第4話

「おはようございます」

「おはよう」

このコンビニで働き始めたのは今から1年前だ。

家から近いという理由で決めた。

「いらっしゃいませ」

一生の内、あと何回この言葉を言うのだろう。

私は本当は接客が苦手だ。

1年前までは氷を扱う工場で働いていた。

だけど優介に彼女が出来てからは、くそ寒い工場で黙々と働く事が苦痛になった。

誰とも喋らない時間に頭がおかしくなりそうになったのだ。

だからそのタイミングで工場を辞めて人と接せられる接客業に変えた。

私はこの仕事が好きでも何でもない。

ただ他にする事がないからしている。

「このタバコじゃねーよ!」

客に言われたタバコを渡したら間違えていたようで、渡したタバコを投げつけられた。

「すみません」

「本当にすみませんと思ってんのかよ」

もういいと言ってその客は店を出て行った。

帰りに店長に呼び出された。

「高畠さん、こういうの何回目?」

「分かりません」

「このままじゃお客さん誰も来なくなっちゃうよ。次、こういう事があったら辞めてもらうからね」

「はい」

「……」

「お疲れ様でした」

私は店長に背を向けて歩き出した。

はい、はまずかったか。

何だか最近何もかも馬鹿らしくて。

生きているのさえ馬鹿らしい。

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