第3話 ここはもう乗るしかない!

「何だこれ? 気持ちが悪い……」

「まぁ少し落ち着け、最初は仕方がないが、慣れると便利なのものじゃぞ」

「おいドラゴン、俺に何をした!」

「記憶魔法を使ったのじゃ、お主の記憶領域に直接情報をダウンロードした」


 ゼルフィスはそう言うと俺の頭をなでてきた。体が大きいので指で慎重に埃を払う感じだ。俺とドラゴンとの大きさの差はそのくらい違っていた。仮にゼルフィスが30メートルと仮定するなら、俺の全長は30センチになるだろうか。体が人形だから……。

 そもそもどうして俺は人形に? あ、そうか、ゼルフィスが子供を作れなかったからだ。あれ? 何でそんな事を俺が……? もしかして本当に記憶させられた? 


 じゃあ、この人形……これは召喚人形って言うのか。異世界から魂を召喚させて動く人形として遊ぶ玩具、そんな玩具に俺は宿らされたんだ。で、本来はその時に魂の記憶は消されるんだな、混乱させないために。俺の場合はゼルフィスが人形を自作したから、その機能をつけ忘れたんだ。

 どうして龍が人形を自作したかって言うと、市販の召喚人形では自分の全てを継承させる事が出来なかったからだよな、うん。


 あれ? 何で疑問の答えを俺はあらかじめ知っているんだ? 知らないのに知っていると言うこの状況に感情が追いつかない。


「どうして知らないはずの事を思い出せるんだよ! 気持ち悪い!」

「何を言う! 龍族はそうやって知識を継承していくんじゃ!」


 今までどんな暴言を吐かれても柳に風だった知の龍はここで初めて不快感を表に出した。自分の事はともかく、種族全体を侮辱されれば流石に感情は動くらしい。

 要するに、俺はこの異界の住人によって魂を召喚されてしまったと言う事のようだ。つまり、元の世界的に言えば俺は死んでしまっている。それが例の謎の突然死の原因なのだろう。


 そう、今俺の目の前にいる龍こそが元の世界での俺を殺した張本人だ。全く何の悪意もなく、ただ俺を自分の息子にするために――。


「ゼルフィス……俺はもう戻れないのか?」

「まぁそうなるのう。お主の世界に召喚士がいれば話は別じゃが」

「そんなのがいたら謎の突然死が問題になったりなんかしてないっ!」


 大体の状況がしっかり飲み込めたところで、俺は感情を爆発させる。怒った俺を見たゼルフィスは困惑の表情を浮かべた。


「お主には気の毒な事をしてしもうた。だが受け入れてはくれぬか? その代わり、お前には儂の全てを与えようぞ。悪くないと思うがのう」


 龍はその巨大な顔を俺に向かって近付けてくる。それは有無を言わせない迫力で、現実を力付くで受け入れさせる威力としては十分過ぎるものがあった。

 ゼルフィスの目的は跡継ぎの育成であり、俺を息子扱いしてくれる。なら、確かにそれは悪い条件ではないのだろう。何しろ古今東西、龍と言うのは神の化身的な存在だからだ。これがそこら辺のザコモンスターだったら、今頃自分の運命を呪っていたに違いない。


 時間は戻らない。過去に戻れないなら今の状況を受け入れるしかない。転生したら龍の息子って言うのも悪くないじゃないか、むしろ勝ち組だぞきっと。そう考えを切り替えると、俺は少しずつ気持ちが楽になっていった。


「分かったよゼルフィス。俺はここで生きるしかないんだよな」

「そう言う事じゃ。それと、出来れば儂の事は父と呼んで欲しいのう」


 目の前の威厳のありそうな巨大龍は照れくさそうに頬をポリポリと掻く。どうやら父親扱いをされたいらしい。

 ただ、転生前の記憶がガッツリ残っているので、流石にそんな簡単に気持ちを切り替える事は出来なかった。再婚して親が変わった場合とか、こんな感じなのだろうか?


「えぇと……。それはちょっと」

「そ、そうか……」

「け、けど! 父とは呼べないけど……。そうだ、ゼルフィスだからゼルさん、って呼ぶよ」

「お、おお……。まずは一歩前進じゃな」


 こうして呼び方問題は一応解決する。次の課題は息子問題だ。て言うか、この選択肢は受け入れる一択しか有り得ない。何も知らない世界で、非力な人形の体で何のサポートもなしに何も分からない外に放り出されたら、その先は悲惨な未来しか待ち受けてはいないだろう。


 それに、龍の力を受け継がせるために作った人形に俺は宿っている。だからきっと俺は立派な龍の息子になれるはずだ。

 ここはもう乗るしかない、このビックウェーブに!

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