第6話あざと女子、SATSUKI降臨

それから何も起きる事もなく、無事にと言わんばかりに日々が過ぎて行く。そうしてやってきたロコ・ロカの雑誌撮影の日がやってきた。この日もいつも通りに迎えに行く美羽。気持ちはどことなく落ち着かなかった。マンションの下で落ち合い、生田に指定されているホテルに向かった。ロビーで生田とも集まる事も出来た。控室として部屋が用意されていると言われ、秋人は先にそちらに入っていてもらう事にした。


「すみません、SATSUKIさんの方が道路が混んでいて少し遅れそうと連絡が入ってきていまして。」

「そうでしたか…解りました。」


そうして予定時間から15分が経った頃。SATSUKIとマネージャーはホテルに着いた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、無事に着いてよかったです。」

「あの、お初にお目にかかります。私、榎本秋人の新しいマネージャーを務めております。葛城美羽と申します。」

「宜しくどうぞ。」


そうして挨拶も済ませて早々にその場に居たスタッフと美羽、SATSUKIとそのマネージャーが部屋に向かった。するとそこにはもう秋人が来ていた。美羽は秋人に近付き遅れた訳を説明している。


「どうせそんな事とは思ったけど…」

「はい…待たせてしまって…」

「大丈夫。でも、美羽はどうする?」

「どうするって…」

「男性禁制に撮影中なるけど…ここで撮影見てくかなって…」

「そっか、…じゃぁ居ますよ。お仕事ですし…」

「…ん、解った」


そうして着替えも終わり男性は秋人以外退室を命じられる。残った女性チームと美羽、そして当人だけとなる。ワンピースに身を包んだSATSUKIとTシャツにジーンズと至ってラフな格好の秋人。その二人が都内のSランクホテルの中でも最上級のエグゼクティブスウィートの部屋を一室丸々貸し切っての撮影だった。テーブルとソファに座っての撮影から始まり、シャンパングラスごしのキス…そうしてベッド脇へと移動してのスタンドキス…そして互いの服を脱がせながら、まるで本当の恋人同士の愛し合う様子の中に自分たちが居るかの様に錯覚し始めてきたスタッフも居た。美羽はくっと息を飲み、逸らしたくなる目を凝らし、張り裂けそうな心を落ち着かせながらそんな2人の様子を見ていた。


「ヤバい…超エロい…」

「でもキレイ…」

「ほんと…」


そんなスタッフの声が時折美羽の耳にも聞こえてくる。そうこうしながらも一旦カメラのシャッターを止めて、体の位置、そして口紅の引き直し等をし、2人とも完全に一糸纏わぬ状態での撮影になった。


舌先で相手を愛し、指で誘う…


瞳は潤んで、声や吐息が熱を帯びる……


そんな撮影を目の当たりにしたスタッフも何名かは体の疼きを我慢しきれなくなりそうにまで居た。


「ヤバ…私濡れてきた…」

「シー…でも実は私も…」

「でもあの2人…本当に付き合ってる時あんな感じだったのかな…」

「想像したくないけどキレイだもんね…」


そんな声を目の当たりにする美羽。平静を装うも、しかし心は今にも張り裂けそうだった。それでも長時間に渡る撮影を全て見ている。

一旦休憩を挟んで浴室の撮影に移る事になる。ドリンクを貰い、バスローブを着たままある一定の距離を保ったまま秋人とSATSUKIは同じ空間に居た。


「きれいだったよ?SATSUKIさん」

「本当ですかぁ?嬉しい!ありがとうございます!」

「本当本当!感じちゃうよ!きれいすぎて!」

「もう、セクハラですよぉ?」


くすくす笑いながらも話している。そんなSATSUKIを横目で見ながら秋人はため息を吐いていた。


「秋人さん?疲れました?」

「いや、大丈夫。心配しなくていい。」

「それならいいですけど…」

「…美羽……」

「はい?」

「…後で話がある…」

「なんですか?今でも大丈夫ですけど?」

「後で話す。」


そう言い残して一旦トイレに向かい、出てきて時期に浴室でのシーンとなる。シャワーに濡れた2人の写真や、浴槽に浸かる2人。乾いたベッド上のシーンとはまた打って変ってエロさを増していた。首筋に顔を埋める秋人や髪をクシャリと掴むSATSUKI…様々ありながらもカメラマンと企画長の要望に的確に応えていく。

どのくらい経ったか、カメラマンの『OK』の声に全ての撮影は終了した。それぞれ着替えてその場での解散の形を取ろうとしていた。ロビーまで来た時、SATSUKIのマネージャーは仕事の打ち合わせという事もありその場には居なかった…挨拶が出来なかったと淋しそうな美羽に仕方ないと伝える秋人が居るものの、『部屋に忘れものした』と伝えて一旦部屋に戻る事にした。


「じゃぁ私、ロビーで待ってます…」

「解った。」


そうして秋人は用意されていた控室に戻った。部屋の中に忘れた携帯の回収も無事に済んだ後、部屋を出ようと戸を開けた時だった。


「秋人…」

「さつき?」


そう…そこにはさっきまで一緒に撮影していたSATSUKIが居た。ドアの中に再度押し込められた秋人。その中にSATSUKIも入る。


「ちょっと待て…さつき…」

「ちょっと話がしたいの…ダメ?」

「マネを待たせてる…」

「探しものが見つからないって事でいいじゃない…」

「…ハァ…5分しかないからな?」


そうして秋人は座る事なくSATSUKIの方を見た。


「それで?話って何?」

「…さっき……何も変わってなかった…」

「何が?」

「キスするときの癖…触ってくれる指…」

「さつき、俺らは…」

「終わってるのは解ってる…」


そういうとドンっと壁に押さえつけるようにSATSUKIは秋人に巻き付いた。


「終わってるのも解ってる…でもまだ好きなの…私は…秋人が好き…」

「さつき…」

「さっきの感覚…秋人がくれた感覚で濡れてるのだって解ってるでしょ?ドキドキだって…」

「話はそれだけか?」

「行かないで…」


そういいSATSUKIは秋人の両足の間に自身の足を割りいれる…シャツの裾から手を入れながら、秋人の右手を取り自身の胸に誘う…


「もう1度抱いて…?」

「…さつき…」

「キスして…もっと触れて…秋人を感じたい…」

「…フ…」


小さく笑うと秋人はフッと力を抜いた。その次の瞬間にSATSUKIは耳を疑う事を秋人は言い放った。


「俺を抱きたければ抱けばいい。だけど俺はさつきを抱かないからな?」

「あ…きと…?」

「キスしたいならすればいい。俺の手をどう使おうと好きにしろ。その代り俺の意思はないからな?」

「どうして?」

「好きじゃねぇんだよ…さつきの事…」

「どうして?あんなに好きだって言ってくれたじゃない…」

「あの時は俺もガキだったから…今思えば好きだって勘違いしてたのかもしれない。」

「私は秋人の事が好きよ?」

「だから言ってるだろ…ン…」


秋人の言葉も途中でSATSUKIは秋人の口唇をふさいだ…片方の手で秋人の手を取り自身の胸に押し当てながらももう片方でSATSUKIは秋人のパンツの上から一物に触れる。しかし秋人にその反応はなかった。ふと口唇を話すと唾液が混じり合い、銀糸が2人を繋いでいる。しかしやはり秋人は手を出そうとしなかった。


「解ったろ。俺はさつきに愛情はない。」

「……秋人…」

「…ハァ…この部屋、まだ後処理に使うなら鍵置いてくから。フロントに返しといて?」


そう言い残して秋人は衣服の乱れを整えるとSATSUKIを残してパタンと静かに部屋を後にした。その場に座り込んだSATSUKI。その目からは涙が溢れていた。その頃の美羽はあまりにも遅い秋人の帰りにきょろきょろとあたりを見回していた。


「…見落としちゃったかなぁ…」

「誰探してんの?」

「あ…!きとさん!びっくりした。」

「悪い、遅くなって。」

「本当ですよ…心配したじゃないですか…」

「クス、行くか」


そうして美羽と一緒に秋人はホテルを後にした。車を出した後、美羽は秋人の言っていた事が気になっていた。


「そういえば秋人さん、その」

「うち、よってけ」

「はい?」

「落ち着いて話がしたい。」

「…でも…」

「なにか問題でも?」

「いえ…」


そうして美羽は秋人の家に向かった。外からは見えないセキュリティは万全のマンションというのも解っているもののやはりマスコミの存在を気にしてしまうのだった。そうして沈黙のまま2人は再度、秋人の家に帰る事になった。


「失礼しまぁす…」

「何をいまさら…どうぞ?」

「…はい…」


美羽は緊張し始めた。ほぼ半月ほど前に秋人にキスをされた場所だった。あの時は気付かなかったものの自身の恋心に気付いている今となっては緊張以外の何物でもなかった。


「座って?」

「…はい…」


そうして徐に秋人はコーヒーを煎れはじめた。そうしてコトッとテーブルに置くと少し距離をとって座った。


「あのさ、話…なんだけど…」

「はい。」

「…何て言ったらいいのかわかんないけど…」

「はい…」

「…そうだ、それより仕事は…どう?」

「別に特に変わりはありません…」

「そっか…」

「…はい…」


何とも煮え切らない2人の会話。1つため息を吐くと美羽の方を見るのと同時に秋人は美羽を抱き寄せた。


「…あの…!秋人…さん?」

「…少しだけ…でいいから…」

「あの…風邪ぶり返しましたか?」

「風邪は治ってるし、熱のせいじゃない…」

「じゃぁ…あの…!」

「…好きなんだ…と思う…」


その告白を言うのが必死だった秋人。ドクンと胸は高鳴った美羽。しかし何とも言えない気持ちになっていた。体を押し戻し、美羽は俯いたままゆっくりと話し出した。


「今日の撮影で…恋しくなったんですか?」

「…は?何言って…」

「相手が私でちょうどいいって…」

「美羽?」

「この間だっていきなりキスして…抱き締められて…好きとも何とも言葉がなくて!いきなりするだけしたら謝るし…かと思うと次逢ったらなんかすごい平気な感じだし!!私の気持ちなんて…社長もそうだけど秋人さんも身勝手すぎますよ!」

「ちょっと待て、美羽…」

「好きだって気付いて、でも私はマネージャーで…なのにそんな直後に元カノとのいちゃつく撮影持ってきちゃって…それなのに社長にもおんなじようにされて…私良く解んなくなるし…」

「美羽っ!!」


ぴしゃりと名前を呼んだ秋人。そっと頬を伝う涙を拭いながら優しく美羽を見つめた。


「悪い…俺の言い方が悪かった…」

「秋人さん…?」

「美羽、俺は…」


そう話している最中に秋人の携帯が鳴り響いた。しかし出ようとしない秋人。一旦切れてはまた鳴り出す。


「私はいいから…出て?」

「…ハァ…もしもし?」

『…私…さつき…』

「今取り込み中だ。切るぞ?」

『待って?1つだけ…』

「後にしてくれ」


そういい無下にも秋人は切った。その直後に美羽を腕の中に抱き入れる。


「まって…」

「…ツッ」

「平気な訳…ねぇだろ…俺だって何であんな事…わかんねぇんだよ…でもどうしても離したくなかった。むちゃくちゃだって思うかも知れないけど…」

「だけど…秋人さん…『かも』ってあやふやにしたって事は違うかも知れないてことでしょ?」

「…ッッ……・・好きだ…」


小さくぽつりと呟いたその告白があやふやな気持ちではなく、まっさらな秋人自身の心と繋がった。そっと体を話して頬を包み込むと秋人はゆっくりと顔を近付けて美羽の口唇へと自身のそれを重ねた。


「それで…?美羽は俺の事どう思ってる?」

「私…は…」

「答えて?」

「こんな、まだそんなに時間なんてたってないし…それが本当かとかも解らないし。」

「そんな御託は要らない。美羽の心が知りたい。」

「…ッッ」

「…どう?美羽」

「……っ好き…ッ」


ゆっくりと…緊張が震える口唇を伝わって来る…それは以前のような強引な物ではなく、ただ愛おしさだけを詰め込んだような…甘い物だった。それに答えるかのように美羽もまた秋人の背中に腕を回した。

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