第18話 Daylight【デイライト】 その6
玲央が状況を把握したのは一瞬だった。
存が裁を使っていること。それ自体が何故なのかは分からなかったし驚きもしたが、実際に使っているのを見てしまえば受け入れるより他はない。
しかし、玲央が許容できなかったのは、
それがどうしても許せなかった。
心情的にと言うよりは、状況的に。
「何をしている? そいつを殺さなければ、我々が危機に陥る。それが分からないのか?」
存は言葉を返さなかった。
「聞いているのか! 存!」
玲央は、存の名前を呼びながらも目の前にある強固な姿勢を見た。
とても言葉で態度を変えるようには思えない。
かと言って、ここで引くことは玲央には絶対に出来ないのだ。
今はどんなことよりも優先して敵を殺さなくてはならない。
これは今現在の最優先するべき事柄である。
ここでこの敵――空志渡 礼美を逃がすのは、玲央の特徴を敵の組織に報告されると言う事。すなわち、玲央の敗北を意味するのだ。
敵の組織は、玲央が調べた限りでは上星市出身からの流れ者が多く、裁能力保持者も多数所属している。
活動範囲と規模から見て、その数は上星市のあるU県外の者も含めると20人以上はいると玲央は見ていた。
もちろん、その能力の全てを玲央は把握していない。
これが何を意味するのか。
裁能力保持者同士の戦いは精神力のぶつけ合いに等しいが、それ以上に重要なのは相性なのだ。
例えばブレイキングハイドの透明になる能力は強力だが、マインズクラフターのマッピングや、それに近しいレーダーのような能力で感知されてしまえば、姿が見えないと言う利点は意味を無くす。
もし、玲央の死なないと言う能力を知られてしまえば、その優位性を失くしてしまえるような能力者が玲央の前にやってくる可能性が高い。
(ここであの女を逃がすわけにはいかない。手段を選んでいる余裕も無い)
玲央にとっての礼美は、仇の一味である。
殺さない理由はまるで見つけられない。
玲央は、デイライトに剣を構えさせると言った。
「これが最後だ。そこをどけ。どかなければ、お前を攻撃する」
「どかない」
即答だった。
しかし、存に玲央の進撃を阻む自信が無いことは、デバイスを持つ手が震えていることが証明している。
「手加減はしないぞ、存!」
「マインズクラフター! バーサーカーを、自動迎撃モードに!」
デイライトと共に前に走った玲央と、マインズクラフターを握る手に力を入れた存。
この時、存と玲央の視線と視線がぶつかり合い、交じり合った。
その一瞬。ほんの一瞬だった。
存は、玲央の心の底に在った冷えを感じた。
礼美の中に在るものとは違う、心の中に在る暗い記憶。
冷たいと思った時、存はすでに玲央の過去の記憶を見てしまっていた。
それらの記憶は、まるで走馬灯のように存の脳に流れ始める。
――最初は風だった。
続いて風と共に体にぶつかってきた轟音と、激しい炎。
身を焼かれる感覚と肉体がバラバラになる感覚が襲って来て、それらが過ぎ去ると、何かがパチパチと燃える音が聞こえていた。
気がついた時は、一人。
見知らぬ場所で、歩き回っていた。
『……お父さん? お母さん? どこ? どこにいるの?』
一緒にいたはずの両親はどこかに消えてしまって、目に見えるのは瓦礫の山だけだ。
一人抜け出して、小さな足でとぼとぼと徘徊したが、自分の両親はどこにも見つからない。
やがて人のいる町にたどり着いたが、お腹が空いても、食べ物を買うお金も無く、やがてごみ溜めでゴミを漁って生を繋ぐようになった。
――これは、何歳の時の記憶だろうか。
どこでの記憶なのだろうか。
町には浮浪孤児が溢れ、通りを銃器で武装した男たちを乗せた車が何台も通り過ぎていく。
どこを見ても土埃で荒れ果てていて、車のエンジン音以外は怒号と悲鳴だけが飛び交っていた。
ある日、少女は地面に誰かの落とし物を見つける。
布で包まれた長方形の物体で、布を解くと、そこには肉を挟んだサンドイッチが入っていた。
だが、中身を見た瞬間、少女は持ち主の女に突き飛ばされ、転んでしまう。
『お前! それは私のだぞ? 私の昼飯を盗もうとしたのか?』
外国語だった。
少女は酷く狼狽した。
聞くことはなんとか出来ても、その言語を喋ることが出来なかったからだ。
そして、盗んだなんて感覚は彼女にはない。
確かに腹は空いていたが、落ちていた物をただただ拾っただけだった。
必死になって弁解をした。
自分の喋れる原語で、盗んだわけでは無いのだと。
決して、泥棒をしたわけでは無いのだと。
だが、少女の言葉を聞いたその人間は周囲にいた仲間を集めると、こう言ったのだ。
『どこの国の言葉だ? 外の国から来て、親とはぐれたのか? 薄汚いガキが! お前みたいな奴がいるから、この国はちっとも良い世の中にならないんだよ!』
どれだけ喋っても、言葉が通じない。
意思の疎通がまるで取れない。
その人間たちは町の自警団を名乗るゴロツキ連中で、自分たちのたまり場に少女を連れ込むと、徹底的に痛めつけ始めた。
そして、ゴロツキ達は少女の特異性に気づいたのだ。
『なんだ? こいつ、傷が無い? 無くなってる? 治ったのか?』
デイライトの能力である。
だが、デイライトは反撃に出なかった。
幼かった彼女と同様に剣を持つデイライトは小さく、弱く、裁を使えないその人間達には見えなかったので、密かに内包していた攻撃性も顔を出さなかったのだ。
ただただ、少女の傷が治ると言う現象だけが認知された。
そして、傷が治ると知ったそのゴロツキ共は、なお面白がって少女を痛めつけた。
『面白いオモチャを見つけたぜ』
中でも、最初に少女を見咎めた女――ゴロツキ共のリーダーは異常だった。
少女が痛みに泣き叫ぶたびに、顔を愉悦で満たしながら少女を嬲るのだ。
少女は解放されず、それが何日も繰り返された。
まるで、娯楽の一つであるように殴られ、蹴られ、治ってらまた殴られる。
満足に食事も与えられない。
水も、ほとんど飲ませてもらえなかった。
夜中や明け方。耐え切れなくなった少女は逃げることを何度か試みたが、それらは全て失敗した。
その度に、鞭が振るわれ、こん棒で骨を折られ、ついには刃物が登場して血が流れた。
『諦めろよ。お前はもう、私たちの所有物なんだよ。このご時世だ。お前を探しに来る奴なんて誰もいない。生かすも殺すも、私たち次第さ。だからな、クソガキ。良い子にしてないと、次は殺すからな。本気だぞ? 今時、死体なんて珍しくもねぇ。たっぷり責め抜いた後に殺すからな』
脅されれば怖かった。
痛いことも、死ぬと言うことも怖かった。
だが、少女はそれでも諦めなかった。
表向きは服従の意を示したが、きっかけあれば逃げ出したいと、必死にその時を待ち続けた。
そして、それは来た。
ゴロツキ達の、もはや少女は逃げないだろうと言う油断。
見張りもいない、開かれた外へ続くドアを見つけた少女が、最後の望みをかけて脱出を試みる。
だが、少女はまだ幼過ぎた。
その建物の全容を全て把握してない上に、歩幅も、走った時のスピードも、何もかも、ゴロツキ共より劣っていた。
そして、見つかれば、逃れることは出来なかった。
『いや! いやああああああああ!』
髪の毛を掴まれて引きずられていた少女は叫んだ。
ゴロツキ共は少女の話す言語が分からずとも叫びの意味は分かるはずなのに、まるっきり容赦はしない。
『殺すって言ったよな? 覚悟は出来ているんだろ?』
少女は何度か殴られ、蹴られると、麻で出来た袋をかぶせられ、棒で四方八方から殴られまくった。
しばらくしてまるっきり動かなくなり、慌てたゴロツキ共が袋を外した時、少女は死んでいた。
『チッ、死んじまったか。さて、どこに捨てるさね……』
だが、ゴロツキ共が死体の始末を話し合っている途中、少女は復活したのだ。
傷は全て消失していて、まるで悪い夢から覚めたかのように意識を取り戻すと、自分が何をされていたかを思い出して悲鳴を上げた。
『まさか、生き返るなんてねぇ。本当に良い拾い物をしたよ。本当に、楽しいオモチャだ』
その後、『少女が死ぬためにどれだけ痛めつければ良いか』を実験しだしたと聞けば、そのリーダーの女がどれだけ狂っていたかが分かるだろう。
もし、この少女と出会わなければ、高確率で日常的に人を殺すシリアルキラーになっていたに違いない。
だが、彼女の欲は、全てその少女に向けられていた。
骨も断つような巨大な刃物で四肢を切断され、腹部を裂かれ、体に油をかけて燃やされ、肌が焦げるほどの電気を流され、少女はその度に叫んだ。
『可愛い子ちゃん。今日はよく頑張ったねぇ。明日はまた違うやり方でお前を殺してやるからねぇ』
人に向けられることを想定していない様々な工具が運び込まれ、電動モーターの駆動音が何種類もその場所に響き渡る。
様々な毒も、薬品も、全て少女に使われるために運び込まれていた。
そうして死ぬギリギリまでの損壊の後、最後には毎回殺される。
それには遠慮が無かった。
いくらバラバラになっても、時間が経てば元の生きている少女に戻るのだ。
いくら臓物を散らかしても、時間が経てば少女の体の中に戻っているのだ。
血管に注入した薬物も、甦った時には体外に排出されている。
上半身をコンクリートの桶の中に突っ込んで固めても、甦る時にはコンクリートを砕いて出て来る。
まるで何事も無かったかのように少女は意識を取り戻す。
その度に、吐き気を堪えながらも手伝っていた手下のゴロツキ共の罪悪感も薄れていった。
『愛しているよ。便利で楽しい、私だけのお人形。いつか、完全に殺してあげるからね。そのためにも、いろんな方法を試してみないと』
しかし、生命の修復との引き換えのように、蘇るたびに少女の感情は消えていった。
絶望的な痛みの嵐の中で感じる強烈な孤独感と、一気に失われていく五感。
意識は深く沈みこんで、肌が感じる物とは全く違う種類の悪寒に溶けるように消えていく。
死ぬと言う感覚は常にあった。
死ぬのは、何度経験しても怖かった。
その恐怖から逃れる様に、少女は心を徹底的に閉ざした。
何度も、何度も繰り返した死が、少女の心を完全な虚無へと変えていく。
そうして 一ヵ月、二ヵ月……少女には時間の感覚が失われていた。
本当にどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
自警団と言う名目であったゴロツキ共の集まりが、まさか裏で少女の虐殺を繰り返しているとは誰も思わない。
良い隠れ蓑であり、少女を助けに来る者も誰もいなかった。
やがて、そのごろつきは自分たち以外の、殺人を楽しみたい人間から金をもらって、少女を殺させると言う商売を始める。
会員制を取り、客になる者は秘密を洩らすとヤバい連中、洩らさなさそうな人間から厳選して選ばれた。
町の治安を守るための資金――善行の手助けと言う名目となれば、客の金払いも悪くはない。
自警団の新しい商売はこうだ。
まずはデモンストレーションで自分たちが少女を殺す様を見せつける。
生き返るのが本当だと証明された後、何をしても良いと客に少女と部屋を、貸し与えるのである。
その様子は撮影され、映像のデーターも特典として持ち帰れる。
案に、商売の秘密をばらせばコピーを然るべき場所に送り付けると言う意味を含みながら。
それらが続いたある日の事だった。
いつものようにデモンストレーションで殺され、蘇った少女は、自分を何度も殺していた女も、その手下たちも、全員が首を斬られてその場所で倒れているのを見た。
死んでいるのは明らかだった。
近くには客となるはずだった男が一人、立っている。
『どこをどう流れ着いたのか。まさか、こんな異国でお仲間を見つけるとはな』
男の傍らには血濡れの刃を携えた怪物が立っていた。
この男はその少女が初めて出会った裁能力保持者である。
死んでも甦ると言う少女の噂を聞き、少女を所有しているつもりになっていた人間たちを皆殺しにしたのだ。
男は少女に『お前が生まれた国に連れて帰る』と告げ、自分の国へと連れて帰った。
そして教育を受けさせた。
学校には行かせずに、自分の部下を使い、様々な国の言語、数学、歴史、生き物の体の仕組みを教え込んだ。
そして、少女が成長すると、男は人を殺す事を覚えさせ始める。
男は、ギャングだったのだ。
『お前には才能がある。死んでも甦って相手を殺すまで追跡する最強の鉄砲玉だ』
すでに心が死んでいた少女は、教え込まれるままにデイライトで人を攻撃することを覚え、何のためらいもなく人を殺した。
命令されれば、性別や年齢も関係なく、老人や女子供まで始末した。
痛みのない夜と引き換えに、少女は命令される全ての事をこなしていった。
清潔な腐っていない食べ物と寝床さえあれば、拒否することも考えない。
このまま人と心を通わせることも無く、無慈悲に人を殺すだけのキリングマシーンとして生きていくと、組織にはそう認知されていたが、仕事をこなしていくうちに、いつ暴発するのか読めない危険物でもあった彼女を危険視する声も出ていた。
かと言って殺しても生き返るようでは簡単に処分することも出来ない。
だが、少女を保護した男はその少女を指して言うのだ。
『アレにはそんなことを考えるような頭はありません。心がブッ壊れてるんです。空っぽなんですよ。アレは、助けた私の命令ならどんなことでも聞く便利な人形です。安心して使い潰してください』
部屋の隅にはその少女がいた。
もちろん、会話は筒抜けで、男と会話していた組織の人間は狼狽している。
『おい。本人がいる前でそんなこと言って良いのか? 聞こえているのではないか?』
『言ってるでしょう? 大丈夫ですよ。なぁ、問題は無いよな。これからも仕事は続けるよな?』
少女は、何の感情も示さずに頷いて、こう答えた。
『はい。言ってくれれば、誰でも殺します』
言った後、ヘラヘラと笑いあう男たちを見て、少女は思う。
(私は、何か腹の立つことを言われたのか? 腹を立たせた方が良かったのか? 壊れていると言われたが、その通りだろう。しかし、それで何かおかしいのか? 生きていられるなら、今のままでも十分だ)
誰にも心を開かず、飯を食い、寝て、命令されれば人も殺す。
怒らず、笑わず、悲しまず、冷静に人を殺すだけの殺戮人形……それがその少女だった。
だが、たった一つだけ、その手を掴んで虚無の絶望から引き上げようとした手が在った。
出会いは偶然で、再会も偶発的で、善良なる一般人とその少女の関係こそ奇妙そのものだったが、約束をして繰り返し会うようになると、その手の持ち主は、少女にとって生まれて初めての心を許し合える友となった。
その手の持ち主は、存も良く知っていた。
『自分が大切じゃないなんて……! 自分の命が大切じゃないなんて、そんなこと言わないで! 大切にしてくれる人間が誰もいないなんて、そんなことない!』
町田 瑠香だ。
『あなたを大切にする人間なら、ここにいるから! 私が、あなたの事を大切だって思うから!』
少女にとっての光は、瑠香と言う存在の、ただの一つだけだった。
『名前。無いって言うなら、さ。私がつけてあげる。
『……うん。良い名前だと思う。瑠香の前では、私は玲央になるよ』
玲央と名付けられたその少女は、瑠香に握られた手の温もりだけを頼りに生きていた。
その温度は、凍り付いていた少女の魂を溶かし、死んでいた感情をゆっくりと蘇らせた後も、ずっと彼女の心に宿り続けていた。
(楽しいことも、悲しいことも、みんな覚えてしまった。瑠香のせいだ)
何度か知らずに涙を流し、悪夢を見て眠れない夜を繰り返した。
それでも、幸福と言う物があるのならば、瑠香と一緒にいる時だけなのだ。
心を照らす光。
自分が人間である事を思い出させてくれる光。
だが、それは失われてしまった。
危険を教えられなかった。
救えなかった。
恋愛なんて話はよく分からなかったが、瑠香が幸せそうならば、それはそれで良い物だと思ってしまったのだ。
『……元気さ。お前にも会いたがっていたが、今は遠くに行ってしまっている。すぐには会えないところだ』
存は少女の感情を通して、理解した。
瑠香は、死んだ。
殺されたのだ。
それも、少女に復讐を決意させるような、残酷な殺され方で。
かつて自分がされたような、誰かの欲を満たすための終わり方で。
ただ、瑠香には、デイライトがいない。
自分とは違って生き返らない。
自分の手を掴んで、泣いて、自分のことを想ってくれた瑠香は、永遠に失われてしまった。
この喪失感は、何を持ってすれば埋められるのだろうか?
存は疑問に思ったが、何も思いつかなかった。
そして、今――
走馬灯のように過ぎ去った他人の記憶が終わり、存の意識は現実へと戻る。
「瑠香、お姉さん」
思わず口を突いて出た存の言葉を聞いた玲央は、手を広げて退くことをしない少年を見た。
この時になって、ようやく玲央は自分の心を覗かれていたことに気づく。
「……この感覚は、まさか」
悟った。
存が『人を見る眼』を使っていると言う事実に。
「私を見たのか! 存!」
振り下ろされたデイライトの剣が、バーサーカーの爪に防がれる。
そのまま二人の裁は膠着状態になった。
つばぜり合いである。
存がその隙を突くように口を開いた。
「どうしてなんですか。どうして、言ってくれなかったんですか! 瑠香お姉さんが、死んだって!」
玲央の喪失感が多大な物であると同時に、存にとっての喪失感も大きなものだったのだ。
「……言って、どうなる。お前に何が出来る」
「悲しむことが出来た! あなたの悲しみにも寄り添えたのに!」
玲央は、グッと出かかった感情を飲み込むと、再び攻撃の意志を示した。
これ以上、存の言葉を聞いているわけにはいかない。
敵を殺さなくては。
「悲しむ余裕があるのならば、私の復讐を肯定しろ! そうではなく、あくまで邪魔をすると言うのなら、お前を殺す!」
だが、存はそれを否定した。
「殺せない! さっきだって僕を殺すつもりで攻撃していたわけじゃなかった。だって、あなたにとって、僕は……!」
言いかけた存の声に玲央がたじろぎ、その目を見返してしまう。
わかってはいた。
その言葉の先は、玲央自身が一番わかっていた。
(瑠香……!)
やはり、似ていた。
顔や背格好の話ではない。
その目だった。
体を通して伝わる、その心の在り様だった。
心の奥底から溢れて出ているような、慈愛の精神性だった。
だが、そんな優しさなど、今は必要ない。
「そこまで知って、どうして私の邪魔をする! 私の復讐を肯定しろ!」
「嫌だ! 僕はあなたの事を知ったんだ! 礼美さんを助けたいと言うだけじゃない! あなたに人を殺して欲しくないんだ! 僕はもう、あなたに誰も殺させない!」
玲央は歯を食いしばる。
そんな言葉こそ、否定しなければならない。
自分は、仇を討つと決めたのだ。
だが、何故、こんなにも胸が熱くなるのだろうか。
苦しくなるのだろうか。
失ったはずの瑠香が目の前にいて、仇の仲間である礼美を殺そうとしている自分を止めているような気さえして、玲央は混乱した。
(私を苦しめるために現れたのか、こいつは)
戦うことなど忘れて泣き喚きたい衝動に駆られた玲央は、慌てて首を振った。
これ以上、存と視線を交わらせれば、自分と言う人間を全て知られてしまう。
それは住処にずかずかと土足で上がり込まれ、相手の欲求のまま問答無用で服を脱がされているような不愉快さがあった。
「私を見るな!」
思わず顔を手で覆い隠してしまった玲央だったが、それは失敗だった。
この機会を逃さなかった者がいる。
「ブレイキングハイド!」
礼美だった。
倒れていただけに見えた礼美は、密かに裁の実体化を完了させていたのだ。
「しまった!」
玲央は叫んだが、もう遅い。
「殺し合いの最中に、とんだセンチメンタリズムだ」
復活した礼美が笑い、ブレイキングハイドの触手が存を襲っていた。
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