第5話

 お月さんのひとことで忘れていた空腹感が思い出されると、とても我慢ができなくなりました。


「ここにはキビ団子しかないけど、よかったら好きなだけお食べなさい」


 うさぎは、お月さんにお礼をいおうとするのだけれど、どこにも姿はありませんでした。


「お腹は空いてるんですが、わたしがキビ団子を食べてしまうと、あとでお月さんが困るんじゃないでしょうか?」


 お腹はぺこぺこでしたが、うさぎはお月さんのことを気にかけます。


「いいのよ。なくなったらまたこしらえればいいのよ。キビならウラの畑にいっぱいあるから」


「ウラ? ウラって何ですか?」


 うさぎはお月さんのいっていることがさっぱり理解できません。


「うさぎさんは知らないかもしれないけど、私には決して誰にも見せない場所があるの。それはこの真ウラにあって、あなたの住んでいる星からは絶対に見えない場所なの」


「えッ! そんな場所があるんですか?

「あるのよ。いい? この月という星も、あなたが住んでる星と一緒で、まあるい玉になっているの。だから当然のこと、表もウラも上も下もあるの。キビ団子のキビは、そのウラでこしらえてるのよ、わかった?」


 うさぎははじめて知った事実にただ目を丸くするばかりでした。


「お月さん、わたしをここに置いてもらうわけにはいかないでしょうか?」


 手を合わせて頭を下げます。

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