第25話 桜の東京編2 目黒川の桜

東京の、いや関東の桜の名所と言ったら、という疑問に対して恐らく多くの人が「目黒川沿いの桜」と答えるだろう。それほどに茉莉がいる場所は有名な場所であり……それに伴って、多くの人でごった返す場所でもある。

……はずなのだが、今は朝の6時半。人も朝の散歩を楽しんでいる人以外はあまり見受けることはない。

とりあえず南を少々周り、北のほうに向かえばそのまま池尻大橋駅まで行けることがわかったので、茉莉は川沿いを北上した。

歩道と川に挟まれて、桜が綺麗に咲き誇っている。毎年この季節になると、ニュースなどでこの景色を見ることは多かったが、やはり自分の目で見たほうが迫力がある。

「やっぱり涼乃も呼べばよかったかなぁ」

茉莉はそう呟いた。本当は二人で来る予定だったが、出発が早朝ということもあって、「起きなかったら先に行って」と言われていた。涼乃は案の定起きなかったので、さほど遠くもない家まで行って起こしても良かったのだが、早朝に家に行くのも迷惑だし、涼乃の寝起きの悪さを知っているしで先に行くことにした。ちなみに涼乃から連絡はまだない。今頃もまだ夢の中だろう。

茉莉は朝日に照らされた桜を眺めながらうっとりと道を歩いている。今だに眠気は抜けていない。

途中喉が渇いてきたので、道から外れてコンビニを目指した。大宮も大概だが、東京の都会感にはいつも少々気圧される。

コンビニではスポーツドリンクと朝ごはんとしてバウムクーヘンを買った。ごちそうである。

すぐに桜並木に戻って、立ち止まってバウムクーヘンを食べた。いい景色に好きな食べものだと美味しさも二倍になると茉莉は勝手に思っている。

食べ終わって少し休暇したところで、茉莉は再び歩き出した。歩いている途中には所々に橋があり、そこから川を見下ろすことができる。

川には散った桜の花びらが流れていた。所々ピンク色になった川も、どこか綺麗だった。桜がもっと散るようになると、川もピンク一色に染まるのだろうか。

あっという間に桜並木の終点まで着いてしまった。もう少し見ていこうかな、なんて悩んでしまう。昼頃なら大量の人がいて進めない、なんてこともあるだろうが、早朝の桜独り占め状態でスムーズに歩くことができるが故の、幸せな悩みだった。

「まあでも、今日は桜三昧だし」

次の目的地へと向かうことにした。

信号を渡って少し歩くと、東急田園都市線の池尻大橋がある。東京に線路を引くスペースを確保するのは難しいのか、駅は地下にあった。

茉莉は乗り換えアプリで次の目的地へのルートを検索して、顔を真っ青にした。

「回避した渋谷駅で乗り換え……うぅ」

よりによって、さっき得意げに回避した駅での乗り換えだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る