第5話 特別な召喚人形

 飛行魔法で空を飛び、そのまま悪党のアジトへと一直線。そこは街からかなり離れた険しい山々の中にある洞窟だった。場所が分かってからは辺りを警戒しながら慎重に彼は行動を開始する。洞窟が見える距離に着地すると見張りがいないかの確認。どうやら出入り口付近には人の気配はなさそうだ。

 そのままゆっくりと洞窟の入口まで辿り着くと、息を殺しながらそおっと中を覗き込む。流石に中には何人かの人の気配が感じられた。


 中が洞窟と言う事もあって、無用な戦闘を避けたかった龍輝はここで姿を消すステルス魔法を自分にかける。こうして誰にも気付かれなくなったところで慎重に敵のアジトへの侵入を開始した。


 洞窟は最初からそうだったのか、盗賊達が掘り進んだのか、簡単な迷路のようになっており、所々に各種の部屋が作られていた。個人の部屋にトレーニングルーム、倉庫、厨房、食堂、作戦室、娯楽施設に何と酒場まで完備している。中々に充実した設備になっているようだ。

 今回の侵入目的は盗まれた宝石の奪取。なので、各部屋の調査は簡単に済ます。最終目的地は盗んだお宝を保管しておく宝物庫だ。


 しかし、その一番肝心な場所は中々見つからない。盗賊にとっても一番大事な場所だけに、かなり奥深くの簡単には辿り着けないような場所にその部屋を作っているのだろう。

 大体の場所を探し尽くした彼は、やがて探していない最後のルートに足を踏み入れる。奥の奥の最深部、入り組んだ突き当りに、ついにお目当ての宝物庫を発見した。


「ここに違いない。うん、やっぱ鍵はかかってるよな」


 当然、盗んだお宝を集めておく部屋だけあってその分厚い扉は厳重に鍵がかけられていた。少し調べたところ、魔法的な結界に物理的な鍵に人工精霊による合言葉方式の認可式となっている。


 これらを魔法を使って解除する事はそんなに難しいものではなかったものの、雑に開けると開けた事がすぐにバレてしまうため、何重にも魔法偽装を重ねがけして慎重に各種難関をクリアしていく。

 最終的に解錠出来たのは、作業を始めてから2時間後だった。


「おお……これはすごい……」


 そこにはあの雑魚な盗賊達が集めたとは思えないほどのお宝が所狭した集められていた。お約束の宝箱には貴金属類に金貨の山、高級そうな美術品に、古代兵器っぽい各種遺物、武器に防具と、龍輝はそのお宝類に目がくらみそうになる。

 これだけたくさんあるならちょっとくらいちょろまかしても……と邪な誘惑にも襲われるものの、彼はすぐに顔を左右に素早く振ってこの邪念を振り払う。


 奪われた宝石だけ取り返せればいいとお宝を選別していたところで、龍輝は自分と同じ召喚人形を発見した。

 この宝物庫に保管されているのだから、それなりに価値のある人形なのだろう。


 確かに街で見かけたよく見かけるタイプの人形と違って、どのパーツをとっても特殊仕様になっている。可愛い女の子タイプのその人形は専用の椅子にちょこんと可愛らしく座って眠っていた。肌の作りも生々しく、まるで本当の少女を小さく圧縮したみたいにすら見えてしまう。肩まで伸ばした髪はサラサラで黄金色に輝いていて、服もまた高級そうな装飾のついた服を着ていた。

 あまりにも特別すぎていたのもあって興味を抱いた龍輝が手を伸ばすと、その人形は近付いた同類に反応したのか突然目を覚ます。


「あら? あなたも人形ね」


 龍輝は魔法で人間の姿に変わっている。これは誰にもバレないはずだった。それが一瞬で見抜かれてしまい、彼は分かりやすく動揺する。


「え? 分かる?」

「私は特別仕様なの。同じ人形はすぐに分かる。でもあなた、不思議な作りをしてるのね」

「ああ、俺は……俺の体は龍に作られたんだよ。息子として」

「まぁ、龍!」


 龍輝の出自を聞いて、女の子人形の目は輝いた。自分とは違う特別仕様の人形に興味を抱いたようだ。ここからは人形同士、話が弾みに弾む。

 彼女は初めて召喚人形を作った術士がその技術を極めに極めて作った採算度外視の一品で、名前をナノと言った。残念ながら魂の記憶は消去されていたものの、自分が別の世界からやってきたと言う事だけは朧気に感じ取れていたらしい。


「ナノもきっと元は俺達の世界の人間だったんだよ」

「そうかも。でも異世界ってたくさんの世界があるって言うから。同じかどうかは分からないけどね」

「へぇ、詳しいんだ」

「父様が色々と教えてくれたから」


 ナノの言う父様とは作り主の術士の事。彼女は自身の最高傑作として術士が大切に保管していたらしい。その術士の死後、ナノの取り扱いについて現場が混乱している隙に彼女の価値を知った盗賊に盗まれてしまったのだとか。

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