第15話 本当…もしくは嘘…

久海の脳裏に被害者の恋人である麻生さんが見せてくれた3人の写真が浮かんのだ。


石田と名乗る男の後ろを歩きながら久海は古来の肩を軽く叩く。

「なんだよ。」と少し鬱陶しそうな表情を浮かべた古来に小声でこう伝えた。


『この石田っていう男、3人の写真の中で一番右側に写ってた奴に似てませんか?』


古来は、改めて思い返しながら写真の人物と目の前を歩いている石田という男の面影を重ね合わせた。…確かに似ている、その瞬間、古来もハッとしたような表情になったが、一旦冷静さを取り戻した。


長く続く廊下を進んでいくと目の前に濃い茶色の大きなドアが目に入った。ドアには、ゴールドのネームプレートが掲げられており、社長室と書かれていた。


コンコン…石田が大きなドアを2回叩く。「どうぞ」中から男性の声が聞こえた。


ドアを開けて3人は部屋の中に入る。「社長、失礼します。お二人をお連れました。」石田が深々と頭を下げながら伝える。


恰幅の良い男は、大きな椅子に座って窓の外を見ていたが、二人が来たことを伝えるとくるりと椅子ごとこちらを向き直った。


「君たちが特別機動捜査隊99班の二人かね。」穏やかな口調で話しかける。古来と久海は、自己紹介を始めた。「初めまして、警視庁から参りました。特別機動捜査隊99班の古来と申します。」「初めまして、同じく久海と申します。」一通りの挨拶を済ませる。


男はすくっと座っていた大きな椅子から立ち上がって挨拶を始めた。「どうも、私はこの会社の社長である国保玄樹だ。よろしく。」堂々とした口調で言葉を発した。


国保に座りたまえと促された2人は、近くにあるソファーに腰掛ける。石田は、コーヒーの準備のため一旦席を離れた。早速、古来が話を切り出す。


「国保さんは、結城羽月という男性をご存知ですか?」慎重な面持ちで質問を投げかける。「あー、私の2番目の息子だ。まさか死んでしまうなんてな…」と国保は静かに言葉を続けた。


「息子さん、誰かに殺害されたようなんですが、何か心当たりなどはありませんか?人間関係とか仕事でのトラブルとか…」久海は探るように国保に尋ねた。


「さぁな…あいつは、私の言いつけを守らずに勝手に出て行ってしまった。フリーライターなどという人の粗を探すような仕事をして…家を出て行ってからもう8年近くも顔を合わせていない。」その言葉の中には、息子を失って悲しい父親の姿よりも自分の思い通りにならなかった息子への怒りが込められているようだった。


社長からの所以なのかそれとも息子を失っても何も感じないほど感情が欠落しているのか、或いは自分のことしか見えなくなるほど傲慢な人物なのか…国保玄樹という人物像が見えずにいた。


すると、ドアの向こうから…コンコンとドアを叩く音がした。


「誰だ?」と国保社長がドアの向こうの人物に問いかける。

「俺だよ。父さん。入るよ。」と言いながらドアが勢い良く開いた。それと同時にある男性が勢い良く社長室へと駆け込んできたのだ。


「石田から聞いたんだ!羽月が死んだって…殺されたって本当かよ!?」国保社長につかみかかるようにしながら言葉を発した人物は、秘書である石田に止められた。


「落ち着いて下さい。警察の方も来ています。ひとまず座りましょう。」そう言われながらソファに座るように促される。その顔を見て古来、久海の表情が一変した。

「もしかして…あなたは…」と質問をしようとした言葉を遮るように目の前の男が話し始めた。


「すいません。取り乱してしまって…俺は、国保夏輝といいます。国保玄樹は俺の父であり、羽月は……俺の弟です。」と悔し泣きのような表情を見せた。


しかし、古来と久海の目には、国保夏輝のこの感情や姿が本心から沸き出ているもととは到底思えなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る