第6話 幼少期…1枚の写真

久海は写真を見つめて『真ん中の男の子はおそらく被害者の結城羽月さんだろうな…じゃぁ、両脇の2人は…?』と思っていると、後ろから「真ん中は、被害者の結城さんだな」という古来の声がした。


久海は、ハッと驚いたように立ち上がる。程なくして鑑識官がマンションに到着したという連絡が入った。


鑑識官が数人入り、指紋などの痕跡がないか徹底的に調べた。しかし、見事なまでに徹底されており、痕跡がほとんどといっていいほど見つからなかった。久海は、何か腑に落ちないことがあるような表情をしていた。


集められた結城さんの私物の前に立ち、1つ1つを確かめるような気持ちで見つめた。『たくさん散乱する物の中で、唯一事件の手がかりになりそうな物と言えば、数冊の取材ノートと写真、そして……』久海の頭の中で何かがピンと甲高い音を立てた。


「古来さん!ちょっといいですか?」久海は、突然大声を出して古来を呼んだ。


「どうした!何か見つかったか?」古来は、久海の元に駆け寄って来た。

古来に写真を見せてこう続ける「この写真の真ん中の男の子が持っているこのぬいぐるみ、これじゃないですか?」どこか古びたような年期の入ったぬいぐるみを古来之前に示す。


「あーそのようだな、真ん中の男の子は、結城さんで彼にとってそれだけ思い出が詰まったぬいぐるみなんだな」と思いを馳せるような声色で古来はつぶやく。


「いや、違うんです」久海は、古来の言葉に反論するように言葉を発した。

「!!何が違うんだ?」少し強めの口調で古来が久海に投げかけた。


「このいかにも男性が住んでいるようなシンプルな部屋にこのぬいぐるみだけ変じゃないですか?浮いてるっていうか、マッチしてないっていうか…」と考えているような表情と口調で古来の質問に答える。そう言いながら久海は、ぬいぐるみを両手で押しながら何かを確かめているような行動を取った。


「アッ!」現場に衝撃が走る。「ぬいぐるみの中に何か入ってる!」久海はぬいぐるみの背中部分を押し示しながら言った。よく見てみると背中部分には、一度背中の糸を切って開き、また縫い合わせたような痕跡があった。


「ぬいぐるみを鑑識にまわして最優先で中のものを取り出してもらおう」古来は、そう声をあげた。


一通りの現場検証が終わり、唯一の手がかりになりそうな写真を持って再び麻生に話を聞こうと鈴道と被害者の恋人である麻生が待っている別室に2人はやってきた。


鈴道の横で彼女は肩を震わせながら泣いていた。その姿には、悲しみと一緒に悔しさも混じっているように見えたのだ。古来と久海はそっと2人のそばに近づいて言葉をかける。


「麻生さん、お辛いところ申し訳ありません。もう1つだけお伺いしても宜しいでしょうか?」古来がそう尋ねると「はい」とだけ言葉を発した。


恋人が殺害されて亡くなった事実をさっき知り、今も思い出のたくさん詰まった彼の部屋にいることはどれだけ辛いだろうと久海は感じた。それでも自分たちに協力してくれようとする彼女の姿勢が嬉しくもあり、頼もしくも見えた。


古来は、さっきの写真を見せながら「もしかしてこの写真に見覚えはありませんか?」麻生は手に取りながらじっくりと眺める。


「真ん中はたぶん羽月だと思うんですけど、脇の2人は見たことありません。」目を潤ませてまぶたを腫らしながらも力強く答える麻生がそこにいた。


「そうですか、ありがとうございます。また何か思い出したりしたらいつでも連絡ください」と古来は自分の名刺を麻生に渡した。麻生は受け取ると「宜しくお願いします。必ず犯人を捕まえて下さい」と力強い口調で深く会釈をしてパトカーで送られながら帰路についた。


古来、久海、鈴道の3人もひとまず署に戻ることにした。

久海の心の中で違和感と同時に何かのしこりが大きくなっていくようだった。

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