第5話 幸せそうな1枚の写真

4人を乗せたエレベーターが徐々に上がって行き、チンと高い音を鳴らしながら3階で止まった。エレベーターのドアが開き、麻生の案内でゆっくりと結城の部屋に向かう。


「ここの部屋です。」一番端にある301号室の前で足を止めた。

麻生は、持っていた合鍵をドアの下にある鍵穴の中に入れる。すると、ハッとしたように動きが止まった。次の瞬間…。


「………開いてる」とかすかだが小さな声でつぶやいた。


古来は、咄嗟に彼女を自分の後ろに押しやり、「鈴道っ!」と言って、少しドアから離れた。古来と久海は、唯一の武器である警棒を取り出して、いざという時に備える。カシャン!2人の警棒を振って出す音が響いた。


もしかしたまだ中に誰かがいるかもしれない。あるいは犯人がいるかもしれない。そんな思いを抱きつつ、じんわりとドアノブを回してドアを開ける。先に古来が中に入り、次に久海が続いた。鈴道と麻生は、安全が確認出来るまで待機だ。


慎重にそっと壁際に背を向けて様子を伺いながら一歩ずつ中に侵入する。途中にあるトイレや洗面所、お風呂も念入りに確認しながら確実に一歩一歩と歩みを進める2人。そして、あるドアの前に辿り着いた。古来が先頭に立ってドアノブを掴み、久海を見て軽くうなづく。


と、次の瞬間ドアノブを捻ってドアを勢い良く開いた。


そこに広がっていたのは、散乱した書類やノート、取材をするために集めた資料が入っているファイルなど部屋の中にあるありとあらゆる物が散らばっている様子だった。それらを踏まないように寝室らしき部屋やベランダも確認して回る。


「異常なし!」と古来が言うと、久海も「異常なし…」とつぶやいた。


古来は、安全のために外に待機させていた鈴道に「もう入って来て大丈夫だ。」と電話をする。鈴道は、麻生を守るような形でそれでも慎重に古来たちの元にやって来た。佇む2人の前に現れた鈴道と麻生は、部屋の様子を見て言葉を失った。


「なっ、なんだよ…これ…」鈴道が驚いたように言葉を放つ。麻生は、ただ口を手で覆いながら涙を浮かべていた。


「ひとまず鈴道は、麻生さんと一緒に違う部屋で待機しててもらえるか?」古来は、そう伝えて鈴道に彼女を任せた。班長に電話を入れて、鑑識などを要請してもらった。その間2人は、ぐちゃぐちゃになった部屋を慎重に捜索し始めた。


部屋の中には、仕事をする時に使う大きな机とソファー、ダイニングテーブルなどが置かれており、いかにも男の部屋と言う感じだ。そこには、取材の資料やノート、写真などが散乱していた。寝室にも、服や小物などが散らばっており、いかにも何かを探していたと言う雰囲気だった。


「フリーのジャーナリストだけあって取材ノートや資料がほとんどですね。」久海が古来に話しかける。


「そうだな。かなりこと細かく事件を追って裏を取るタイプのみたいだ。」と古来が久海に見せたノートには、取材内容がびっしり書き綴られていた。「すっげぇ、にしても何を探していたんでしょうかね?こんなに荒らして…。」「うーん…取材ノートは何冊か揃ってない番号もあるみたいだ。」と古来が順番通りにノートを並べる。


その中の1冊から何かがひらりと落ちた。


「何だコレ…写真…か?」古来は、写真をじっと見つめた。そこには、小学校の低学年くらいの3人の男の子が楽しそうに写っていた。


「ちょっと見せてもらっていいですか?」久海は、写真を持って考え込んでいる古来に声をかける。写っていたのは、3人の男の子で年齢は小学校に入学したばかりのような雰囲気だ。可愛い笑顔が印象的で、真ん中の男の子はぬいぐるみを握っていた。

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