第4話 地方都市シーガル
人の街で買い物をするため、まず魔法で人間の姿になった龍輝は、準備を整えると龍の住処から街へと向かう。歩きだと時間がかかるために飛行魔法を使った。
初めて外に出たのですぐには距離感が掴めなかったものの、山を3つほど飛び超えたところで街らしき影が見えてくる。脳内情報を照合し、そこが今回の目的地である地方都市シーガルである事を確認。
街に入るには通行証などが必要なようで、ゼルフィスから渡されたそれを使って中に入る。街では自分と同じ召喚人形があちこちでペットのような扱われ方をされていて、龍輝は少し複雑な気持ちを覚えていた。
購入者がそう言う扱いをするのは理解出来るものの、人形自身も盲目的に購入者に従っている。これが記憶消去の怖さなのかと、彼は記憶を消されなかった自分の境遇に感謝するのだった。
何か困る度に記憶のデータベースから検索する事によって、初めてのお使いはスムーズに行う事が出来た。メインの買い物である儀式用の宝石も無事に購入出来、彼はのんきに観光気分で街のあちこちを見て回る。
割と発展した地方都市なだけあって店も多ければ人も多く活気に溢れており、龍輝は異世界の雰囲気を存分に堪能した。大道芸人にチップを弾んだり、屋台のお菓子に舌鼓を打ったり……。
今までこの異世界では龍の住処しか知らなかったのもあって、そのどれもが新鮮で驚きに満ちていた。
街の雰囲気を堪能し終わってそろそろ帰ろうとしたその矢先、前方から住人達の叫び声が聞こえてくる。一体何があったのかと龍輝は右手を伸ばして探索魔法を使った。その結果はすぐに脳内にイメージとしてフィードバックされる。
叫び声の原因、それは突然襲ってきた強盗団が起こしたものだった。街の警備を強引に押し通すくらいなので、かなりの勢力の模様。こうして立ち止まって状況を分析している間に、強盗団の一味が龍輝の存在に気付き襲ってきた。
「テメェも金目の物をよこしやがれえ!」
「へぇ、ちょっと遊んでやるか……」
普通ならこの状況、争わずに逃げるのが正解なのだけれど、ゼルフィスに鍛えられた彼はその成果を試すチャンスとばかりに戦いの構えを取る。見た目で雑魚だと言うのが分かったので、体術だけで処理する事に。
構えを取りながら右手をちょいちょいと動かして挑発すると、その悪党は分かりやすく勢いに任せて殴りかかってきた。
「オメェ舐めんじゃねえぞォ!」
「せいっ!」
モブ雑魚だったのもあって、龍輝はそいつを片手で軽くひねる。流れるような体捌きで一瞬の内に悪党は組み伏せられた。その後、魔法で両手両足を拘束し、その辺に転がす。同時に気絶もさせたので静かなものだった。
同じ調子で何人もの盗賊を処理していると、路地裏から女性の叫び声が聞こえてきた。当然、彼はその現場へと向かう。
すると案の定、女性が悪党に襲われていた。しかも1人の女性に対して5人の屈強な男達が取り囲んでいる。この状況に龍輝は声を荒げた。
「待てっ!」
「何だぁテメェは」
「俺が相手だ!」
「ふん、やっちまえ!」
定番の雑魚らしいお約束のやり取りの後、5人の悪党は一斉に襲いかかってきた。特訓の時に複数戦闘のパターンもしっかりと仕込まれていたため、彼は華麗な動きで一瞬の内に雑魚悪党を仕留めていく。
「ふう、手応えないな」
「あ、有難うございます」
「いや~それほどでもぉ~」
綺麗な若い女性からお礼を言われるのに慣れていなかった龍輝は、思わず頬を緩ませる。視線をそらして頭を掻いていると、その隙を狙ったのか全く気配を感じさせずにそこら辺にいそうな軽薄そうなにーちゃんがぶつかってきた。
不意を突かえる形になって、彼は少しだけよろめいてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、うん、特に……」
女性に心配された龍輝はすぐに強がった。ただ、念のためにと持ち物チェックをしたところで、大事なものをなくしている事に気付く。お使いで買った宝石がなくなっていたのだ。そこですぐにさっきのにーちゃんの方に顔を向ける。
「待てっ!」
「これ、中々いいものだなぁ。貰ってくぜ」
にーちゃんは龍輝に向かって戦利品を見せびらかしながら挑発すると、そのままフッと姿を消してしまう。どうやら魔法で姿を消したようだ。この街に来た一番の目的の物を奪われてしまい、彼はすぐに行動を開始する。
「ごめん、俺、用事が出来たから」
「あ、はい。私は大丈夫です」
龍輝は女性に別れを告げると、速攻で探索魔法を発動。窃盗犯の気配を辿り、その後を追った。
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