第10話 戦後日本の背景について

戦後の日本はアメリカより派遣されたGHQの統治下に置かれた。目的は狂信的な神道しんとう国家を根本から民主主義の思想を植え付け、国民主体の国に造り変える事にあった。それが難しい事であったかどうかは、私個人の見解としては、それほど難しいものではなかったと思っている。何故ならばこの狂信的な神道主義は国を扇動した一部の人間が成した事であり、その扇動の仕方、思想の合理性など、国民を納得(洗脳)させた上で行なわれたものではなく、暴力や刑罰を用いての、言わばイジメのような方法を用いていた訳である。確かに一部の人間は狂信的であったであろう。しかしほとんどの人間は、国家が勝手に始めた戦争に巻き込まれ、我慢を強いられ、辟易としていた。官軍であるアメリカより派遣されたGHQは、当に恵みに仏だった事であろう。それが証拠に、子供たちは米軍のジープを見ると、勇んで飛んで行き "Give me chocolate!(チョコレートを下さい!)" と叫びながら擦り寄り、若く美しい女性は、米兵からお金を貰い、"パンパン" と蔑まれながらも娼婦へと墜ちていった。それほどまでに国民はいらぬプライドを捨て、生きていく為に物資を要する米軍へ縋って生きていたのだ。

しかし時代は変われど人は変わらぬもので、プライドを捨て去れない人間たちも多くいた。

そんな人間たちで組織されたのが闇市である。当時の国内として何より一番に厳しい現実は、物資の流通であった。それも特に食料品である。物資に乏しかった日本は少しでも国民に還元させる為に、市民独自の流通ルートを作って、国家には内緒で物資の横流しをしたのである。それは生きていく為のかてを得る事、食料難にあえぐ市民を救う事の二面性を持っていた。

時は令和となった現在でさえ、生活をしていく事を "食べていく" と表現する。それはどんなに文明が発達しようとも、決して変わる事のない、生物にとっての普遍のテーマなのだ。

読者諸君は "明日食べる物をどうしようか?" と考えられた事はあるだろうか。YESと答えた方には失礼ながら幻滅する。何も明日何を食べようか?メニューは何にしようか?と言う悩み事ではない。明日、家族皆んなが最低限空腹を満たす為の食料を如何いかにして得ようか?どうすればこの食材で家族8人の空腹を満たせるだろうか?と言った次元の話しをしているのである。

現在に例えれば、今一万円ある。家族は三人だ。どこの店も開いていないし、冷蔵庫も空っぽだ。明日からどうする?と言う事である。

何故そんな想いをしなければならないのか?それは国家が勝手に始めた戦争に負けたからである。敗戦国なのだから当然の事なのだ。


ちょっと待ってくれ!なんだかデジャヴを見ているようだぞ!?そう思ってくれた読者諸君には感謝と共に尊敬の念を送らせていただく。現在の我が国は敗戦国でもなんでもないのに、似たようなとまでは言わないが、同じような思いをさせられているのではないのか?

そうなのだ。国を動かす人間なんて所詮はそんなものなのだ。国を動かす力、イコール最大権力と勘違いをするのである。そしてその地位は、国民に頭を提げ選挙で選んでいただいた事で得たなど、喉元を通り過ぎてしまった熱々のスープが如く忘れ去り、「さぁ遂に国会議員になったぞ!次に狙うは大臣だ」などと張り切って利己に走っていく。そしてある程度の地位を得たならば、その地位を築き上げたのは自身の実力かのように勘違いし出し、先行きが悪くなれば周りや馬鹿にしている国民のせいにして保身に走っていく。

果たして戦時下の政治家(もとい軍人)や指導者と現在の政治家に違いはあるのだろうか?全くもって分からないところである。


話しを戻すが、戦後の我が国では、金はあっても食料以外の物資があっても何の役にも立たなかった。もしかしたら戦時下よりもマシであった人々もいたかも知れないが、終戦と共に死に向かう人々も決して少なくはなかった。さりとてこの時代に人が死のうが特定の人にだけ恩恵が受けられようが、当時の人々は今、その時を生きるだけで、食べていくだけで必死であった。マスコミも当然機能してはいなかったし、映像や音声の記録もないに等しい。そんな背景もあり事実は歴史の闇へと消されていったのだ。

戦争により命が軽んじられた時代を経て、命の重みを知りながらも、誰も何も出来なかった戦後日本。そんな中、我々の二代、三代前の先人は過酷な時代を乗り越え、廃墟と化した国土を覆った敗戦から僅か十九年後にオリンピックを開催し、そこから未曾有みぞうの高度経済成長期へと発展させる事に成功した。

次回は戦後日本が先進国の仲間入りを果たした軌跡について考えていきたいと思う。

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戦争を知らない大人たち 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2

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