第2話 百合乃 氷命
不思議な黒猫との邂逅から明くる日。この日は職員会議のため、「正式に」部活は休みだった。
昨日、全身ずぶ濡れになりながら帰った僕を見た悠歌が、天変地異が起きたと言わんばかりに取り乱してしまう事件が勃発。僕はきっと余命幾ばくもない存在であるかのような待遇を受けてしまった。ヒジョーに申し訳ない気持ちで一杯になりました。
大事になってしまったりもしたが、特に風邪を引くことなく、明くる今でも体調はバッチリな僕なので。頑丈に生んでくれた母親に感謝だ。
いつも通り悪友と駄弁り、いつも通り授業は程ほどに参加し、いつも通りトラブルメーカーによるイタズラが至る所に飛び交い、笑声と怒声と呆声が入り交じり。そんないつも通りの学校生活を終えつつ。
今日こそは『深淵探し』に出掛けようと試みていた。
昨日、通り抜ける予定だった土手の道を自転車で駆ける。相変わらず春麗らかな陽気だ。頬を撫でる風が心地良い。
周囲には人影は無く、猫影も無し。もしかしたら今日も……なんて考えたりしたが。
僕が見たものは、一体何だったのだろうか。
日を跨いだ今尚、僕はあの情景を思い返していた。
春の温もりが見せた幻覚か、はたまた僕の頭が春になったのか。
しかしあの、現実離れしているようで確かな存在感を醸し出す猫を、幻覚の一言で済ますのは容易ではない。
「また会いたいな」
無意識に溢れた言葉が、春の風に吹かれて消える。
これだけのどかな日溜まりが散在しているのだから。きっとどこかで、またあの猫を見掛けることもあるだろう。なんなら、友人にも聞いてみるのも良いかもしれない。あれだけインパクトのある猫なのだから、もしかしたら自分が知らないだけで、結構ここらでは有名になっていたりするのかもしれない。ペダルを踏み込む足に力がこもる。
そうと決まれば、先立って行うべきは猫のことではなく本のこと。高揚し出した僕の頭の中では、探したい本のタイトルがズラズラと羅列されていく。
何の気無しに駆け抜けていく本屋への道で。
自転車のタイヤが地面を踏む音、春風を切る音。
この中に、小さく小さく。
シャランーーーと。水琴鈴の音が聞こえたことに、僕は気付くべきだった。
本屋から出てきたときには、辺りは薄暗くなってきていた。春とは言え、まだ日が長くなりきっていない。いつもであれば「やってしまった」と後悔するのだが、今の僕にはなんてことはない。本という収穫を得た僕は無敵だ。主に今だけ。帰宅したときには絶対周囲は真っ暗になっているだろう。悠歌が頬を膨らませて怒りの表情を作る姿が想像できる。どうせすぐに視線を外されてしまうのだろうが。
とは言え、体の良い言い訳くらいは考えた方がいいかしら。
そんなことを考えつつ、ひたすら帰路を進んでいた矢先だった。
シャランーーー
水琴鈴の音が、僕の耳に届いた。
そして音が聞こえたと自覚した瞬間、ガクンッ、と、踏み締めるペダルに重みが増した。
「うぉッ!?」
突然の負荷に、倒れまいと、ハンドルを操作する手に力が入る。それでもフラフラと左右に身体を揺らしながら。
咄嗟にブレーキをかけようと、ハンドルを握り締めていた手を軽く開いた。
「あは♪ 良いわよ、まるでヤンチャなロバさんに乗っているみたいねッ! ……って、あら、ダメよブレーキなんてかけたら。もっと楽しみましょ!」
不意に、純粋無垢な声が耳元から聞こえた。
次いで、背後から僕に抱き着くように伸ばされた細い腕。その腕がブレーキをかけようとしていた僕の手に絡まり、それを許してくれなかった。
場違いながらも、その手の柔らかさに一瞬ドキッとしてしまった。
「ちょ、ちょ、ちょッ!」
言葉が紡げない。言葉を選んでいる余裕もない。
とにかく倒れまいと、部活で培った体幹をフルに活用し、バランスを維持することに全神経を向ける。
「『ちょ、ちょ』? もしかして蝶々? どこにいるのッ!? ワタシも見てみたいわッ♪」
僕の必死さなど露知らず、背後から聞こえる声は恐ろしく悠長だった。無邪気極まりない少女の声。
ソプラノの中でも少し高いそれを耳元で感じていると、またしてもガクンッ、と。今度は肩に僅かな重みを感じた。振り向く余裕は無いが、肩から伝わる感覚からして、僕の肩に手を置きながら、自転車の後ろに備え付けられた荷台の上で立ち上がっているのだろう。
とんでもないバランス感覚だな、とか。その荷台には僕の鞄が括り付けられてなかったか、とか。ツッコミたい気持ちが沸々浮かんでは、恐怖という針がそれをパチンと弾けさせる。
「蝶々さん、見当たらないわね。ユウ、もっとスピードを緩めてくれないと、景色を楽しむこともできないわよ」
頭上から降り注ぐ、至極身勝手な言葉に食い付きたくなったが、少女の手が退いた今ならブレーキがかけられることに気が付いた。
一瞬迷ったが、えいや、とブレーキを握り混む。
強烈な慣性の法則を全身で感じながら、車輪のゴムとアスファルトとの摩擦で生まれる異臭が鼻を突き刺し……ようやく自転車は止まってくれた。
同時に上空を弾けるように見上げた。あれだけのスピードを突然零にしたのだ。準備どころか荷台で立ち上がっていた背面の少女は、きっと勢いのまま僕の頭上を飛び越え、前方へ吹き飛んで行ったことだろう。
そんなゾッとするような想像をしながら見上げた空はーーー白と青のストライプで染まっていた。
いや、染まっていたのはほんの一瞬の出来事で。おそらく普段は見られない、見てはならないであろうその縞模様が眼球にパシャリと写し出された次の瞬間には、ふわっと広がる制服仕様のスカートと流れる黄金色の髪、そして紅茶に似た香り。それらが体操選手顔負けの美しいフォルムで、空中を連続回転しながら通り過ぎーーー僕の前方で華麗に着地を決めていた。
コマ撮り写真がスロー再生されているかのような錯覚に陥っていた。その流れるような一挙手一投足に、アホ丸出しの顔で眺めていたであろう僕を、トラブルの発端である少女がゆっくりと振り返った。
「……もう今のアトラクションは終わってしまうの? もっと続けても良かったんじゃないかしら」
「今のシーンに対するツッコミはないのかい」
何事も無かったかのように飄々とした態度の少女に、思わずツッコミを入れてしまうのは間違っていないはず。強いて言うなら、僕からではなくこの眼前でぷりぷりと小さな不満を漏らしている少女の口からツッコんでほしかった。
「なんで僕の自転車に乗っていたのかな……百合乃 氷命(ゆりの ひめ)サン」
「アナタ……ワタシの名前を知っているのね、凄いわ! どうして知っているの?」
「おそらくあなた様を知らない人は、学校中探しても見つからないだろうからだよ。で、なんで僕の自転車に乗っていたのですか」
「そこまで有名人になっているかしら? ワタシ、まだサインを求められたことも、握手を求められたこともないわ。なんなら、ハグを求められることもないわね」
「僕の話を聞いてくれ」
どこまでもゴーイングマイウェイな少女ーーー百合乃 氷命は、好奇心に満ちた瞳で僕を覗き込んでくる。鼻がぶつかりそうな勢いだ。ふわっと紅茶のような香りがし、先程の匂いも氷命から放たれた匂いなのか、独特な女子の香りだな、等と変態的思考に耽りそうになる自分が若干嫌になる。
百合乃 氷命と言えば、僕の通う私立マクミラン高等学校内で、その名を耳にしたことがない生徒を探す方が難しいくらいには、有名な人物である。悪い意味で。
僕と同じクラス、学年は2年生。金糸を彷彿とさせる綺麗な黄金のロングヘアーに、中学生じゃないかと疑わしくなる程の低身長。頭に黒のカチューシャをはめ、その端に薄いオレンジ掛かったガラス細工のような、美しい水琴鈴を付けている。平均レベルである僕の身長と比較して、彼女は僕の胸くらいの高さしかない。背丈に見合う体つき、絵画世界の住人のように整った童顔は、彼女が世間一般的に美少女の分類に入ることを象徴している。ファイアオパールの双眸には好奇心がキラキラと輝いているように見えるのは、僕の中の好奇心が共鳴していることからくる幻覚か。その見た目と言動から、好奇心旺盛な『不思議の国のアリス』の主人公から、『アリス』と学校内では呼ばれている。初めにそれを聞いたときは「見たまんまだな」というごく普通の感想しか浮かばなかったが……。
黙してポージングを決めていれば、およそそこら辺にはなかなか転がってはいないであろうハイレベルな美少女であるはず。しかし勿論こんな前振りをする以上、それらを台無しにする要素があるわけで。
悪い意味で有名。この言葉通り、とにかくマクミラン高校の中では常にトラブルメーカーとして名を馳せている。トラブルメーカー=百合乃 氷命と辞典に記載できる程に、日々怠惰に流れるだけの学校生活に刺激を加えてくれるのが彼女なのだ。ただ、刺激がちょっぴり過激。
人に怪我は負わせない、授業妨害もしない。そこにこだわりがあるのかは知らないけれど、それでもアリスのイタズラは一様に規模がデカイ。対象となる人物は毎日違うので、特定への執着ではないようだが、それが却って被害を大きくしているような気がする。
例として、今日の朝、最初に起きたことを挙げようか。
朝、ホームルームが始まる前。校内で飼育されている兎小屋がカーニバル会場に装飾されていた。カラーのLED電球をふんだんに使い、特大スピーカーを4機、小屋を中心とした4方向へ音を届けられるように設置、大音量で何故か流れてくるのは『きらきら星』。どこから見つけてきたのか、着ぐるみサイズのバカデカい兎のヌイグルミが2体、遊園地の客引きマスコットのように小屋の入り口付近に鎮座させられていた。おそらくお手製であろう、紙花が隙間無く、小屋だけに収まらず、周囲の木々にまで飾り立てられ、その木々、そして住民である兎達はカラーひよこよろしく、とても目に悪い蛍光色なペインティングがなされていた。
朝一で様子を見に来た飼育係の生徒が事態を発見したようだが、あまりにも範囲が広いのと、飾りの物量が豊富であったことから、片付けは思うように進まなかったようだ。
犯人はすぐに名乗り出てきた。それが氷命だった。というか、こんなことをするのは彼女くらいしか思い浮かばない。因みに、イタズラ理由は「絵本で読んだ動物さん達のパーティーが楽しそうだったの♪」だそうだ。……実にステキな理由ですね。
念を押すが、朝の最初の出来事である。つまり、この後にも騒動は数珠の様に繋がっていくわけなのだが……挙げ出したら切りがないので別の機会に。
そんな常時満場ソロライブを繰り広げる氷命が……僕の自転車に突然乗車してきたわけである。
僕はわざとらしく、額に手を当てた。
「あらユウ、頭が痛いの? お熱でもあるの?」
「一番標的にされたくない相手に標的にされた運命を憂いているだけなので気にしないで」
「誰かに命を狙われているのッ!? 猟師さんはどこにいるのッ!?」
「命を狙われるような殺伐とした人生は歩んできていないし、ぶっちゃけ命を狙われるより面倒な状況に陥っているんだけど。というか、なんでちょっと楽しそうにしているんだ」
「もしかしたら、ワタシの目の前でユウが撃たれてしまう可能性があるのよ? ちょっと期待してしまうわ」
「待って、それはなにか。僕に死ねと言っているのかしら?」
氷命とはそれほど話したりする仲ではないし、氷命自身は僕のことなど今初めて知ったくらいの存在だろう。ぞんざいな扱いを受ける謂れはないし、そもそもターゲットにされる筋合いもない。
「そんなわけないじゃない。死んでしまったら何にも面白くないわ。生きているからこそ、楽しいことだって沢山見つけられるんじゃない!」
至極真っ当なことを言われているはずなのだが、氷命が発言するとどうしてここまで嫌な予感がしてしまうのでしょう。
「ワタシが言いたいのは、ユウが命を狙われるくらい凄い人、という可能性があるってことよ。きっとそれだけユウは色々な特技を持っているということなのね。是非、ワタシにも見せてもらいたいわッ!」
「高い、無駄にハードルが高いッ! 僕の逃げる余地くらい残しておいてくれ……! というか、命を狙われるレベルの特技ってなんなんだ」
「でも……ユウの様子を見ると、命を狙われるような凄い力は無さそうね」
「ことごとく僕の話はスルーなのね」
もう放っておいても氷命一人で会話が成立するのではないかとすら思えてきた。
「そういえば、さっきから僕の名前を連呼してるけど……よく覚えてるね。同じクラスとはいえ、ほとんど会話すらしたことなかったでしょう。もしかしてクラスの人の名前は全員把握してるの?」
「勿論、覚えているに決まっているわ。名前ってやっぱり大事じゃない。人でも物でも、それを『それ』と示す大切な標よ。あと、名は体を表す、なんて言うけれど、それがミスマッチしてる人も沢山いて、その逆も沢山いて。見ていてとても楽しいもの」
「……そう、なんだ」
「ユウはその字の如くよね。『優』しいと書いて、ユウ。ユウが色んな人のお手伝いしたり、キキョウにお節介焼いたりする姿をよく見るもの」
「ちょっと待って、百合乃さんは僕のことをいつからターゲットにしてたのさ」
「ターゲット? というのはよく分からないけれど、ユウがいたからマクミラン高校に編入したのは確かね」
「は……」
絶句。去年の4月……いや、その前から……まさかそんなにも前から、僕は氷命から悪戯のターゲットに選ばれていたのか。戦慄が走るとは、こういうことを言うの……だ、ろう……?
「……あれ? 編入? 百合乃さんは去年の4月に入学してきたんじゃないの?」
僕の記憶が正しければ、確か僕の入学式当日にも、既に氷命節が炸裂していた気がする。正式な場で特大クラッカーを乱射させる半テロ行為、なかなか忘れられるような出来事てはないと思う。つまり入学式のときには氷命もいたはずだ。
「あら、そういうことにしたんだったかしら? 毎日が楽しいことだらけで、細かいことは忘れちゃったわ♪」
「結構大切なことじゃないのかな……」
入学か編入か、人間関係にも学校生活にも大きく関わる出来事なはずなのに、それすら『細かいこと』と処理してしまうとは。氷命の脳内スケールは余程広大であるようだ。
「でもこうしてユウとしっかりお話できたのは、とっても嬉しいわ。本当はもっと早くからお話しようと思ってたくらいなんだもの」
「それは……光栄、と取ってもいいのかな。でも、今までそんな素振りは感じなかったけど」
「ユウ以外にも面白そうなことが沢山で、寄り道していたらすっかり遅くなっちゃったわ」
「僕には外堀から埋められていた、と感じなくもないんだけどね」
今となっては、というのが正直なところ。
まあ、僕も健全な男の子ですし。トラブルメーカーとは言え、氷命のような美少女に注目されていたとなれば、内心ファンファーレが鳴り止まないパレード状態であるのは仕方無いことだろう。というか、ここで喜ばないなら男じゃない。
「……何よりーーー」
不意に、それまでの快活さが鳴りを潜めた声色で、氷命はぼそりと何事かを告げた。同時に僕等の傍らを駆け抜けた春風によりその言葉が掻き消されてしまったために、氷命が何と言ったのかが分からなかった。
「ごめん、よく聞こえなかったんだけど」
「いいえ、別に対したことではないわ。そうね……ユウのことを気にしているのは、なにもワタシだけではない、ということにしておきましょ。きっとその方が楽しいから♪」
「何その意味深な発言。どうして敢えて謎が残るように言うのさ」
「だってその方が、物語は楽しくなるじゃない? ほら、どんな物語にも伏線というものがあって、意味深な言動であったり、超展開なんてものがあったり。やっぱりそういう要素は、本の中だけの要素じゃなくて、実際に本の外でも必要なものだと思うわ」
「……日常には刺激が欲しい、ということ?」
「そう、それよ!」
繰り返すが、氷命の及ぼす刺激は過激すぎる。それを当の本人が自覚していないからこそ、質が悪いというか。
「百合乃さん、毎日のようにその刺激とやらを皆に与えている印象があるんだけど。むしろ日常を体験すらさせてもらえてないんだけど」
「なら、その今が日常なのね。刺激的なことが起きることが日常なんて……明日はどんなことが起きるのかしら! そう考えると、ワクワクするじゃない!」
「うん、他の人からすると、ワクワクじゃなくてドキドキが正しいと思う」
しかも悪い意味でのドキドキだ。胃に穴が開きそう。
「何もない日常を過ごしたって、それこそただ過ぎていくだけの日々なのよ。時間は沢山あるようで有限だもの、そんな勿体無いことはできないわ」
「その考え方は素晴らしいとは僕も思うよ。考え方はね。でもやっぱり、表現方法はいただけない部分が多々あるから……」
「表現方法なんて、それこそ人それぞれじゃない! ユウにはユウの表現のやり方があって、ワタシにはワタシのやり方があるのは当たり前よ」
「うん、つまり百合乃さんは今まで通りのやり方を変える気は無いってことね」
駄目だ、僕程度の力ではやはりこの問題児の暴走を食い止められそうにない。
どっと疲労感が僕の双肩にのし掛かったように、僕は大きく溜め息を吐いた。
「それじゃあ、さっきの意味深な発言も、時が経ってからのお楽しみ、ということにするよ」
「ええ、是非それが良いと思うわ♪」
終始笑顔であった氷命の、今日一番の笑顔が咲き誇る。
やはり容姿は洗練されているだけに、その笑顔は僕の心に温かなものを残した気がした。
自然と僕も笑顔になり、ふっと微笑んでいた。
「あら、もうすっかり遅くなっちゃったわ。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものね」
氷命は首にぶら下げた懐中時計を取り出し呟いた。それは華奢な彼女には似つかわしくない、手のひら大のシルバー装飾が施された懐中時計だった。
僕も咄嗟に、祖父の懐中時計を取り出し時間を確認した。辺りの薄暗さも濃くなってきており、それを証拠に時計の短針はもう18時を越えようとしていた。さすがに長居しすぎだ。
「遅いから、送っていくよ。家はここから近い?」
僕の誘いを、一瞬きょとんとした表情で返す氷命。しかしすぐに笑顔に戻ると、首を左右に振った。
「お見送りは必要無いわ。帰ろうと思えば、すぐに帰れるから」
「そんなに家は近くなの?」
「う~ん、家が近いというわけではないのだけれど……」
珍しく歯切れの悪い反応を示しつつ、氷命はいつかご招待するわ、と。僕の誘いを断った。
「百合乃さんが良いなら……。でも、気を付けてね、暗いから」
「ええ、ありがとう。……それじゃあ、また明日、学校で会いましょう」
「う、うん。それじゃあ」
笑顔で手を大きく振る氷命に照れ臭い気持ちを抱きつつ、僕は今度こそ帰路に着いた。曲がり角でふと振り返ると、氷命はまだ別れた場所から動くことなく僕を見送っていた。恥ずかしいような、嬉しいような。少なくとも嫌な気持ちではないものを胸一杯に満たしながら、僕は自転車を走らせた。
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