第9話 特別な召喚人形と強盗団のボス

「あら? あなたも人形ね」


 この時の俺は魔法で人間の姿に変わっている。これは誰にもバレないはずだった。それが一瞬で見抜かれてしまい、俺は分かりやすく目を泳がせる。


「え? 分かる?」

「私は特別仕様なの。同じ人形はすぐに分かる。でもあなた、不思議な作りをしてるのね」

「ああ、俺は……俺の体は龍に作られたんだよ。息子として」

「まぁ、龍!」


 俺の出自を聞いた女の子人形の目が好奇心で輝いた。どうやら自分とは違う特別仕様の人形に興味を抱いたようだ。ここからは人形同士と言う事で話が弾みに弾む。その話によると、彼女は初めて召喚人形を作った術士がその技術を極めに極めて作った採算度外視の一品で、名前をナノと言うらしい。

 残念ながら彼女の魂の記憶も他の人形同様に消去されていたものの、自分が別の世界から召喚されたと言う事だけは朧気に感じ取れていたらしい。


「ナノもきっと元は俺達の世界の人間だったんだよ」

「そうかも。でも異世界ってたくさんの世界があるって言うから、同じかどうかは分からないけどね」

「へぇ、詳しいんだ」

「父様が色々と教えてくれたから」


 ナノの言う父様とは作り主の術士の事。彼女は自身の最高傑作だと言う事で術士が大切に保管していたらしい。その術士の死後、ナノの取り扱いについて現場が混乱している隙に、彼女の価値を知った盗賊に盗まれてしまったのだとか。


「よくすぐに売られなかったね」

「ラギルはきっと最高に高く買ってくれる相手を探してるのよ」

「ラギル? もしかしてこの強盗団のボス?」

「そう、彼だけは特別なの」


 ナノはそのボスの話を得意げに詳しく説明する。顔はイケメンで盗みの腕も一流で、体術も格闘術も魔法も適う相手はいないのだとか。

 その自慢めいた話があまりに長いので、俺はいつしかその話を右から左に聞き流していた。


「随分俺の話で盛り上がってるみたいだな……」


 気配もなく突然話しかけてきた第三者の声に俺は慌てて振り向く。そこには彼女がずっと語り続けていた強盗団のボス、ラギルが立っていた。彼女の話の通りに長身で女性にモテそうなイケメンだ。

 例えるなら、海賊で有名な映画の主役にどことなく雰囲気が似ていた。


「俺達のアジトに単身で乗り込むとはいい度胸してんじゃねーか」

「ラ、ラギル……?」

「ああそうだ。お前のステルス魔法、俺には効かねーぜ」


 ステルス魔法はある程度の魔法のレベルがあれば見破る事が出来る。ナノの言う通り、このボスは相当の手練であるのは確かなようだ。改めて目の前の無精髭をよく観察すると、漂わせている雰囲気は只者ではなかった。数々の修羅場をくぐり抜けた凄みがビンビンと伝わってくる。

 ただ、だからこそ、それほどの男がただの強盗集団のボスに収まっているのが場違いなようにも見えていた。


「お前、その目……人の目じゃないな……」


 深淵を覗く時は――の喩えの通り、俺が見ていると言う事は相手も同様に俺を見定めていると言う事。ラギルはステルス魔法どころか俺の真の姿まで見通してしまっていた。

 人間化の魔法は幻を対象者に見せているのではなく、物理的に人の姿に体を変化させる魔法であり、そう簡単に見破られるものではない。


 同じ人形で特別なセンスを持つナノならともかく、極めているとは言え普通の人間に魔法を見抜かれると言うこの事態に、俺ゴクリとつばを飲み込んだ。

 ラギルは目の前の人間化した召喚人形に興味を持ったのか、ぐいっと顔を近付ける。


「それにしても、龍の目を召喚人形に使うとは贅沢だな」


 龍の目とは俺の目に使われている宝石の事だ。魔力を宿せる事の出来る特別で貴重な宝石で、魔法使いの間では伝説の宝石と呼ばれ高値で取引される代物。

 ナノの話によれば、ラギルは宝石関係の知識も本職の鑑定士レベルのものを持っているらしい。その鑑定眼を盗賊家業に生かしているのだとか。これは……色々とヤバい気がする。

 このままだと、俺の体を部品単位で値踏みされてしまいそうだ。


「うわ、うわわわわーっ!」


 自分の体の秘密を見透かされた俺は、このボスによってバラバラにされてしまう最悪の未来をイメージしてしまいパニックになる。

 その混乱で我を忘れた俺は、洞窟内では決して使ってはいけない爆裂魔法を発動させてしまった。


「火の精霊よ、土の精霊よ……」

「おいおい、止めろ! アジトを壊す気か!」

ラール・トゥアール爆裂の仕組みを開放せよ!」

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