第38話 エアたびガール 京都編
すっかり「エア旅」の虜になっている茉莉と涼乃は、次の目的地を探していた。
「次は涼乃が行ってみたいところ決めなよ」
「いいの?えーっと、じゃあ京都でも見てみよっか。ここからだと大体三時間くらいね」
もはや距離の遠さにも慣れてしまっているようであった。
「京都なら涼乃が好きそうなところいっぱいありそう」
「そうね、伏見稲荷とか清水寺、金閣寺銀閣寺とかのメジャーなところはもちろん、平安神宮、貴船神社とかも外せないし、それに加えて……」
「ストップストップ!とりあえず一つずつ見ていこう?ね?」
「……ちょっと取り乱しちゃったけど、とりあえず伏見稲荷大社からかしら。一回行ったことはあるけど、あそこの景色は圧巻よ」
すると茉莉のスマホに一枚の写真が送られてきた。そこには、大量の鳥居が映っている。涼乃の言う通り圧巻だった。
「これ、全部鳥居?」
「そう、境内には大体一万基もの鳥居があるわ、江戸時代以降に鳥居を奉納する文化が始まったとされるの」
「これ、私も奉納できるの?」
「21万」
「え」
「一番安いサイズで大体21万ね、大きいのだと160万」
「今のところは遠慮させていただきます……」
「でも、その奉納の文化でここまでの迫力のある鳥居ができたんだよね」
「それは素直にすごいと思う……」
「ちなみにここは全国各地にある稲荷神社の総本宮ね」
「あの、たまにお参りするところの?」
「そう、あそこ。分社の数も多いから、神社とか、神様とかを詳しく知らない人でも所縁はあると思うわ」
「それで、その伏見神社は京都のどのあたりにあるの?」
「南の方。大体の有名な観光地が北にあるから、先に寄っちゃうのも手ね」
「それじゃあ、北にある観光地はどんなところがあるの?」
「一番……とは一概には言えないけど、有名なところでは清水寺かしら」
「あの、舞台から飛び降りるところ?」
「その認識は改めた方がいいかもしれないけど、まあ大体あってるね。ご本尊は十一面千手観音菩薩じゅういちめんせんじゅかんのんおんぼさつ。」
「せ……なに?」
「まあ観音様でいいわ。人々の苦しみの声を聞いて、救いをくれるとか」
「ありがたいの?」
「ありがたい」
「じゃあ、行くしかないね」
「ちなみにバスで少し行けば八坂神社や祇園の街並みがあるよ」
「今祇園の写真見てるけど、着物を着てる人がちらほら……」
「茉莉もレンタル着物とか着れるんじゃないかしら」
「え!?着てみたいかも!」
「京都に行ったら一緒に着て街を歩いてみましょうか」
「それいいね!」
「もちろん、下履きは下駄ね?」
「え」
「当たり前でしょう?着物に運動靴とか、風情のかけらもなくなっちゃう」
「よく下駄とかはけるよね……足痛くならない?」
「慣れよ、慣れ」
「涼乃強い……」
いつもの頼りになる涼乃が、より一層頼もしく見えた。
「話それちゃったけど、次はどこいこっか。涼乃のおすすめは?」
「うーん、言い出したらきりがないのが本音だけど、下鴨神社とかかな」
「そんなところがあるの?」
「うん、位置的には清水寺や八坂神社よりも北。普通に京都駅からバスで向かえる」
「京都もバスの交通網が発達してるっていう点は似てるんだ」
「そうだね、ちゃんと一日600円の乗り放題券も売ってるわ」
「お得だね」
「でお、夏場は気を付けた方がいいかも」
「なんで?」
「夏場ってさ、熱いよね。特に京都みたいな盆地は」
「うん」
「それで夏ってさ、夏休みもあって観光客が殺到するよね」
「うん」
「新幹線で観光してくる人はさ、京都ではバス使うよね、私たちも」
「うん……あ」
「気づいた?」
「めっちゃ暑い中めっちゃ混雑しためっちゃ暑いことになるかも……?」
「そういうこと。夏に行くならこまめな水分補給をしましょうね」
「そうだね、えと、下鴨神社の話をしてたんだっけ」
「そういえばそうだったっけ」
「勧めた涼乃が忘れないでよ」
「ごめんごめん、下鴨神社はさっきも言った通り京都の北にあって、ご祭神は賀茂建角身命かもたけつぬみのみことと玉依媛命たまよりひめのみこと。賀茂建角身命は世界平和をはじめとするいろんな神徳を、玉依媛命は縁結び、安産、育児とかのご神徳があるって覚えておけばいいわ」
「とりあえずはなんとなく世界平和と縁結びの神様ってことでいいのね」
「そうだね、茉莉にお勧めできるのは、そのご神徳もさることながら、境内の雰囲気がとってもいいの。神社が森に囲まれてるからとっても荘厳な感じ。こればっかりは言ってもわからないから、いずれ一緒に見に行こうね」
「うん!ちょっと興味沸いてきたかも!」
「ほかにも国歌で有名なさざれ石とかもあるし、言い忘れてたけどそもそも世界遺産に登録されてるからその興味に応えるだけのスポットになってると思う」
「伏見稲荷と清水寺、下鴨神社ときて……次はどこにいこうか」
「茉莉の興味があるところでいいよ」
「うーん、じゃあ金閣寺!」
「金閣寺だと……うん、京都駅からバスが出てるわね、金閣寺・烏丸北大路行って書いてあるし、多分乗るバスにも迷わないはず」
「ホントだ、金閣寺道バス停から歩いてすぐのところにある」
「正式名称は『鹿苑寺』、その中でも舎利殿(仏の遺骨を安置するお堂)金閣が有名だから金閣寺、って呼ばれてるそうね、中は日本庭園みたいになってて、金閣以外にもいろんなスポットがあるからゆっくり楽しむのがおすすめかも。もし興味をもったなら金閣寺の公式サイトにある『境内案内』ってところで詳しく見るといいわ」
「歴史とか調べてみたら楽しさも増すかな?その……ろく……なんだっけ」
「鹿苑寺ろくおんじね。その寺社にまつわる歴史とか、何が祀られているかとかを調べるのもそのうち面白くなってくるし、何より行った時の楽しさは段違いだと思うわ。個人差はあると思うけどね」
「よし、じゃあ本当に京都へ行くことが決まったら、行きたいところの情報もっと調べて楽しむことにする!」
「その時になったら手伝うわ」
「やった、涼乃みたいに知識がある人が一緒にいれば安心だね!」
「私が知っている範囲ならいろいろ教えてあげる。……けど、私も知らないことはたくさんあるから、そういうのがあったら投げ出さないで一緒に調べるんだよ?まあ現地で知るっていうのも全然アリだけどね」
「うん!あ、お夕飯に呼ばれたから今日はここまでにしよっか」
気づけば空は透き通ったオレンジに染まっていて、茉莉の心を暗くさせていた雨雲も、気づけばどこかに姿を消していた。
「うん、また暇になったら電話してね」
「電話だけじゃなくて、また会えるといいね」
「そうだね、そのためにも今は、お家にいましょ」
「ちょっと寂しいけどそうするしかないね、そうだ、ねえ涼乃」
「ん?」
「次は、どこへ行こっか」
たびガール 諏訪いつき @Itsukisuwa
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