避けてるだろ。さつきと会ってからずっと…」

「聞きたくない…そんなの…離して…」


そう言いながらもがこうとするものの、全く秋人の腕は緩むことが無かった。それどころか徐々に強固になっていく。ぐいっと抱き上げベッドに連れて行く…ドサリと降ろすと秋人は四つん這いになって上から美羽を見下ろした。


「この際だ、嫌だと思ってる事全部言って…」

「そんな事…」


そう小さく呟くと目線を逸らし、顔を背ける美羽。背けてくっきりと首筋が露わになると秋人はそこに顔を埋めて口唇を寄せる。


「嫌な事ない訳じゃないだろ…言って?」

「…嫌…よ」

「何が?」

「…ッ」

「美羽…言って?」

「秋人が…秋人がSATSAKIさんと一緒に居るのが嫌…仕事でも…ましてやプライベートでとか…すごく嫌なの…」

「だけどあの仕事を持ってきたのは美羽だろ」

「こんな気持ちになるなんて…思ってなかった…さっきも…ほんの一瞬だけど秋人に触れてる手が…すごく嫌だった…私情を挟んじゃいけない事位私だって解ってる。だけど…それでも私は嫌…」

「…そっか……」


そういうと美羽の上から体を起こして、電話をし出す秋人。その相手は宮村だった。


『もしもし?秋人か?珍しいな。どうした?』

「匠さん、俺相談があって。」

『どうした?』

「今後一切、SATSUKIとの仕事受けないでほしい。」

『なんだ突然。』

「いいから、美羽にも話してる。事務所に話が行ったとしても受けないでね」


そういうだけ言って電話を切った秋人。その出来事は一瞬だった。きょとんとしたままの表情を見ていた美羽はふと我に返った途端に秋人に近付いた。


「秋人…!そんな…」

「問題ない。今まで俺とSATSUKIの共演なんて暗黙の内にNOになってたんだ。だったらこのまま受けなければいい。」

「それは…そうしたのは私が言ったから?」

「美羽が嫌だってことはしたくない。それだけだ。後は?」


さらりと言い放った秋人。しかしその言葉にはさっきのSATSUKIに対するような冷たさは無かった。その後に言葉が続かない美羽を見て秋人はさらに続けた。


「後ないっていうなら、今度は俺の番になるけど?」

「…ん…」


そう頷く美羽を見て秋人はベッドの淵に腰かけた。両手をベッドに付き、じっと目は美羽を見つめている。


「美羽…俺の所に来るか?この前は俺も美羽も互いに想いを伝えたけど、色々あって。ここに来てもさつきが来た事で美羽の心は揺れてるだろ。もし仮にこれから先、どんな仕事が来るかは解らない。そんな中でも俺の事、信じてくれるか?」

「秋人…?」

「マネージャーとしてじゃない。俺の彼女として、恋人として…信じてくれるか?」

「…あの……」

「もし、信じてくれるって言うなら俺は全力で美羽を守る。どんな事からも、誰からも…守る。」


そう言うと秋人はそっと右手を差し出した。


「俺らの関係、ただのマネとするか…それとも特別な関係になるか…今決めて?美羽がどんな答えを出しても俺はそれでいいから。迷惑もかけたりしない。」


そう言い続けた秋人。美羽は目に涙を溜めたまま、秋人にゆっくりと問いかけた。


「秋人…は、秋人は私の事どう思ってるの?」

「好きだ。」

「本当に…ずっと守ってくれる?」

「あぁ」

「何かあって、心が折れそうになっても?」

「もちろん」

「…・・ッッ」


堪らなくなった美羽はそれ以上聞く事もなく、手を取るよりも先に秋人の首に巻き付いた。その反動で倒れそうになるもののしっかりと受け止める秋人は巻き付いてきた美羽をしっかりと抱きしめると、耳元で話し出した。


「美羽?これは後者を選んだって事でいいの?」

「秋人…ッ」

「聞かせて?」


そう言いながら秋人はゆっくりと美羽の体を離し、零れ落ちる涙を拭うと頬を包み込む。そのままコツリと額を合わせ、美羽の返事を待った。


「好き…」

「聞こえない…」

「好きよ…」

「…聞こえない」


そう言いながらも秋人はゆっくりと美羽の口唇に近付いていく…


「…意地悪……」

「知ってるくせに…」


そう言い終わると、ゆっくりと…ふわりと2人の口唇は触れ合った。少しして離れると角度を変えて秋人は再び重ね合う…


チュ…・・チュク…

     チュ…ン…・・・クチュ…


少しずつ深さを増しながら、秋人は美羽をベッドの波に押し倒す…何度となく重ね合い、吐息が漏れ、2人の唾液も混じり合う頃…秋人の携帯はヴヴっと秋人を呼んだ。しかし無視をしながら目の前の美羽の事だけ感じていた。


「ンァ…ン」

「…美羽…」


口唇は首筋へと降り、指を絡め合い、ペロリと舌を這わせる。秋人の舌先の動き、指使いの1つ1つに美羽の体と心は敏感に反応を示す。体を起こし、美羽の体もまた起こすと、服を脱がせ、器用にブラのホックも外す。


「あ…きと」

「ん…?」


恥ずかしさから俯く美羽…顎を持ち上げ顔を上げると再び口唇を重ねる。舌を割り込ませ、絡み付かせながらも、秋人は美羽の腕を自身の首に促す…2人の距離が近付いた時、秋人の右手は美羽の胸をとらえた。


「ン…ッ」

「かわいい…」

「そんな事…ない」

「それは美羽が気付いてないだけ。」


そう話しながら体を離すと秋人も自身のTシャツを脱ぎ去る。パサリと床に落ちる…仕事柄、この1週間であっても何度見た秋人のセミヌード。しかし、今はまた、状況が違っている…カチャリとベルトも外すと美羽の上に戻ってくる。


「待った?」

「…ッッ」

「なぁに?美羽、どうした?」


恥ずかしさのあまりに口を閉ざしてしまう美羽。そんな相手を見て秋人は美羽の耳元に口唇を寄せて、耳たぶを甘噛みしながら。話し出す。


「素直になっていいんじゃね?」

「秋人…」

「俺は美羽を感じたいけど?」


そういう秋人の首に、今度は美羽自身の意思で腕が回る…そのまま秋人は美羽の胸に顔を埋め、胸にある固くなり始めている突起を口に含む…カリっと甘噛みをしては、お乳を飲むように吸い付いたり…弄ぶかの様に少しずつ、確実に美羽の反応を支配していく…腰をなぞり、太ももに手が降りた瞬間だ…


「ァア…ン…」

「…クス…かわいい…」


美羽の反応が大きくなった所でするりと1度、下着の上から秘部をなぞる…両足を閉じようと必死の美羽の足を広げる秋人はその間にするりと身を入れた…


「秋…と…ァン…」

「閉じちゃだめ…こんなに濡らして…」


ツーッと指でなぞる秋人の焦らし方に声が出そうになるも、口を塞ぎ、我慢する美羽。その手を払い、秋人は意地悪そうに切り出した。


「声…我慢しないでいい…」

「ンァ…アア…ハァハァ」

「もっと聞かせて…?」


そんな秋人の声は美羽の耳、遠くに響いている…気付けば美羽の右手は自身の秘部に移ろうかとしていた。それに気付いた秋人はフッと笑う…


「美羽…だぁめ…」

「秋……人…ぉ…」

「ん?」

「…シて?」


潤んだ目と甘くなり始める声をもって美羽は秋人に視線を送る…その目にドクリと心を高ぶらせた秋人。しかし、もう少し…と自分に言い聞かせながらも美羽の自慰を止めた。


「美羽…だめ…」

「秋人ぉ…ンァ…」


『だめ』と言いながらも、太ももに焦らすように口唇を寄せながらもわざとリップ音を鳴らしながら優しくキスを落としていく…その度に美羽の声は徐々に甘さを増していく…するりと下着を降ろすと、すでに美羽の愛液は溢れ蕾近くまで濡れていた…そっと指ですくい、ペロリとそれを舐め取る秋人…


「美羽…?感じ過ぎ…クス…」

「…やぁ…恥ずかしい…ょ…」


そういう美羽の言葉と裏腹に秋人は両足に顔を埋めて、舌を出す…次の瞬間…美羽は甘美の声を上げた…


「ァア…や…ぁ…ンアァ」

「嫌じゃないだろ…?こんなに濡らして…」

「ンンァア…ハァハァ…」

「美羽…すがるのそっちじゃない」


シーツを握りしめる美羽の手を取り自身の腕に巻きつかせる秋人…キュッと掴みながら美羽は知らず知らずに腰を震わせている…室内には、美羽の甘美の声と秋人が起こす、愛撫の水音が響いていた。


クチュ…チュ…クチュクチュ…


      ンァア…ッッ…ンフゥ…


大きく膨らんだ美羽の秘部に実る固くなったそれを口に含んだ瞬間だった…美羽の腰は今まで以上に大きく跳ね上がる…


「ここ?…気持ちいぃ?」

「ん…ンァ…」

「…クス」


美羽の感じる部分を見つけた秋人は執拗にその場所を攻める…舌先で愛撫を続けると背中を反らし、腰を跳ねさせながら美羽は絶頂を迎える…その様子を見て秋人は要約離れて、愛液で塗れた口唇を指で拭った。


「大丈夫か?」

「ン…ン…」

「美羽…?」

「秋人…ぉ」


珍しく美羽から秋人を引き寄せて口唇を求める…それに乗るように秋人もキスを落とす…幾度も舌を絡めていると美羽から秋人に口火を切る…


「秋人…」

「ん?」

「あのね…?」

「何?どうした…?」

「…・・しぃ…」

「ん?」


美羽の言葉を聞こうと耳を寄せた秋人はすぐにそれを後悔した…


アキト ガ ホシイ……


聞きたかった言葉だったものの、ただ今はその準備が無い…迷った秋人。そっと体を重ねて戸惑いがちに話し始めた…


「ごめん…俺…今持ってない…」

「…ふぇ?」

「ゴム…だから…」

「あ…そっか…」


互いの間に少しの間があった…しかし時期に美羽はするりと手を伸ばす…その伸ばした先には秋人の大きく膨れ上がった一物だった。


「美…羽?」

「秋人の事…させて?」

「でも…」

「シたい…」


珍しく焦りを隠せない秋人と先程まで『いや…』と照れていた美羽の思いがけない申出…しかし秋人の体は心以上に正直だった。パンツを降ろすとパンパンにボクサーショーツは大きくなっている…そっと触れると温かく、固くなっている…


「おっきぃ…」

「…美羽…本当に無理しなくていい…」

「無理してないよ…?」


そう言いながらも露わにして上下にゆっくりと動かしていく美羽…丁寧に、キュッと絞り上げるように…秋人の声を聞きながら愛おしむ様に愛撫を返す…


「ンァ…美羽…だ…めだ…」

「秋人…?気持ちいぃ?」

「…ンァ…ハァハァ…ダメ…だ…離れろ…」

「え?」


動かすのを止めないで居た美羽に向けて秋人の一物からはドクリ…と白濁とした欲望と種が吐き出される…驚きながらも手のひら一杯に吐き出されたそれをみて、美羽はどことなしか嬉しかった。力が抜けた秋人は『ごめんな…』と謝っている…促されるままにその種をふき取り、処理をすると、美羽は秋人の横に寝転がった。そんな美羽をそっと抱き寄せる秋人…


「ごめんな…なんか…汚しちゃって…」

「そんな事ない…秋人も…気持ちよくなれた?」

「あぁ…」

「ならよかった…」

「クスクス…」

「秋人?」

「いつの間にか『さん』が完全に取れてるな」

「あ……」

「気にするなって…そうだ…」


そう言いながら秋人はベッドを降り、デニムのポケットから小さな袋を取り出した。そのまま美羽に手渡すと再度ベッドに上がり方を抱き寄せる…


「何?これ…」

「誕生日プレゼント。大したものじゃないけど…」

「開けていい?」


『どうぞ』と言わんばかりに小さく頷いた秋人を見て、美羽は封を切る。中からはピンクゴールドの細いブレスレットだった。


「いいの?」

「気に入った?」

「うん!」

「良ければ着けて?」

「ありがとう…大事にするね?」

「うん」

「秋人…誕生日って…」

「10月6日…言っとくけど何もいらないからな?」

「え…」


一瞬にして拒否を示す秋人。しかし、すぐにその意図は判明する。


「もう俺は先渡しでもらってるみたいなもんだから…」

「秋人…?」

「こんないいプレゼント貰ってる」


そう言いながら再度美羽の上に覆いかぶさり口唇を重ねた…そうして互いの肌のぬくもりを纏いながら、2人は眠りに就いた…・・

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