第5話 特訓の日々
欲しい知識が記憶の中にあったとしても、この膨大な情報の中から探さないといけないので、コツが分からないとずっと情報の迷宮の中を彷徨ってしまう事になる。
と言う訳で、最初は欲しい情報をすぐに見つけてそれを取り出す特訓だった。思い出せそうなのに思い出せないのはとてもストレスの溜まるもので、最初の数日はそのストレスとの戦いがメインになる。
コツを掴んで割と素早く情報を引き出せるようになったのは、特訓を開始して10日も経った頃だった。
この10日間、俺は必死に集中していたために全くの飲まず食わず。それでも全然苦にならなかった。それが人形の特性ではあるものの、実際に体験してみると中々に気持ち悪いと言うか、どこまでも出来てしまうその現実を少し怖くも感じてしまう。
知識が自由に引か出せるようになったと言う事で、今度はそれを使いこなす訓練に移った。具体的に言えば、魔法の特訓と言う事になる。当然、この魔法と言うのはこの世界に来て初めて使うものだ。
知識はあっても最初からうまく使いこなせるかは分からない。とにかく次の段階に進んだと言う事で、特訓の場所を移動する事になった。
ゼルフィスに連れられてやって来たのは、どれだけ魔法を使ってもダメージが外に漏れない実践室と言う部屋。そこに移動した俺達は、ここで本格的に魔法の実践訓練を始めた。
龍の扱う魔法は人の扱う魔法より高度で洗練されたもの。人の使う魔法は、その龍の使う魔法を人が使いやすいようにカスタマイズしたものらしい。
他にも色んな情報が流れ込んでくるものの、すぐに魔法を試したかった俺は余計な情報をシャットダウンして、今すぐに使えそうな魔法をしっかりと厳選する。
跡継ぎとして作られたのだから、きっと魔法もうまく使えるはずと自分に強く言い聞かせて、まずは簡単な魔法から再現していった。
「
「おお、火が出せたな!」
「
「おお、風も使えたな!」
どんな魔法を使ってもゼルフィスが喜んでくれるので、俺は調子に乗ってどんどん魔法を試していく。実のところ、簡単なものから究極奥義まできっちりと知識では覚えてしまっているのだ。これ以上のチートはないよな。
魔法系統も4大元素から光に闇、重力、召喚、解錠、各種補助魔法、龍独自の龍魔法、翻訳魔法、読心魔法、回復魔法となんでもござれだ。
慣れていないからまだ使いこなせてはいないけれど、その内慣れればきっと全ての魔法をマスター出来るのだろう。何しろ俺の人形の体はそう言う風に作られているのだから。
魔法を試すのは楽しいし興奮したのだけれど、何せやたらと種類が多い。基本魔法が無意識でも使えるくらいになって、ようやく第一段階クリアと言う感じだ。この程度使えたらまあいいんじゃないかと言うレベルに達するだけでも、20日もかかってしまった。
そのレベルに達したのを見届けたゼルフィスは、改めて俺を呼び出した。
「これから人と交わるにおいて、変身魔法は必須の技術じゃ」
「それはマスターしてるよ、ほら」
俺は自分の成果を見せつけるように無詠唱で人形から人の姿に変身する。そのイメージは当人のイメージに依存するらしく、人に変化した俺は元の世界にいた頃の自分自身、15歳の男子高校生の姿をとっていた。
「ふむ、まあいいじゃろう。では次は剣術の特訓じゃ!」
人間体になった俺の姿に満足したゼルフィスは自身も魔法で人間の姿となる。その姿は身長2メートルのムキムキマッチョマン。身長170センチの俺とは体格差がありすぎる。
ただ、パワーはいくらでも魔法でフォロー出来ると言う事で、俺はそんな大男を前にしてもちっとも怖いとは思わなかった。大体、大男とは言っても中身は甘々のゼルフィスだし。
そうして、今度はその状態からの特訓が始まる。剣術なのでお互いに武器をとって構えあった。この剣術の知識も既に記憶の中にある。後はそれをトレースするだけだ。
「では、行くぞ!」
「望むところだ!」
こうして俺は、人間体になってからの体の使い方をゼルフィスによってみっちりとレクチャーされる。元が人形なだけに人間のようにすぐに疲れると言う事もなく、魔法で補強された体はすぐに素早い動きや繊細な動作を可能にしていく。
頭で考えた事が正確に動きに反映されるのが楽しくて、俺はこの特訓もすぐに夢中になったのだった。
一週間も鍛錬したところで剣術も体術もすっかりマスターしてしまい、その成果にゼルフィスも満面の笑みを浮かべる。
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