第7話 事件への不信感
署に戻った3人は、調べた結果と流れを城戸に報告する。城戸も今回のこの事件には、違和感を感じていたのだ。
ただちに捜査会議が開かれた。古来、久海、鈴道は自分の席について前には大きなホワイトボードが準備される。
「今からもう一度事件を整理してみましょう。」城戸が今までの事件の情報をまとめたものを参考にしながら会議が始まった。
「それじゃ、まずは事件から振り返ってみよう。事件が発生したのは、今から約1ヶ月前のことだ。人通りの少ない道でアルバイト帰りの男性が後ろから頭を一発殴られて倒れていた。早朝に発見されて、事件が発覚した。彼は、重体にまで陥ったが命に別状はなく、今も入院している。事件現場には、犯人に繋がる手がかりはほとんどなかったが、被害者の身元がわかるものはいくつか残されていた。」捜査資料を見ながら城戸が事件をさらりと説明する。
「次は、俺が説明します。」と古来が立ち上がった。城戸は「えー」といって古来の席に代わりに座る。「事件発生は、最初の事件からちょうど1週間後、被害者は女子大学生、友達と遊んだ帰り道で自転車に乗った黒尽くめの4人組に襲われた。彼女の家は、事件発生現場から近かったらしく傷を負いながらも自力で母親に電話をして早く救急車と警察を呼んでもらうことが出来た。一つめの事件同様、犯人に繋がる証拠はほとんどなかった。彼女は、退院はしたが、まだ恐怖が拭いきれずに自宅療養中だ。」と悔しそうな声色が伝わってくる。
「次は私が説明するよ。三件目の事件は、1週間程前に起こった事件で被害者は、仕事帰りのサラリーマン。酔っぱらって歩いているところを後ろから襲われ、倒れていたところに近所の人が通りがかって通報してもらえた。犯人の証拠はなし!被害者の持ち物は、全てが残っていて物取りの犯行とは断定しにくいものだった。入院はしたものの命に別状はなく、今もまだ退院までは至っていないそうです。」と鈴道が力強く事件の概要を説明した。
「いつ聞いてもひどい話だよ。」とため息を1つついてまた話し始める。
「そして、今回の事件か…」ホワイトボードに新たな被害者の写真と事件の概要が加えられた。久海は、すくっと立ち上がり「僕が説明します。」と先陣を切る。
「被害者の名前は、結城羽月さん27歳男性、職業はフリーのジャーナリストです。昨晩遅く人気のない場所で何者かに襲われて亡くなっています。犯人はもちろん、被害者に繋がるものがほとんど残されていませんでしたが、カバンの中に唯一残されていたレシートから鳥見山出版という出版社に出入りしていたことが判明しました。そこで、彼の恋人でもある麻生水琴さんにお話を伺うことができました。事件発生の昼間も彼に会ってランチをしていたそうで、その時、彼は妙なことを言っていたと…」
『ランチを食べて会社の前で別れる直前、『これから忙しくなる、もしかしたら当分会えないかもしれない。でも、心配するな。落ち着いたら連絡するから』って言ってました。』
「…という話でした。その後麻生さんの案内で被害者の自宅を尋ねたところ、室内が誰かに荒らされており、明らかに何かを探していたような形跡が見られました。取材資料やノート類が一部盗まれていました。鑑識を呼んで調べたましたが、痕跡がなく、不信な指紋は採れませんでした。その場所で、2つ発見した物があります。1つめは、この1枚の写真、小学生くらいと思われる3人の男の子が写っています。真ん中の男の子は、ぬいぐるみを持っているのですが、そのぬいぐるみがこれです。」と久海は写真を示す。
「これは、被害者である結城さんの部屋にあったぬいぐるみです。しかし、被害者の部屋はザ・男性というようなシンプルなインテリアでした。にも関わらず、可愛いぬいぐるみが不釣り合いに感じたので気になって調べたところ、背中の当たりに四角い形をした物を見つけたので鑑識にまわして調べてもらっている最中です。そして、そのぬいぐるみはこの写真の男の子が持っている物と同じなんです。麻生さん曰く、真ん中の男の子は被害者の結城羽月さんであるとのことでした。以上です。」と説明を終えて久海は、自分の席に戻る。
城戸が再び立ち上がって場の雰囲気をまとめようとした。「手口の似た4件の事件だが、先に起こった3件は、重体、重傷、重傷で命は落としていない。どれも被害者に繋がる物がそのまま残されていて、犯人に繋がる物はほとんどない状態だった。しかし、今回の事件は、手口は一緒だが、被害者の結城さんは死亡、被害者に繋がる物は1つもなく、犯人に繋がる物も1つもなかった。と…なんか引っ掛かりますね。この事件…」と考えるような表情になった城戸の目に映ったのは、自分と同じ表情をしている久海の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます