特別編 エアたびガール
第35話 たびガール 特別編
すっかり桜の木も緑色に染まった4月の中頃のある日。昼食を食べてひと段落した井町いまち茉莉まりは、一人、部屋の中で途方に暮れていた。
昨今はよくわからないウイルスが流行しているせいで、旅に出ることはおろか、外に出ることにもいちいち気を配らないといけなくなってしまった。たいていの暇つぶしは4月の前半で終わってしまったし、休校した学校の課題はすべて終わらせてしまったしで、本当に何もすることがない。一日が散歩と少しの勉強と動画サイトの視聴とテレビを見るだけで終わってしまう、つまらない日々が続いていた。
ほとんど家にいるとますます陰鬱な気分は強くなっていくので、これではいけないと思い、親友の風見かざみ涼乃すずのに電話をかけることにした。いつもと違うことをしてみるだけでも、何か気分を晴らすことになるかな、と思った。
電話は2コール目でつながった。涼乃も案外ヒマそうだ。
「もしもーし!いま大丈夫?」
「全然平気よ。むしろ暇すぎてこっちから電話しようか迷ってたところ」
「よかった。涼乃も暇だったんだね」
「こんな自粛ムードだと外に出るのも億劫になりそうだし、やってたパズルも午前でちょうど終わらしちゃったし、次は何しようかなーって考えてたからちょうどよかった」
「私も見てた動画のシリーズが終わっちゃってどうしようかなって。涼乃なら何か教えてくれるかなって思ってかけたけど、涼乃も同じ状態かー……」
「旅はやっぱりできてないの?」
「うん。特に南の方に行こうとするとどうしても都心、副都心を経由しなくちゃいけないから、さすがに怖くて電車事態に乗ってない。大宮駅も、この状態とはいえある程度人がいそうだしね。」
茉莉は心底残念そうにそう言った。実際、この騒動が続けば5月や6月……もっとその先の旅もあきらめざるを得ないかもしれない。
「そうね……この時期にできることと言ったらそんなにないし、会いに行くのもちょっと難しいね。」
無いとは思いたいが、どちらかがすでに無症状で感染していたら……。そう考えてしまうこのご時世である。
「本当、今日だけでも暇がつぶせることがあればいいけど。カメラロールで旅に行った時の思い出を振り返ったことがあったけど、逆にもっと旅に行きたくなっちゃった」
「……それだ!」
「え?」
「まだ行ったことのない観光地を調べまわるっていうのはどう?エア旅、みたいな」
「それいいかも!早速、やってみましょ!」
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