サザやんのこと・2
「私は貝になりたい」と言ったひとがいて、ひとに生まれて傷つけ合うくらいなら、いっそ海深くの貝の殻にこもっていたい・・・ってことなんだった。
その貝ってのはカキのことを差してるんだけど、カキの殻って、なんて雑にできてるんだろう。
ガサガサの石灰を無造作に塗り込めたみたいなあの草庵造りは、なるほど世捨て人に似合いそうな風情ではある。
それに比べて、サザやんのおうちづくりの繊細なこと、そしてその生み出すフォルムのエレガントなことといったら、完璧な書院造りといってよろしい。
酒をちびちびとすするオレの眼前の水槽内でうごめくサザやんは、ほとんど前衛建築家と称されていい美的センスを持ってる。
観察するに、彼女は最初、円すい形に生み落とされたにちがいない。
そこから家の間取りをひろげていくわけだが、単純な円すいには伸ばさないのが、彼女の非凡なところだ。
増築分にはややひねりを加え、石灰壁を急角度に巻き込んでいくのだ。
やがて筒状の壁を一周させると、回転軸が定まる。
その軸をらせんの中心として、自らのからだの成長に応じた大きさに、さらに増築していく。
年々、同じ比率で育つ自分に合わせ、口径をひろげ、石灰壁を延長していくわけだ。
この成長曲線は、単純な正比例式=算術級数的じゃなく、一定の比率をカケカケする幾何級数的に伸びていくんで、結果「等角らせん」(芯から半径方向に伸ばしたすべての線と外殻との成す角度が等しい)いうフラクタルなフォルムが自然と達成される。
つまり「どの時点をとっても、おんなじ形」「だけど、どんどん大きくなってる」という、それは永遠の相似形なんだった。
まだつづく。
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