第37話 エアたびガール 北海道編
自粛期間中、あまりに暇になった茉莉と涼乃は、観光地を調べて回る「エア旅」を続けている。
「次はどこ行こうか、茉莉」
「もうここまで来たらうんと遠くへ行きましょ!北海道とかどうかな?」
「北海道ね……さすがに飛行機を使いましょうか」
「……それ、片道おいくら?」
「えーっと、4万円あれば足りるわね」
「……っ……まあそんなもんか」
自分が言い出したことではあるが、片道にかかる値段が半端ではないので一瞬声が出なかった。
「それと、北海道内を回るのに……プラス1万くらいは必要かしら」
「そんなにかかるの?」
「茉莉、北海道の大きさ舐めてるでしょ」
「そんなに大きいの?」
「北海道南端寄りの函館って都市から北海道最北端の稚内までの距離が紀伊半島の最南端から能登半島の最南端くらい」
「ほえ?」
思わず変な声が出た。言葉の意味を自分の体で再確認する日がたまにあるが、今日は「開いた口が塞がらない」の意味を再確認する日らしい。
「だから、北海道全体を周るとなると現実では一週間とかを覚悟した方がいいわね」
「でも今日は?」
「移動時間がないからいくらでも時短できるわ。好きなときに帰ってこれるしね」
「それがエア旅のいいところだね。じゃあとりあえず、どこの都市から行く?」
「新千歳空港から近……くはないけど一番近い札幌はどうかしら」
「そこらへんは涼乃に任せるよ」
「じゃあ、札幌からね。札幌……とは言わず北海道全体でも言えたことだけど、やっぱり雪の降った時期に行きたいわね」
「札幌で雪……と言ったらやっぱり『さっぽろ雪まつり』とかかな?」
「やっぱりそれが一番かしら。いろんな雪像が展示されていたり、冬の北海道の味覚も味わえるみたいね」
「札幌……と言えばラーメンかな?いくらとカニもいいかも!」
「いきなり食欲旺盛になったわね……」
「さっきの金沢のお話でちょっと火が付いたかも」
「まあ、お腹いっぱいで幸せになるのもいいかもね、金沢と同じで海も近いから美味しい海の幸もたくさんあると思うわ」
「んんん……めっちゃカニ食べたくなってきた」
自分のお腹が鳴った気がした。今日の晩御飯は何だろうか。
「札幌はグルメだけじゃなくて計画された都市としての一面もあるわ。時計台とか、クラークの銅像とかが有名ね。近くには山もあって、ロープウェイで展望台まで上がることができるみたい」
「札幌は整った街だって聞くし、夜景も綺麗そう!」
「うん、札幌は『日本新三大夜景』に認定されているし、きれいなのは確かね。あとで調べてみたら写真とかもネットに上がってるんじゃないかな」
「後で調べてみるよ、でも、やっぱり本物を見たくなっちゃうんだろうなぁ」
「その本物が恋しくなる気持ちも、エア旅の醍醐味かしら」
そう言った涼乃の声は弾んでいた。
「そうしたら次は……函館かな?」
「函館……もやっぱり夜景が有名だね。こっちは『世界三大夜景』とか『百万ドルの夜景』とか言われてるわね」
「札幌とはスケールが違う……」
「函館の夜景は茉莉も見たことがあるんじゃない?」
「ああ、あの北海道の首のところの?」
「……多分茉莉は勘違いしてるわ。あれは地図だとわかりにくい小さい半島のところが夜景になってるのよ」
「え゛」
「北海道の大きさを舐めないことね。さて、函館と言えばほかにも五稜郭とか、路面電車とか、赤レンガ倉庫とかがあるわ」
「どれも魅力的……赤レンガ倉庫って、横浜にもあるやつ?」
「そうっぽいね、昔の函館では海運業が栄えてて、それに利用されてたみたい。いまはお店に代わってたりするから、それも横浜と似てる。もちろん夜景もいい感じに映えるわ」
「どの都市も一日ずつ回って夜景見て……って感じがいいのかな」
「そうかも。ほかに北海道で気になるところは?」
「えーっと、旭川とか?動物園が気になる!」
「旭川と言えばやっぱり動物園かな。あとは……自然に囲まれてるから景色がとってもよかったり、スキーが盛んだったりするみたい」
「スキー!やってみたいかも!」
「スキーだったら、北海道でやるのもいいけど、はじめは新幹線で気軽に行ける新潟とかもいいよ」
「そっか……可能性が広がるね」
「あとは北海道で有名なもの……畜産業かしら。盛んなのは北海道の東の方だから、移動に覚悟はいるけどね」
「夕張メロンとかいいよね」
「その夕張にも牧場があるみたいだし、メロンのついでに寄るのもまた楽しそうね」
「キャラメル……ゼリー……じゅるり」
「キャラメルとゼリーにつられてる間に、帰る準備でもしましょうか。帰りは函館から新幹線で一本で帰れるし」
「あ、ちょっと待ってよぉ……って、函館まで新幹線通ってるの?」
「うん。つい4年前とかに開通したばっかりのね。それに乗れば4時間で大宮よ」
「感覚がマヒしちゃったのか4時間って言われても驚かなくなっちゃった……」
「『函館だけなら日帰りできそう』とか考えたでしょ」
「う、バレてる……」
「北海道の大きさだけは油断しちゃだめよ」
窓から外を覗いてみると、少しずつ赤く染まっていくのが見えた。エア旅はまだ続く。
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