第8話

 やっとの思いで森についた頃には東の空はすでに明るくなっていました。


 一生懸命に走ってきたネズミが少し疲れたので小さな石を枕にひと休みしようとしたとき、どこかで、バサッ、バサッ、と奇妙な音が聞こえました。


 ネズミは、身を縮めてあたりの気配をうかがい、草の間から音のする方をのぞいてみます。


 するとそこには、罠にかかってしまった大きなタカのもがき苦しむ姿があったのです。


 ネズミはしばらくその様子をうかがってから恐る恐るタカのそばに近づき、


「タカさんどうしたんですか?」


 のどがつまるような声でたずねました。


 タカはいまにも死にそうな声で、


「うっかりして猟師の罠にかかってしまった。君の丈夫な歯でなんとかこのロープをかみ切ってくれないか」


 と、ネズミにたのみました。


「おやすいご用です」

 そう言うとネズミはタカの足もとにうずくまり、ガリガリとロープをかじりはじめました。


 ネズミの丈夫な歯にかかったらロープなんてひとたまりもありません。


 罠から放たれたタカは大きな体をゆすりながら、何度も礼を言いました。


「ありがとう、ありがとう。おかげで助かった。ところで、おまえはこのあたりじゃ見ない顔だが……」


 ネズミは、この森に来たわけのすべてをタカに話しました。





「よし、わかった。助けてくれた礼に、この森でおまえたちを守ることと引越しは、この俺がひきうけよう」





 それをきいたネズミは大喜びで仲間たちの待っている農家に向かって、いちもくさんにかけ出しました。





 屋根裏にもどったネズミは、今日あった出来事の一部始終を仲間のネズミに話ました。すると、仲間たちはたいそう喜んで、手をつないでまるくなり、





 ヤレ、引越しだ、ドンドコドン


 ソレ、引越しだ、エンヤコラ


 ヤレ、引越しだ、ドンドコドン


 ソレ、引越しだ、エンヤコラ





 と、楽しそうに歌をうたいはじめました。





 朝早くネズミたちが引越しの用意をすませて畑の囲いの所まで行くと、すでにタカが柵の1番高い所にとまって彼らが来るのを待っていました。





 そのタカの足には、昨日のロープがダラリと垂れ下がっていました。





 タカをはじめて見たほかのネズミたちは、一瞬驚いたようすで目をまるくし、どうしたらいいものか顔を見あわせるのでした。





「さあ、早くこのロープにつかまりなさい。グズグズしてると猫のやつがやって来るぞ」





 9匹のネズミたちが順番にロープにつかまると、タカはいきおいよく空に向かって飛び立ちました。





 下を見ると、だんだん家や畑が小さくなっていきました。





 すると畑の柵のところで悔しそうな顔をしてネズミたちを見上げている猫の姿がありました。





 子ネズミたちは落ちないように母さんネズミの背中にしっかりつかまっています。





  はじめて空を飛んだネズミたちは、いままでに見たことのない景色に興奮して、





  ヤレ、引越しだ、ドンドコドン


  ソレ、引越しだ、エンヤコラ


  ヤレ、引越しだ、ドンドコドン


  ソレ、引越しだ、エンヤコラ





 と、歌いはじめました。

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