『アカネ』
アオイさんの産んだ卵は、うちに二個振り分けられた。
卵は全部で八つだったということだから、本来ならうちに振り分けられる分はないか、来ても一個だけだったのを、ヨウコさんが無理矢理押し切ったという話だった。
相当コウちゃんのことを気に入ったらしい。他の家で育ったとしても、コウちゃんの見た目は変わらなかったはずだけれど、験を担ぎたいのかもしれない。
そしてさっそく、ヨウコさんから金魚鉢が二鉢、送られてきた。
「気が早いなあ」
わたしは早々に段ボール箱の蓋を閉じ、ガムテープを貼り直し、届いたときと同じ状態に戻した。それをよいしょと抱え込み、庭の物置へと運び込む。同様の段ボール箱が所狭しと積み上げられているそこへ、新たに一つ追加した。
わたしの水槽も、ここにある。
真四角の、すべて透明なケースだ。
用意してもらったはいいものの、孵化したわたしは無精卵で、尾鰭はなく、二本足でぺたぺた歩いたので、水が張られることはなかった。子どものわたしは、ヨウちゃんの家でヨウちゃんが水槽に入れられているのを見た。自分も水槽に入ってみたいと母に駄々をこね、この物置にしまわれていたその水槽を引っ張り出してもらった。
母に掬い上げられ、わたしは水槽の中に入った。
「わあ」
そう言った声がこもって響いて、わたしは何度もわあわあと叫んだ。
走り回って、すぐにガラス面に頭をぶつけては笑うわたしを、母ははらはらしながら見ていたことだろう。
「出れない! 全然出れないね!」
ばんばんガラス面を叩いてはしゃぐわたしを、母が複雑そうな顔で見下ろしていたのを、なんとなく覚えている。
懐かしくなって、少しだけ近くの段ボールを漁ってみたけれど、すぐに無理そうだと諦めた。
その足で買い物に出かけ、封印した金魚鉢の代わりに洗面器を二つ購入した。
「ねえ、これどうかな」
「ん? ああ、いいんじゃない、脱走しやすそうで」
意見を求めると、金たらいに腕をかけたコウちゃんが適当な言葉を返して寄越した。
「ねえコウちゃん」
「なに」
「今度、一緒に海を見に行かない?」
コウちゃんが不思議そうにこちらを覗く。
「いいけど。海ってなに?」
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