第6話 盗賊のボスが現れた

「よくすぐに売られなかったね」

「ラギルはきっと最高に高く買ってくれる相手を探してるのよ」

「ラギル? もしかしてこの盗賊団のボス?」

「そうよ、彼だけは特別なの」


 ナノはそのボスの話を得意げに詳しく説明する。顔はイケメンで盗みの腕も一流で、体術も格闘術も魔法も適う人はいないのだとか。

 その自慢めいた話があまりに長いので、龍輝はいつしか話を右から左に聞き流していた。


「随分俺の話で盛り上がってるみたいだな……」


 気配もなく突然話しかけてきた第三者の声に龍輝は振り向く。そこには彼女がずっと語り続けていた盗賊団のボス、ラギルが立っていた。彼女の話の通りに長身で女性にモテそうなイケメンだ。

 例えるなら、海賊で有名な映画の主役にどことなく雰囲気が似ていた。


「俺達のアジトに単身で乗り込むとはいい度胸してんじゃねーか」

「ラ、ラギル……?」

「ああそうだ。お前のステルス魔法、俺には効かねーぜ」


 ステルス魔法はある程度の魔法のレベルがあれば見破る事が出来る。ナノの言うと言う通り、このボスは相当の手練であるらしい。確かに漂わせている雰囲気は只者ではなかった。数々の修羅場をくぐり抜けた凄みがそこにあった。

 ただ、だからこそ、それほどの男がただの盗賊のボスに収まっているのが場違いなようにも見えていた。


「お前、その目……人の目じゃないな……」


 ラギルはステルス魔法どころか、龍輝の真の姿まであっさりと見通してしまう。人間化の魔法は幻を対象者に見せているのではなく、物理的に人の姿に体を変化させる魔法であり、そう簡単に見破られるものではない。

 同じ人形で特別なセンスを持つナノならともかく、極めているとは言え普通の人間に魔法を見抜かれると言うこの事態に、龍輝はゴクリとつばを飲み込んだ。

 ラギルはこの人間化した召喚人形に興味を持ったのか、ぐいっと顔を覗き込む。


「それにしても、龍の目を召喚人形に使うとは贅沢だな」


 龍の目とは龍輝の目に使われている宝石の事。魔力を宿せる特別で貴重な宝石で、魔法使いの間では伝説の宝石と呼ばれ高値で取引される代物だ。ラギルは盗賊なだけに、宝石関係の知識は本職の鑑定士レベルの知識を持っていた。


「うわ、うわわわわーっ!」


 自分の体の秘密を見透かされた龍輝は、このボスによってバラバラにされてしまう最悪の未来をイメージしてしまいパニックになる。その混乱で、彼は洞窟内では使ってはいけない爆裂魔法を発動させてしまった。


「火の精霊よ、土の精霊よ……」

「おいおい、止めろ! アジトを壊す気か!」

ラール・トゥアール爆裂の仕組みを開放せよ!」


 魔法の発動後に我に返った龍輝は、呆気に取られていたナノの手を掴み洞窟脱出魔法で現場から離脱する。直後、洞窟は大きな音を立てて爆発、内部崩壊した。


 その後、結局目的の宝石を取り返していない事に気付き、龍輝は意気消沈。彼女に慰められながら自分の家であるゼルフィスの待つ龍の住処に帰宅する。

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