第11話 湘南編10 江ノ島にて 後編

奥津宮への道を、茉莉は歩いていた。江ノ島の奥の方は階段が多く、一筋縄では行かない道のりだった。


途中「山2つ」という景観スポットがあった。2つある江ノ島の山の接点の場所のようで、木々が生えた崖と海と雲がちょうどよくマッチしていた。


また少し進むと、階段に沿って小店が軒を連ねていた。これはこれで風情がある。少し苦手な階段も、景色のおかげで苦ではなかった。


途中で「龍恋の鐘」とわかりやすい看板があった。どうやら恋人と来ると永遠の愛が叶う、というロマンチックなスポットらしいが、色恋沙汰に縁がない茉莉は少し考えてから「もし私に、大事な人ができたら行こう」と決めて、龍恋の鐘に行くことはなかった。


奥津宮に到着。茉莉は今日だけで何回これをしたんだろうなんて思いながら二拝二礼一拝。『心の穴』のことをお祈りした。


奥津宮を出て階段を降りると、岩浜が広がっていた。奥にはうっすら富士山も見えた。どこか神秘的な雰囲気は自然が作り出した地形だからかなぁ、なんて思いつつ茉莉は岩屋に到着した。


入り口では料金を払ってから蝋燭をもらった。どうやら洞窟内を照らしながら進むらしい。蝋燭がなかなかロマンチックな雰囲気にしてくれる。


岩屋の中にもカップルがいた。やはりここも彼氏を作ってからの方が良かったかな、なんて思いながら岩屋の中を進んだ。


蝋燭を返し、もう1つの洞窟へ入った。そこは天井に大量にイルミネーションが張り巡らされていて、天然の洞窟にはちょっとミスマッチだけれど、こんなのもアリなのかなぁ、とぼやきつつ茉莉は洞窟内を歩いた。


洞窟の奥には龍のオブジェが居た。今にも動きそうな雰囲気だったので、茉莉はちょっと膝を震わせながら手を合わせて拝んでおいた。


時計を見ると、ちょうど今から江ノ島を出れば水族館のショーに間に合いそうな時間だったので、龍に背を向けて足早に岩屋を去った。


岩屋を出た時の岩浜の景色が見惚れるほどに綺麗だったので、写真を撮って涼乃に送った。富士山が見えなくなりつつあるのが惜しかった。


さっき降りた階段を登り、今度は降り、シーキャンドルの麓まで戻ってきた。階段の連続で疲れたので、茉莉は少し休憩を挟むことにした。涼乃からは返信が返ってきている。暇なのだろうか。


"きれい!"


"でしょでしょ?"


"今は江ノ島だよね?"


"うん、これから水族館に行くの"


"いいねぇ、水族館。何目当て?"


"ないしょ"


"どうしてそこで隠すの……"


そこまでメッセージを見た後で、茉莉はまた水族館に向かって歩き出した。後でお目当ての動物の写真を涼乃に送ればいい話なので、それまでは涼乃に茉莉が何の生き物を楽しみに水族館に行くか考えさせる時間にした。その方が楽しいんじゃないかと、そう茉莉は思った。


辺津宮まで戻ってきた。なんとなくの気分で違う階段から下へ下へと降りていく。そういうのもありだろう。


ちょっと前までせんべいを食べていた場所まで戻ると、江ノ島神社まで続くゆったりとした坂道を見下ろすことができた。これはこれで風情がある。茉莉は昔修学旅行で見た京都の街並みを思い出しながら坂を急ぎ足で降りていった。


茉莉はまた弁天橋を渡って、江ノ島にお別れを告げた。水族館まではもうすぐである。

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