サザやんのこと・3

「貝はいつも同じ場所に住んでいる」という言い方ができる。

彼女たちは、自分の成長に合わせて、常にジャストフィットの間取りを相似形につくりつづけるんで、サザやんから見る住まいの風景と住み心地は、生まれたときからずっと一緒なんだった。

おそらく、サザやん自身には大きくなってる感覚がなく、外の風景がだんだんと縮んでいくように見えてるのかもしれない。

永遠の相似形といえば、フィボナッチの黄金らせんを思い出すけど、オウムガイあたりは107度あまりの等角曲線を採用してるらしい。

ここらの渦巻きまでは、わりと平面的に伸びていく。

それよりもかなり深い角度に成長曲線を設定してるサザやんは、巻き込みの勾配が急だ。

つまり、「コーン形」となる。

生身の部分の地面(岩や浜辺)との接触面を広く取り、とんがりも立てて安定しやすくしようという試みだろう。

ちなみに107度よりもワイドに曲線を設定すると、巻きがゆるくなって開いていき、やがて巻き込めないほどの扁平なラインになる。

それを採用したのが、アワビやハマグリ、そしてホタテなんかで、彼女たちは平ぺったく見えても、サザやんと同様に、ちゃんと等角らせんで相似形に殻を育ててる。

逆に、107度よりも角度を小さく設定すれば、とんがりの勾配は鋭くなっていく。

サザやんは、100度前後を採用したようだ。

なお、90度まで絞ると、曲線はらせんでなく、円になる。

そしてさらに急角度にすると、らせんはひろがる方向でなく、中心への収れんへと向かう。

これは貝にとっては、間違っても採用しちゃいけない設定だ。

内に内に巻いていったら、収縮していくしかないからね。

成長のない生涯なんて、やだもんなあ・・・

そのあたりのちょうどいいサジ加減を、自然は知ってるんだね。

さらにつづく。

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