第10話 ナノの秘密と新しい生活

 呪文を唱え終わったと同時に大気中の魔法因子が高速振動を始め、辺りの空間を巻き込みながら膨張を始める。

 実際に爆発するまでには数秒のタイムラグがあったため、詠唱後に我に返った俺は呆気に取られていたナノの手を掴む。そうして速攻で洞窟脱出魔法を使って現場から離脱した。

 直後、洞窟は大きな音を立てて爆発、見事に内部崩壊してしまう。ふぅ、間一髪。


 その後、結局肝心の宝石を取り戻せていない事に気付いた俺は意気消沈。彼女に慰められながら自分の家、ゼルフィスの龍の住処に帰宅する。


「ただいまぁ……ゼルさん、ごめん」

「どうした? と、誰じゃ?」

「あ、うん、彼女はね……」

「はじめまして。私はナノと言います」


 ナノは初めて出会ったであろう巨大な龍に物怖じせずにペコリと頭を下げる。そうして、顔を上げるとすぐにこうなった事情を説明。流石にゼルフィスは物分りが早く、一度聞いた説明で全てを理解していた。

 話を聞き終わった後、自身の顎をさすりながらじっくりとナノの姿を覗き込む。


「お主が至高の逸品の1体か。なるほどのう。これはとんでもないお宝じゃぞ?」

「ゼルさん、ナノの事を?」

「ああ、召喚人形創成期に作られた出来すぎた人形の事じゃよ。全部で確か5体、いや6体おったじゃろうかの」


 ゼルフィスの話によれば、召喚人形を完成させた術士はすぐに国から兵器転用を求められ、どこまでの事が可能か技術を競いあった時期があったのだとか。その時に最高に能力を込められた一点物の究極カスタマイズ人形が何体か作られたとの事。それを俗に至高の逸品と呼ぶらしい。

 この究極の召喚人形は、とんでもない精密さと奇跡的な素材バランス、究極の製造テクニックによって作られたもので、制作した術士でさえ2体と同じものは作る事が出来なかったとされているのだとか何とか……。


「ま、儂の自慢の龍輝とて負けてはおらぬがの!」

「ちょ、ゼルさん……」


 至高の逸品の話が終わったと思ったら突然親バカになってしまい、得意げになった龍の話を俺はカアアと熱くなりながら手を振って止めようとする。

 そんな他愛もないやり取りを見て、ナノはくすっと可愛らしく笑みを浮かべた。


「で、あのさ、盗賊のボスが俺の目を見て……」

「分かっておる、そのラギルとか言う男、相当の手練のようじゃのう。確かどこかで聞いた事のあるような気もしないでもないのじゃが……」


 ゼルフィスですら聞き覚えがあると言う事は、やはりラギルは名のある戦士とかそう言う類の人物なのだろう。物語だと過去に何かあって落ちぶれてしまったとかそう言う背景がありがちだけど、どうなのかな?

 それから、あの時にラギルが話した言葉が妙に心に引っかかっていた俺はそれを口にする。


「この龍の目って一体どんな……?」

「石自体に魔力を秘めておるものをそう呼ぶのじゃよ。それにの、優秀な記録媒体にもなっておる。お主の目を見れば今まで見たもの全てを確認する事が出来るのじゃ」


 そう、俺の訴えがすぐに受け入れられたのは、ゼルフィスが人形の目として仕込んだ龍の目の記録を読んだからだったのだ。

 こうして今までのからくりも分かり、俺は色々と納得する。


「でさ、えっと、ナノの事なんだけど……」

「分かっておる。どうじゃ? ナノ殿、ここで儂らと共に共に暮らさぬか? 龍輝にも良き友が出来て嬉しいのじゃが」

「えっ? それを今からどう頼もうかと考えていたところです! 有難うございます! よろしくお願いします!」


 同居の提案をされたナノは嬉しそうに声を弾ませて、思いっきり勢いよく頭を下げる。こうして2体の特別な召喚人形はゼルフィスの保護下で仲良く暮らす事になったのだった。



 その後も割と色々とあったりするものの、この話の続きはまたいつか――。

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