第2話 目が覚めたらそこには巨大なドラゴンが!

 その頃、別の世界では召喚人形と言う玩具が流行していた。人形に別の世界の魂を召喚して定着させ、魂を宿した人形と一緒に生活すると言う遊びだ。元々は宮廷魔法研究家が魔法で動く兵士を研究している時に偶然出来たものなのだとか。

 兵器としての召喚人形の方は、開発がうまく行かずに研究は凍結したらしい。


 召喚人形は人形に魂を宿らせるのだけど、その魂はその世界の魂ではなく、もっぱら異世界からの魂が召喚されていた。この世界の魂を人形に宿らせる事は命をもてあそぶ禁忌として禁止されていたからだ。

 なので、人形がブームになると、この世界とは直接関係のない異世界からの魂が次々に召喚され、人形に宿らされていった。


 召喚されて人形に宿った魂は記憶を消され、無垢な子供として人形を欲しがる大人や子供達相手に飛ぶように売れた。

 ある家庭では愛玩用として、別の家庭では情操教育として、様々な用途で人形達は使われていった。


 そんな人間達のブームを見て、羨ましがるものがいた。それは人ならざるもの、人より神に近い生き物、そう、龍だ。龍は基本的に人とは一定の距離を取り、お互いほとんど干渉せずに生活している。そうしてどちらかが強く必要とした時にだけ接触する、そう言う関わり方を続けていた。

 龍は天候を操り、人は貢物を捧げる、それがこの世界の龍と人との基本的なスタンスだ。


 けれど、中には人に興味を持ち、人の流行りを真似したがる変わりものの龍もいる。その龍もまたそんな変わりものの一体だった。後に知識龍と称されるのその龍の名はゼルフィス。彼は人に興味を持ち、人の生活を研究する事を趣味にしていた。


 召喚人形に興味を持ったゼルフィスは自分もまたその人形が欲しくなり、自分で人形を作ろうと思い立つ。彼がどうして人形を欲しがったのかと言うと、自分の息子が欲しかったからだ。

 過去に色々あって息子を得る事が難しくなったゼルフィスは、息子代わりの人形を作って今までに自分が得たもの全てをその人形に託そうとしたのだ。


 人形の自作を試みたのもそれが主な理由でもあった。市販のものでは能力が制限されていて、とてもじゃないけど龍の力を全て伝授する事は出来ない。そこで、高出力の力を発揮出来るように特別仕様の人形を試行錯誤しながら作り上げていく。


 最高級の素材と最高度の魔法技術の粋を集めて、その人形はついに完成した。古代から伝わる龍の知識を総動員して作られたそれは、唯一無二の特別な召喚人形となった。全長30センチの可愛らしい人形は、けれどまだそのままではただの可愛らしい愛玩人形でしかない。


 全精力を注いで究極の人形を作り上げたゼルフィスは、これまた自作の召喚用祭壇にそれを設置する。そうして準備が整ったところで、次に魂を宿らせる魂召喚の儀式を始めた。

 この人形に相応しい魂を召喚するために、儀式は三日三晩と続く。食事もとらず、睡眠もせず、トランス状態で儀式を続け、精も根も尽きた彼は三日目にバタリとその場に倒れた。


 暗闇から射す光を感じてまぶたを開けた龍輝の意識にいきなり飛び込んできたのは、豪快にいびきをかいて眠っている巨大なドラゴンの姿だった。


「何だこれ? 何だここ!」


 自作の人形だったが故に魂の記憶を消される事もなく、人形の体を得た彼はただただ自分の身に起こったこの事態に狼狽する。目の前の全長30メートルはあろうかと言うファンタジーな巨大生物を目にして、彼は腰を抜かした。


「おお、目覚めたのか……」

「ド、ドラゴンが喋ったァァァ!」

「こらこら、私の事は父と呼びなさい、我が息子よ」

「は?」


 ついに人形に魂が吹き込まれたと言う事でゼルフィスは大喜び。背中の羽をワサワサと動かし、周囲に突風を発生させる。龍輝は顔を手で覆いながら、自分がどうなってしまったのか、状況を全く把握出来ないでいた。


 息子の困惑する様子を目にして説明の必要性を感じたゼルフィスは、すぐに自身の事情を記憶魔法として人形に向かって発動させる。この魔法で一気に大量の情報が流れ込んできたために、龍輝はキャパオーバーを起こしてそのまま倒れ込んでしまった。

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