第20話 血は繋がっていなくても…

「まずは鈴道くんから聞いて来た事実を報告していきましょう。」城戸がその場を取り仕切る。


「報告します。監察医の笹原先生に話を聞いてきました。新たに塩化ナトリウムなどの涙に含まれている成分が見つかったそうです。しかし、それだけでは証拠として薄いのですが、鑑識の坂本さんから涙の成分以外にも服のシワに隠れて少量の血痕とDNAが見つかったそうです。」声を高らかにしながら鈴道は調べて来た一連のことを報告した。


「それって誰の血痕とDNAかはわかってるのか?」古来が鈴道に尋ねた。

「いいえ、まだです。国保夏輝がよくつるんでる友達や周辺の人物から当たってみようかと…」まるで鈴道の言葉を遮るように久海が言葉を放った。


「石田且馬のDNAを最初に調べてもらえませんか?」

「どうして石田なんでしょうか?」城戸が久海に尋ねる。



「石田は幼い頃から国保家で暮らして来て2人とは兄弟のように過ごして来た仲です。だから、国保玄樹や夏輝への恩義も感じているはずです。でも、彼には国保親子のような冷酷な雰囲気は感じなかった。これはあくまで僕の推理ですが、石田は国保親子に逆らうことができなかったが、弟同様に暮らして来た結城羽月さんを殺すこともできなかった。最初に殴ったのは石田で、2回目に致命傷を負わせたのが夏輝本人だとしたら最初のためらい傷にも納得が行きます。それに石田は右利きです。石田は、兄弟同然に育った羽月を夏輝に言われるがまま殴ったが、とどめまではさせなかった。新たな証拠として発見されたDNAが石田のものだと証明されれば、殺される前に近くにいたのは石田且馬の可能性が高くなります。」久海は悔しい気持ちを言葉に込めながら語った。


「その可能性はありますね。じゃ俺が…」と古来が立ち上がった瞬間、「いや、俺に行かせてください!DNAを任意で提供してもらえるように話してきます。それに、石田且馬の本当の気持ちも聞いてみたいんです。お願いします!」久海が3人に向かって頭を下げる。


城戸は古来に目配せをしながら心の中で『いいか?』と尋ねる。古来は、軽く頷いた。「じゃ、久海くん宜しくお願いします。」「はい!」


_________________________________次の日の朝・早朝6時



「石田且馬さん…ですよね?」石田の前に久海が現れた。

「あっ、この前の刑事さん」と言ってから石田が久海を無視して走り出す。


「ちょっと待って下さい。話を聞かせてほしんですけど〜」と言いながら走っていく石田を追いかける。「話すことはありません。」走るスピードを早める石田をよそに久海は話を続ける。


「石田さんには、なくても俺にはあるんです。この前殺害された結城さんのことです。」スピードをぐんぐんあげる石田の後ろにピタッと張り付く。


「ズバリ聞きますけど…あなたも…通り魔のメンバーにいますよね?」石田は急に方向を変えて少し入り組んだ道に入る。後ろを振り向き着いて来てないことを確認してホッとした目の前に久海が現れる。「急にルートを変えるのは反則ですよ」久海は余裕の表情で石田に話しかけた。


「そして、結城さんを最初に殴ったのもあなたです。違いますか?」久海はどんどんストレートに質問を投げかけて行く。「………」何も言わず石田はまた走り始めた。


「証拠はいくつか上がっているんですが、それを証明するためにあなたのDNAを提出してもらえませんか?」再び石田は方向を変えてスピードを上げる。久海は、走る石田の横を得意のパルクールを駆使しながら先回りして石田の前に立ちはだかった。


「もう我慢するのやめませんか?」少し強い口調で久海は石田に語りかけた。石田はハッとして肩が少しビクッと動いたのかがわかった。


「確かに母親と2人だけの家族だった石田さんにとって国保玄樹さんは、恩人であり、国保夏輝は兄貴のような存在であったかもしれない。そうであったとしても結城羽月さんを殺していい理由にはならないですよね?幼い頃から一緒に過ごして来て兄弟同然だったという話を聞きました。そんな羽月さんを襲ったんです。いくら国ほな月の指示だったとは言え、許されることではありません。それはあなたもわかっているはずです。だから、あなたはためらった。」その言葉を聞いた石田が素早く下をうつむく。


「これはあくまで俺の推測です。1度めに殴ったのは石田且馬さん、あなただと俺は考えています。あなたは、国保夏輝に言われるがまま結城さんを襲いました。でも、殺せなかった。あなたには、家族を思う心があり血は繋がっていないかもしれないけど、結城さんを思う気持ちがあった。それを見て焦った夏輝があなたを跳ね退けて、再び結城さんを殴ったんです。あなたの目の前で…。その傷はその時に負ったものじゃないですか?あなたはその手で結城さんの袖口に触れたのではないかと俺は思いました。しかし、それを証明するものが今のところないのが現状です。俺は、大切な家族であり弟であったはずの結城羽月さんを手にかけた国保夏輝、そんな息子をかばおうとしている国保玄樹、そして自分の気持ちを押し殺してあの2人に従っているあなたのことがどうしても許せないんです!だから、お願いです!DNAを提出してもらえませんか?」一生懸命涙ぐむように石田に向かって話しかける。いつしか石田も走ることを忘れて下を向きながら泣いていた。


5分、10分……どれくらいの時間が流れたかわからなかった。

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