第2話 謎の突然死事件

 その謎の事件は一年前から始まっていた。3日に1回くらいのペースで誰かが突然死に始めたのだ。その現象は国を問わず、健康状態を問わず、年齢性別も問わず、時には複数人が同時に亡くなる場合すらあった。

 何故死んでしまうのか、その条件は全く解明されず、現代のオカルトとして一部の人々の間でホットな話題になったとかならなかったとか。


 原因は不明なものの、その死亡者数は大したものではなく、多くの人にとってはどこか他人事と言う雰囲気もあり、俺達含む学生達の間ではちょっと怖い噂話程度の認識しかしていなかった。

 実際、自分達の周りでこの事件の被害者は現れていなかったし。


「本当に怖いよな、謎の突然死」

「とりあえずまだ地元でそう言う話を聞かないからいいけど」

「バカ、今まで起こってないって事はこれから起こるかも知れないじゃんか」


 俺は中学時代の腐れ縁の友人と、そんな雑談をしながら登校していた。突然死の話題はどこか都市伝説的なものがあり、何かのついでの話のネタ扱いだった。


 その日、俺は昼の弁当を食べた後、リラックス出来る場所を求めて屋上へと向かう。いくつかある校舎のほとんどには鍵がかかって出られないものの、運が良ければ開放されている屋上があったりするのだ。

 高校入学後の気ままな冒険で偶然見つけたその場所は、俺にとってのベストプレイスだった。


「よっし! 今日も開いてた!」


 鍵がかかっていないのを確認して、俺は屋上へと足を踏み入れる。そこは自分以外誰もいない特別な場所。いつか誰かにこの場所がバレるまでは俺の貸し切りだ。

 季節は5月。夏になる前の一番気候のいい時期。今日も頭上には真っ青な青空が広がっていて、いい昼寝日和だった。俺は適当に心地良さそうな場所を探してそこにゴロンと仰向けに寝転がる。


 さあ、今から至福の時間の始まりだ。初めてここで昼寝した時は気持ち良すぎて思わず5時間目をさぼってしまったけれど、そんなヘマはもうしない。

 今はいつも始業5分前には自動的に目が覚める。きっとこれは俺の才能のひとつだな。


 そんな訳で、俺は余裕を持って昼寝を始める。ここまではいつもと変わらないルーチンワークだった。


「あれ? 変だぞ」


 異変に気付いたのは、眠りに落ちるそのほんの少し前。突然体に謎の振動が伝わってきたのだ。この状況に違和感を覚えて起き上がると、自分の周囲直径2メートルくらいの範囲にゲームやアニメでよく見るような魔法陣がプロジェクションマッピングのように床に描かれていた。


「うわ、これってまさか……」


 嫌な予感を感じた時にはすでに遅し。次の瞬間にはぷつんと意識が途絶えてしまった。

 目の前が真っ暗になったかと思うと、ふわりと体の感覚がなくなってしまう。不安になって漆黒の闇の中を必死でもがいていると、今度は目の前に光が見えてきた。無我夢中でそこに辿り着こうとしたところでまた意識が途絶えてしまう。

 次に視界を取り戻した時、もうそこは俺の知っている世界じゃなくなっていた――。



「起きたか。少しは落ち着いたかの?」


 巨大なドラゴン、ゼルフィスは俺をベッドに寝かせてくれていた。やっぱりサイズ感がおかしい。ただ、自分が置かれている立場は朧気に理解出来てきた気はする。

 きっともう元の世界には戻れない。そう、これは夢じゃなかったんだ。それが実感出来たところで、色んな思いが湧き上がって止められなくなってしまう。


「うわああーっ!」

「まぁ、仕方ないかのう。記憶がそのままなのじゃからな……」


 ゼルフィスは俺を気遣うように優しく見守っている。どうやら悪いドラゴンではなさそうだ。


「我が息子よ、落ち着いたら記憶の中を探ってみよ。お主の疑問は大抵それで晴れるはずじゃ」

「え? 記憶?」


 俺は取り敢えず言われたままに頭の中から記憶を取り出そうと試みた。すると不思議な事に様々な事を俺は記憶していた。なんだこれ? 何かされたって事なのか? 

 俺はこの謎の体験に理解が追いつかず、思わず頭を抱えてしゃがみ込む。

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