サザやんのこと・4
水槽の中で腹這いになってうごめくサザやんを見てると、なんて臆病なひとなんだろう、と思う。
彼女は、能動的な機能を徹底的にそいで、生きるために敵から身を守ることに集中しようと決意したんだった。
「食うか食われるか」というギャンブルではなく、「食いづらいが食われない」というディフェンシブな姿勢でもって、進化を果たしたわけだ。
食いたいひとは、ひたすら攻撃性を高め、食われたくないひとは、ひたすら防御面をブラッシュアップする。
後者の極限的典型が、サザやんなどの貝類といえる。
カメの風体も相当に臆病を感じさせるが、まだ彼らは主体性に未練を残してる。
そんなほんの少しの迷いをも断ち切り、貝たちは外界へのアプローチをほぼ完全にシャットアウトして、殻に閉じこもったんだった。
その意志の強さたるや。
・・・が、それでも、だ、サザやんのあの謎のフォルム、ってことになる。
なんなのだ?あのトゲトゲは。
石灰壁を伸ばしていくときに、マイルストーン(一里塚)のように一定間隔にかっこいいトゲトゲを配するのは、攻撃者へのせめてもの抵抗か?
あるいは、波間で姿勢を安定させるための合理性、って見方もできなくはない。
だけどここはやはり、彼女の芸術的資質の発露、と見たいところではある。
こんなにも几帳面な自己相似を繰り返して器を育てるひとだもの、おしゃれに気を使わないわけがない。
かくてサザやんは、こんなにもエレガントな外観を手に入れるんである。
あと少しつづけようかと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます