第5話 湘南編4 由比ヶ浜にて

藤沢駅では少し迷うことになった。茉莉はてっきり、同じ駅舎の中に江ノ島電鉄線があるものだと思っていたので、JR線と小田急線の駅舎をさまよい、看板に沿ってやっと違う駅舎にある江ノ電の改札にたどり着いた。江ノ電ではICカードを使うことができるのは知っていたが、今回はたくさん江ノ電に乗ることになっているので、一日乗車券を買うことにした。1日で600円なら格安だ。


「一日乗車券 のりおりくん」と書かれたものを手に取って、


「ただの一日乗車券だとなにも感じ無いけど、『のりおりくん』って名前が付くと少し愛着沸くなあ……」


と独り言をつぶやいた。


もう7時を越していたので、通勤客などで4両の列車は満員になっていた。茉莉は席に座ることはできなかったが、外の景色を見ることができるスペースを確保できたので満足していた。


列車は普通の住宅街を走った後、江ノ島駅に到着した。江ノ島駅と言っても、そこから江ノ島を見ることはできなかった。


江ノ島駅を出ると、列車は路面電車のように道の真ん中を走り出した。車とすれすれの距離をずっと走っていたので茉莉はずっと内心ひやひやしていた。


腰越駅を発車し、家と家のすれすれを少し走ると、外の景色はいきなり開けて海が見えた。少し右を向くとしっかり江ノ島も見える。茉莉はこの雄大な景色を見れただけで、来てよかった、と思うことができた。


稲村ケ崎駅までしっかり海を堪能したあと、また列車は住宅街に入っていった。また住宅街に無理やり線路を敷いたような感じ。玄関を出た目の前が線路になっている家もあったし、ちょっとした小道を簡易な踏切だけ設置して横切っているところもあった。列車が家に当たってしまわないのかと、茉莉はまたひやひやしていたし、この風景が日常的に繰り返されていることに少し驚いていた。


ほどなくして、由比ヶ浜駅に着いた。茉莉は、最初「ゆいがはま」を読めなかった、なんてことを思い出しながら駅を出た。長かった電車移動もやっと終わりを告げた。


最初の目的地である由比ヶ浜を目指して、ほんのり潮の香りがする道を歩いた。街並みは全体的に落ち着いていて、どこかおしゃれな雰囲気を醸し出していた。さわやかな空気のなか、犬の散歩をしている人も見受けられた。


由比ヶ浜には数分で着いた。開けた景色とさわやかな風、朝日がきれいに反射している海を見て、茉莉は心が洗われる気分になった。波の音を楽しみながら、波打ち際を楽しんだ。オフシーズンでほとんど人がいないので、海岸をほぼ独り占めにすることができた。


ほどなくして海をじっと見つめていた、久しぶりに見た、しかし見慣れた人影を見つけ、茉莉は咄嗟に話しかけていた。


「久しぶりだね、結城。」


「おお、久しぶりだな。」


茉莉の幼馴染である神崎結城かんざきゆうきが、そこにはいた。

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