第2話 荒廃した世界で何を思ふ?

ブラウン管テレビ頭の青年…シーアは呟いた。

村から離れゴーストタウンにあった瓦礫の山の上でうつ伏せになり、銃に付いたスコープを覗いている。

銃口の先は先程の村を向いていた。

使っているのは対物ライフル…アンチマテリアルライフルのバレット M82。

シーアは、狙いを定めゆっくりとトリガーを引いた。

ドンッ…と暗く荒廃した土地に重い発砲音が轟く。

1発だけじゃ物足りない。

何発も、何度もあの村に向けて発砲する。

遠くからでも聞こえてくるのは人間の断末魔。

スコープの先には赤黒く染まった建物や下半身がない人間がいる。

俺を差別した村は生き地獄と化していた。

何故か笑いが込み上げてくる。

沢山の人間を殺しているからなのか?

逃げ惑う村の人間の姿を見て、俺は笑っていた。

今の俺を例えるならそう……アリを潰して楽しむ子供のようだ。

沢山嗅いできた匂いが風に運ばれて俺の所にきた。

断末魔が聞こえなくなった。

スコープで除くと、先の村は血溜まりと赤黒いなにかが建物にこびりついた廃墟と化している。

どうやら、あの村にはもう誰も生きていない。

生存者が居ないことを確認するとケースにバレットM82を閉まって俺はゆっくりと立ち上がった。

タートルネックとジーンズに付いたコンクリートの欠片を素手ではらう。

首元のコードが風に吹かれてゆらゆらと動いる。

瓦礫の山から飛び降りるとポケットにしまっていた地図と赤ペンを取りだす。


「ここもダメだったか…」


そう呟いて俺は地図に赤ペンでバツと印した。


「いつになったら安心して暮らせる土地につくのやら…」


俺の呟きは風に運ばれていった。

もうすぐ夜が開ける……開けたら次の村を目指して歩いていこう。

途中、闇市場で食料を仕入れなければ。

そんな事を考えていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。


「お兄ちゃん! 待って…!!」


咄嗟に振り返ると、少女がいた。

先程の村で俺の姿を見たがっていた少女だ。

少女はぜぇぜぇ……と上がった息を整えている。


「…お前は」

「お兄ちゃん! …私、お兄ちゃんに……着いていきたいの!」

「何で俺なんかに着いていきた…ん?」


俺は少女の姿をしっかりと認識した。

乱雑に切られただろう短い髪に所々汚れたワンピースのような布切れ……頬や耳、体のいたる所に赤い花が風に揺られている。

赤色の――ケシの花だ。


「お前も俺と同じ人外なのか?」

「うん……お母さんもお父さんも村長も長老も言ってた。お前は人外だっ……て」

「……何故村から追い出されなかった?」


と、少女に聞くとケシの花を指さした。

ケシが咲いている場所には傷痕や火傷のような痕が残っている。

怪我をした場所からケシの花が咲くのだろうか?

試してみようとは思わないが……


「わかんない……でも、村長がこの花は魔法の花だって言ってた」

「……………」

「だから、お前は一生この村の為にいるんだよー……って言われたの」

「なるほど」



村が裕福に見えた理由がはっきりとわかった。

少女の体から取れるアヘンを売っていたからあの村は裕福に生活出来ていたのか。


「確かに生かしておけば沢山のアヘンが取れるし、売れば大儲け出来るな」

「あへん?」

「あぁ、この花が枯れて実になった部分を傷つけるとアヘンって言う凄い麻薬が手に入るのさ」

「まやく?」

「お前みたいなガキには早い薬のことさ」

「ガキじゃないもん!ポピーだもん!!」


少女の頬がぷっくりと膨らんだ。

質のいいアヘンを取る為に沢山食べさせてもらっていたのだろう。

とても、血色のいい肌だ。


「お前……親がいるだろう?」

「ううん……パパとママはもういないの……」


果たして、今まで食べさせて貰っていたこの子が1人で生きていけるだろうか?

しかし、もう村には誰一人生存者は残っていない。

誰も彼女にご飯をあげる人はいないのだ。

俺が全員殺したからな。

きっと、生きる為に悪事に手を染めた事は無いだろう。



「お兄ちゃんに着いていくの!! ぜったいに!!」

「はぁ……」

「お願い…お兄ちゃん……」

「じゃあ……お前に問おう」


漆黒のカーテンの後ろから大きなスポットライトのような太陽が登ってきた。

ゆっくりと太陽が上がり、また一日が始まる。

少女は眩しいのか目をパチパチと閉じたり開いたりした。

小さくて幼い…俺と同じ人外の彼女に問おう。




「お前は…この荒廃した世界で何を思ふ?」

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荒廃した世界で何を思ふ? @kurogasaki0313

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