第16話 犯人との接触

疑う気持ちを一旦鎮めて夏輝本人からも話を聞く。

「羽月さんは、夏輝さんの弟さんで間違いないですか?」古来が改めて色んな意味合いを込めて確認する。


「はい、結城羽月は、間違いなく僕の弟です。離れて暮らしているのでなかなか会うことはありませんが、たまに会ってバーに行ったり、飯を食ったりはしていました。つい三週間ほど前も2人でバーに行ったばかりなのに…」と言いながらまた泣き始める。


呆れた気持ちを隠しながら古来は質問を投げかけた。

「そうなんですね…ところで、恐れ入りますが、夏輝さんは事件発生当日の10時から2時頃までの間はどこで何をされていましたか?」


「その時間帯なら…行きつけのバーにいました。バーのマスターに聞いてもらえればわかります。」と自分のアリバイを語る。


「ちなみにそのバーの名前を教えてもらえませんか?」「名前は…ユニバースと言うバーです。」古来と久海は、その名前をメモする。


「わかりました。お忙しいところ申し訳ありませんでした。ありがとうございました。」と古来と久海は立ち上がる。「もう大丈夫なんですか?刑事さん…僕らにできることがあったら何でも協力します。絶対羽月を殺した犯人を捕まえて下さい。宜しく御願いします。」と勢い良く立ち上がって古来と久海に向かって頭を下げる。


「はい、わかりました。絶対…何が何でもこの一連の事件の犯人は俺たちの手で捕まえます。」と夏輝の目を見据えて久海は宣言した。夏輝は静かに一礼をし、古来と久海はその場を後にする。ドアを静かに締めて二人は、何かを悟ったかのような目で事件の解決を改めて強く心に誓った。


広い社長室の中にドアの締まる音が鳴り響く。「やっと行ったね。あいつら」仮面が一枚剥がれたかのように夏輝が一言つぶやく。


「全くどこまで困らせれば気が済むんだ。…植村の奴には連絡をしたのにまさか警察が来るとはな!」国保は、電話を取り出して植村と言う人物のスマホに連絡をしようとする。


「植村さん、さっきあなたのところの刑事が2人、私のところに来ましたよ。特別機動捜査班とかなんとか言いましたかな…あれだけ念を押したのにどういうことですかな?」冷静だが、意味深な言葉で相手を警醒する。


漏れ聞こえて来る声は、あたかも焦っているような声色だった。電話を切り、再び夏輝の前に父親である国保が座る。


「体外にしろよ。あまり目立つことをすると私も手に負えなくなるぞ。」低い声色で夏輝に告げる。「ありがとう、お父さん。良い度胸だよね。上の言いつけを無視して親父に会いに来たんだろう?あいつら。やるじゃん。俺は嫌いじゃないけどね。あーゆー勢いがある奴ら。でも…捕まるわけにはいかないんだなー。俺が掴まれば父さんも終わりだからね。そうでしょ?」不適な笑みを浮かべながら父親である国保を見据えてこう言い放った。


まるで父親を脅すような口調は、父親を父親とも思っていないほど冷酷でバカにしたものだった。「じゃ、俺店戻るから。あとは宜しくね〜」ただ実家に来て帰る子供のような軽い言葉を残して夏輝は、社長室を後にする。


夏輝が帰った後、父親の国保は、秘書である石田を呼びつけた。「…石田、これからずっと夏輝のそばについていろ。あいつを見張るんだ。」と告げたのだ。


「はい、かしこまりました。」石田は、夏輝の後を追いかけて行った。


社長室に残った国保の悔しそうな表情と「くっ…」という声と拳を強く握る音だけが広がっていた。


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