第30話 桜の東京編6 千鳥ヶ淵と靖国神社
千鳥ヶ淵公園は、皇居の周りにある
つまり、大量の観光客がお花見に訪れるわけである。公園内では宴会もしているので、さらに盛り上がっている。
そんな中茉莉と涼乃は、共通の友人である
それもそのはず。茉莉にはこんな人だかりの中ではあの二人を探し出せる自信がない。茉莉から見ると、あの男二人はどこか『冴えない』のだ。無論本人たちの目の前では絶対に言わないと心に決めているが。
そんな冴えない男たちを探すこと三分。早々に探すのをあきらめた二人は集合場所を指定した。「最初からこうすればよかったね」なんて笑いあった。
千鳥ヶ淵公園には公園の桜とお堀の土手に生えている菜の花を臨める見晴台のような場所がある。目立った待ち合わせ場所がなかったのでそこの目の前の場所で集まることになった。茉莉たちが来た頃にはすでに二人は桜を楽しんでいた。
茉莉は桜に夢中な結城の背中に忍び寄った。背中をたたいて万が一お堀に落ちられても困るので、肩をたたいて振り向いた頬に指を突き刺す典型的なひっかけを試すことにした。
気づかれずに肩をたたくまでは成功。しかし結城が逆の方向から振り向いてしまったため「なにしてんだ、お前」と冷めた目で見られる羽目になってしまった。
一応なんとなく反論してみることにする。
「普通に声かけてもつまんないじゃん?」
「つまらない面白いとかの話じゃなくてだな……まあいいや、ここの桜も綺麗だぞ」
そう言うと結城は場所を譲った。拓也も涼乃に場所を譲っている。やっぱり涼乃の体は少しこわばっていた。
「うん、やっぱり綺麗!」
ここも有名なお花見スポットであるので、「東京 お花見」で検索すればいくらでも画像が出てきてしまう。茉莉としてはその場に行って初めてその景色を見たいと思っていたのだが、どうしても「おすすめスポット○○選!」と書かれたサイトは写真付きで作られていることが多い。不本意でそのスポットの写真を見てしまい、本物を見たときにがっかりしないかと心の隅のどこかで不安になっていたのだが、余計な心配だった。
生で見ると美しさの格が違う。お堀と少し曇りかかった空の暗い色と、菜の花と桜の明るい色のコントラストが印象的だった。サイトに載っていた写真は青空だったから、これはこれでオリジナリティがあって満足だった。
見晴台からの景色に満足した茉莉と涼乃は、待っていた結城と拓也と合流した。ここからは四人での東京散歩である。四人での外出はとても久しぶりで、茉莉の心はどこか浮かれていた。
公園全体の雰囲気自体が浮いた感じになっているのもあるのかもしれない。周りを見渡せば宴会をしている客でいっぱいである。ほのかに酒臭いにおいもした。あと数年お酒が飲めない茉莉たちは「桜の下でお酒を飲むとどれくらい美味しくなるんだろうね」なんて話し合いながら公園の桜並木の下を歩いた。
その話が途切れたあたりで、珍しく涼乃が提案してきた。
「ねえ、靖国神社によってもいいかな、そこにも桜咲いてるし」
「私はいいけど、二人は?」
「別にいいぞ。そのあと上野とかも行くだろ?拓也もいいよな?」
「うん……」
全会一致だった。
靖国神社まではおそらく五百メートルもないので歩いていくことになった。暖かい春の陽気に当てられて散歩をするのはいくら運動が嫌いな拓也でもそこまで嫌ではないようで、多少眠そうながらもしっかり歩いていた。
靖国神社は近代から現代にかけての日本を作ってきた偉人、戦争の犠牲者などを祀っている神社である。地下鉄九段下駅の一番出口が一番近いが、神社の近くには市ヶ谷、飯田橋駅などもあるのでわざわざ九段下まで向かう必要はない。
靖国神社も多くの人がいた。四月の初めなので新年度の安全祈願とお花見を兼ねているのかもしれない。
そういえば元号も変わるんだっけなあと思いながら茉莉は境内を歩いた。桜の花びらが音もなくそこらで舞っているのが綺麗だ。
そんな桜を見つつ本殿までたどり着くと、茉莉は様々な願いと想いを抱いて二礼二拍手一礼をした。何事も高望みしないから、ほどほどに上手くいってくれればいいなと思った。
参拝を終えた後は昼ご飯をどこで食べようか、という話題になった。茉莉がすぐ近くにあった蕎麦屋を提案すると、なぜか結城と拓也から反対を食らったので、これまた近くにあったハンバーガーショップに寄ることにした。おそらく日本でトップクラスに知名度のあるチェーン店なので、味や価格に不安にならずに済むのはありがたかった。
四人それぞれが席について食べ始めてから、今度はどこへ行こうか、という話になった。
「私たちは上野公園にお花見に行こうかな、って話だったよね」
と茉莉が伝えると
「じゃあ、途中で秋葉原に寄ってくれないか」
と結城に提案された。どうやら拓也がCDを探しているらしい。
そんなわけで、ここからお茶の水を経由して秋葉原へ向かったあと、中央通りを歩いて上野公園まで行くことを四人で決めた。
茉莉もここまで歩いてくると靖国神社の近くからお茶の水、上野まで歩くことに抵抗がなくなっていた。むしろ短いなあと一瞬思ってしまったが、何も言わないでおいた。
店から出ると茉莉は「よーし!出発!」と言って、涼乃たちと一緒にまた歩きだした。
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