第3話 通り魔事件の違和感
3人は、勢いよく車に乗り込む。運転席に乗った古来がすかさずアクセルを踏んだ。
警察のサイレンと共に車が、走り出す。
現場に向かう途中、古来と鈴道が連続通り魔事件の概要を久海に話し始めた。
始まりは、ちょうど一ヶ月前のことだ。
人気のない道を歩いていた男性が、黒い自転車に乗った4人組に後頭部を棒のようなもので殴られ、意識不明の重体にまで陥ったというものだった。
現場には、被害者の持ち物はそのまま残っているが、犯人の痕跡はほとんどなく、今に至っている。その後も、二つの事件が起こるが、犯人に繋がる手がかりは見出せていないと言う。
この事件は、今、特別捜査機動隊99班の抱える事件の一つであり、解決するために動き続けているという話だった。
無差別に人を狙う何とも許しがたい事件である。久海は、思わず拳を強く握りしめて、握りこぶしを作った。スピードとサイレンの音を鳴り響かせながら、車は、いつのまにか電話にあった事件現場に到着した。
現場には、数台のパトカーと野次馬が何人か集まっていた。古来たちは、車を止めて現場に小走りで向かう。
3人は、警察手帳を見せて立入禁止の黄色いテープをくぐり抜けた。
事件現場の検証を終えた検視官に許しを得て、被害者の元に向かう。そこは、人気の少ないトンネルのようになっている場所で、日中は、明るさもあるが夜になると街灯があまりなく、危険な雰囲気を感じる場所だった。
古来と鈴道は、事件現場を見て少し驚いた面持ちで、検視官に話しを聞く。どうやら現場にうつ伏せになって倒れている人物は、男性で、20代後半〜30代前半。後頭部を鉄パイプのような物で強打されて亡くなっているという。
「亡くなってるんですか?殺人…」古来は、何か違和感を感じているような考えているような表情になった。
「どうしたんですか?古来さん」久海がその表情を敏感に読み取り、古来に問いかける。しかし、口を開いたのは、鈴道だった。「さっきも話したじゃない?連続通り魔事件の話し。シチュエーションも襲い方も一緒なのに、1つだけ違うところがあるんだよ。」鈴道も違和感を感じているようだった。
すかさず久海が「どこが?」と続ける。
「今までの事件は、後ろから棒のような物で頭を打って一撃で重傷を追わせてるけど、命までは奪ってないのに、今回は、重傷じゃなくて重体でもなくて完全に殺人。そして、被害者に繋がる手がかりがほとんどといって良いほど残ってないんだ。残っていると言えば、このカバンくらいだね。」鈴道が違和感の理由を久海に話した。
古来は、しゃがみ込んでご遺体の様子を細かく観察していた。「橋本さん、害者のカバン見てもいいですか?」検視官に話しかける。
青いビニールシートの上には、被害者のカバンが置いてあった。中は、ほとんど空の状態だったが、カバンの内ポケットに白い紙らしきものが見えた。
「これ何でしょう?」久海が白い手袋をつけた手を白い紙に伸ばす。どうやらレシートのようだ。そこには、147円のコーヒーが1つだけ計算されていた。『コーヒー1つだけか』久海は、疑問に思った。
「古来さん、このコンビニのレシート。普通コーヒー1個だけって遠くのコンビニまで行ったりしないですよね?」古来に問いかける。
「最寄りの駅とかでふと飲みたくなった時には、コーヒー1個だけでも買うんじゃないか。」古来は、久海にこう返した。すると「あの、このコンビニ行ってみませんか?」久海は、唐突にこう言葉を発した。
古来と鈴道は、きょとんとしているところにまた久海が言葉を続ける。
「もしかしたらコンビニに何かヒントがあるかもしれないじゃないですか?行ってみましょう。」声を高らかにした久海につられて、古来は、思わず首を立てに振ってしまった。
現場から車で約15分ほどの距離に目的のコンビニはあった。そこは、サラリーマンの多いいわゆるオフィス街。目の前には、背の高いビルが建ち並ぶ。その中で、レシートの住所を元に3人は、コンビニを探した。
レシートに印刷されている住所に向かうとそこには、ビルの1階に入っているコンビニがあった。早速、店員に事情を話して、レジの記録から確認させてもらう。確かにそこには、レシートと同じ記録が残っていた。
「あの、このコーヒーを1本だけ買ったお客さんのことって何か覚えてたりしますか?」古来が店員に話を聞こうとする。
「いやー全く覚えてませんね。コーヒー1つだけ買いに来るお客さんも多いし」それもその通りだと古来は思った。すると、鈴道が声を上げる。
「この防犯カメラの映像見せてもらうこと出来ますか?」
鈴道は、レジ前の天井から吊るされているカメラを指差して店員に尋ねた。
「え、えー」少し戸惑った様子で店員が答える。
コンビニのバックヤードに移動して、レシートの時間の前後の1時間の映像を確認する。レシートに記載されている時間が近づいて来たと思った次の瞬間、コンビニの来店のコールが鳴り、1人の男性がコンビニに現れた。被害者だ。
「この人だ!」という久海の声と共に3人は、その映像を食い入るように見つめる。
5分ほどしたら、被害者の男性がコーヒーを片手にレジにやってきた。コーヒー1本の会計を済ませて出入り口から外に出た。
滞在時間およそ5分、しかし、確かに被害者はそこにいた。
「もう一度巻き戻してもらえますか?」久海の巻き戻しをお願いした。店員がその声に驚き、巻き戻す。「ストップ!」再び久海が声をあげる。
「ちょっとコレ見てください。何か封筒のような物を抱えているように見えませんか?」と言いながら、久海が被害者の手元を指差した。確かに、何かを抱えているように見えた。
「ん?これ何か書いてないか?」古来は、封筒の下の方を指差してつぶやいた。
次の瞬間、鈴道の方を向いて「広瀬、これもっと鮮明にできないかな?」と尋ねる。
鈴道は、いたずらっ子のような笑みを浮かべてこう放った。
「まかせといて!」席を立ち、再び車に戻ったと思ったらノートパソコンを抱えて戻って来た。
「ちょっと失礼〜!」と言いながら店員と席を変わってもらい、持って来たUSBをコンビニのパソコンに取り付ける。映像をコピーしたのだ。しばらくしてUSBを抜き、自分の持って来たパソコンの脇に繋げる。
USBに保存した映像を出して、被害者がレジに立ったところで映像を止めた。鈴道は、コンピューターに強く、映像分析も得意分野の1つだ。映像を鮮明化して、封筒の文字を読めるようにしたのだ。そこには、ある会社の名前が記されていた。
『________鳥見山出版』確かにそう読めた。
早速、携帯電話で鳥見山出版の位置を確かめると、そこは、ちょうど向かい側にある大きなビルの中にあった。
早速3人は、コンビニの防犯映像を持って出版社に向かった。自動ドアを開けて受付に向かって足を進めた。
鈴道が持っていたiPadに入れた映像を一時停止させ、受付の女性に見てもらった。
「あー、この男性は、確か編集部の麻生さんと一緒にいるところよく見かけます。」と、証言してくれた。「お手数ですが、その麻生さんに会うこと出来ますか?」古来は、受付の女性に頼む。
ほどなくして1人の女性がエレベーターから降りてこちらに向かって歩いて来た。
「初めまして。麻生水琴と申します。結城くんに何かあったんですか?」泣きそうな不安そうな表情で、古来たちに問いかけた。
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