第9話 偶然の再会

鑑識である坂本の案内で監察医の先生がいる部屋に向かう。

「監察医の先生ってどんな人ですか?」久海が坂本に尋ねる。

坂本は、後ろを振り返り軽く笑った。


久海の頭の中には、クエスチョンマークが一気に増える。『何なんだ…』久海の気になると居ても立っても居られない気持ちがうずく。


「久海くんだっけ?交番勤務から特別捜査機動班ことSMITに異動早々濃い事件に出くわしたね。」どこか楽しんでいるような優しい口調で久海に声をかける。


「ですね。今までニュースとかで見てた事件ですけど、まさか自分が関わることになるとは思いませんでした。そして…事件に出くわすとこんなに悔しくてムカついて…ん〜なんていうかとにかく…早く解決してあげたいって思います。」警察官として事件に対する悔しい思いと被害者を思いやる優しい思いを感じ取れる口調であり、言葉だった。


「そういえば、久海くんって強盗を捕まえたことがきっかけでSMITに抜擢されたんだよね?」


「えー、そうみたいです。でも、俺ただの交番勤務で犯人捕まえたことなんてあの強盗事件しかなくて…俺正直何で警視庁の特別捜査チームに抜擢されたのかどうしてもわからなくて…」と城戸から教えてもらった説明に納得いっていないような様子を示した。


「そうなんだ…おっ、着いたよ。ここの部屋だ。」坂本がコンコンとノックをした。中から「はーい、どうぞ」という50代くらいの男性の声が聞こえた。


坂本がゆっくりとドアを開けて中の様子を伺うような体勢になった。「先生、今少しいいでしょうか?通り魔連続傷害・殺人事件のご遺体について質問があるという人を連れて来たんですが…」と慎重に奥にいる男性に問いかけた。


すると男性は、「あー、いいよ。入りたまえ」とだけ答え、「どうぞ」と坂本に促されるまま部屋に足を踏み入れた。「失礼します。僕は一昨日から異動で参りました。久海桜風と申します。宜しく御願い致します。」と久海が頭を下げる」


しかし、奥の方ではくすくすという複数の男性の笑い声が久海の耳をかすめた。正直気分はあまり良いものではない。人としてのマナーを守っているというのに笑うなんて失礼だと思った。自分の姿をくすりと笑う先生とやらの姿を見てやろうと顔を上げようとした瞬間…。


「久しぶりだな、桜風」と親し気に久海に話しかける声がした。


久海が不審に思って顔をあげるとそこには、どこか見覚えのある顔があった。

「やっぱ覚えてないかな。俺だよ。笹原流義だ。お前の母さんの弟の…」と笑顔で久海の肩を大きく叩いた。


「あー!!!おじさん!?何でここに?もともとここにいたの?」久海は焦る頭をなんとか落ち着かせようと努力するがなかなかうまくいかないものだ。


「数ヶ月前に警視庁の方に移動になって今は、ここで監察医をしてる」と笹原は、大きなテーブルの周りに置かれた椅子に座った。「にしても、ちょっと見ないうちに大きくなったな。今や警視庁で働く警察官か…。」と感慨深い口調で言葉を続ける。


坂本も微笑ましく2人のやり取りを見守っている。「やっぱり先生と久海くんは家族だったんですね。家族だけあってどこか似ているところがありますよ。」と言いながら2人の顔を見比べる。「じゃあ、あの噂も本当ですか?」久海はすかさず「あの噂って?」笹原のハッとしたような様子を久海は見逃さなかった。


「俺が上にかけあって桜風を警視庁異動にしてもらったんだ。」気まずそうな口調で笹原が久海に伝える。久海はびっくりしていつもなら着いて出る言葉も出て来ないほどだった。「…だから、交番勤務の俺が警視庁の特別捜査に加わることができたのか…」と落ち込んだ様子を見せた久海に笹原が言葉を添える。


「確かに俺は、上にかけあってお前を警視庁に抜擢してもらえるように言ったが、桜風の活躍と市民に寄り添おうとする優しい志しを見て、上からの異動命令が下ったんだ。決して、俺の一言でではないことだけ覚えておけ。」まるで久海の性格を知っているように厳しくも優しく告げる。


しばらく黙り込んでいた久海が「わかったよ。ひとまずそれは置いといて、この前置きた連続通り魔傷害・殺人事件の被害者について聞きたいんだけどいいかな?」


気を取り直して事件の概要を聞き出そうとする久海の目には、キラキラとした光のような輝きの瞳と犯人を絶対見つけてやると言う執念、そして悔しい思いが久海の身体から滲み出ているようだった。

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