サザやんのこと・4

水槽の中で腹這いになってうごめくサザやんを見てると、なんて臆病なひとなんだろう、と思う。

彼女は、能動的な機能を徹底的にそいで、生きるために敵から身を守ることに集中しようと決意したんだった。

「食うか食われるか」というギャンブルではなく、「食いづらいが食われない」というディフェンシブな姿勢でもって、進化を果たしたわけだ。

食いたいひとは、ひたすら攻撃性を高め、食われたくないひとは、ひたすら防御面をブラッシュアップする。

後者の極限的典型が、サザやんなどの貝類といえる。

カメの風体も相当に臆病を感じさせるが、まだ彼らは主体性に未練を残してる。

そんなほんの少しの迷いをも断ち切り、貝たちは外界へのアプローチをほぼ完全にシャットアウトして、殻に閉じこもったんだった。

その意志の強さたるや。

・・・が、それでも、だ、サザやんのあの謎のフォルム、ってことになる。

なんなのだ?あのトゲトゲは。

石灰壁を伸ばしていくときに、マイルストーン(一里塚)のように一定間隔にかっこいいトゲトゲを配するのは、攻撃者へのせめてもの抵抗か?

あるいは、波間で姿勢を安定させるための合理性、って見方もできなくはない。

だけどここはやはり、彼女の芸術的資質の発露、と見たいところではある。

こんなにも几帳面な自己相似を繰り返して器を育てるひとだもの、おしゃれに気を使わないわけがない。

かくてサザやんは、こんなにもエレガントな外観を手に入れるんである。

あと少しつづけようかと思う。

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