第23話 最後の切り札

「これ何かわかるか?」夏輝の目の前にボトルの瓶を見せる。

「酒がどうしたんだよ!」久海を見る夏輝の表情が少し変わった瞬間だった。


「石田からこのバーのこの酒がうまいって聞いて今日の昼間に少し抜け出して飲みに来たんだ。確かにうまかった。」と言いながらボトルを机の上に置く。「俺に何の関係があるんだ。何もないなら帰るぞ。」


「だから!まだ終わってねぇーって言ってんだろ!!」足早に歩いていた夏輝の背中に久海の鋭い声が突き刺さる。その声にややびっくりして夏輝が立ち止まった。


「ボトルを開けて酒を飲もうとしたらさ。蓋の裏にこんなものを見つけたんだ。これなんだかわかるか?」ビニールに入った小さなものを夏輝の目の前に持って来た。

「………SDカード…か…」夏輝の目が徐々に大きく見開いた。


「ピンポーン!この中には写真や音声ファイルが保存されていた。これを署に持ち帰って分析してみたら面白いものが出て来たよ。」と携帯のファイルを開いて夏輝の耳元にかざした。数秒後から音が聞こえる。


「この前羽月からある写真と記事を見せられた。俺らがこの薬を売ってる写真だ。それに親父の写真もあった。羽月はそれを使って俺を脅してきやがった。自首しないならこれをマスコミに持って行くってな。あいつは消さないと…。」車の後ろの座席で夏輝が仲間と電話している時の会話内容が保存されていた。


「これは石田が俺らに教えてくれたお前らの悪事の証拠だ。これでお前を逮捕できる!」久海は夏輝に強く言い放った。


「ふざけるな!捕まってたまるか!」そういいながら夏輝が久海にナイフを持って殴り掛かってくる。そのナイフの動きに集中してスルリとかわして足でナイフを持っている左手首を蹴り上げた。ナイフが宙に舞ったと同時に久海の右ストレートが夏輝の頬にヒットした。


その勢いで夏輝の手を掴んで床にねじ伏せる。残りの仲間たちはいつのまにか古来と鈴道が確保していた。


「悪あがきはここまでだ。国保夏輝!お前を傷害殺人の罪で逮捕する!

話はまた後ほど署で詳しく聞くから覚えておけ!」夏輝の両手に手錠をかけながら久海は夏輝を立ち上がらせた。


力の抜けた様子で首をだらりと倒した夏輝が不気味に笑い出す。

「これで終わったと思うなよ…ハハハハハ」


_______________________________翌日__________



「ちょっといいかな。」前触れもなくドアが開いた。

久海はデスクワークをしていたり鈴道はパソコンの前にいたり、

古来はコーヒーを飲んでいた。


「おはようございます。植村部長。朝からどうされたんですか?」

自分のデスクにいた城戸が歩み寄る。


「君たち、昨日国保玄樹さんのご子息である国保夏輝さんを逮捕したそうじゃないか?」植村部長はこう質問する。「そうですが、何か問題でも?」城戸はすかさず部長にこう投げかけた。


「問題大ありだよ。すぐ釈放しなさい!あれほどこの事件からは手を引けと言っただろ?どうして続けた?」植村は大きな声を張り上げながら問いただす。


「目の前に犯人がいるからです。事件には大きい小さいもないですし、身分が高い低いも関係ない。罪を犯した者は法の裁きを受けるというのが当然です。」城戸が冷静に答えを返す。


「…時には例外もあるんだよ!今すぐ釈放の手続きをして釈放しなさい。」植村は一方的にこう言い放った。


久海が机をドンっと叩き立ち上がる。「植村部長、あなた何のために警察官になったんですか?上の顔色を伺うため?出世するため?違いますよね?あなたが守るべき者は誰なんですか?」スパッと言い切った。


「……………うるさい!黙れ!!」大きな声が部屋中に響いた。


_____________コンコンコン


「ちょっといいかね。」ドアの方を見てみると見慣れない60代くらいの男性が立っていた。


注目が集まった次の瞬間、誰もが絶句した。「………国保玄樹さん」

目の前には国保夏輝の父親であり社長である国保玄樹がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る