第21話・夏祭りデート 杏奈編

 周りの人にぶつからないように颯斗は杏奈の手を引いてリードしながら出店を回った。

時刻はまだ15時ということもあってタコ焼きや焼きそばの出店はまだ回らない。今の時間帯で食べ物を扱っている出店を回るとしたらチョコバナナやあんず飴の店だろう。

 ガラス細工などの小物を取り扱っている出店もあるが、手荷物が増えてしまうため、回るなら後の方がいい。


・颯斗は語る

 いやぁ、思った以上に今見てる景色が新鮮に感じる。

ましてや女の子と手を繋いで歩くのってこんなにも緊張するものなんだな。

手汗で滑ってはぐれなきゃいいんだけど……


 ゆっくり歩いていると進行方向から「杏奈!」と杏奈を呼ぶ女性の声がした。

2人は立ち止まって振り向くとそこにはサバゲーのブーニーハットを被って黄色のTシャツに藍色のハーフパンツを穿いて黒のスポーツタイプのバックサンダルを履いた里奈が右手に団子のように串に刺さった葡萄飴を持ってこっちに来た。

「里奈ちゃん! ここで会うなんて偶然だね!」

 驚く杏奈に対して、里奈は颯斗と手を繋いでいるのを見て、デート中であることを察する。

「あらぁ? ひょっとして今デート中?」

左手を口元にやって嫌な笑顔を浮かべながら尋ねる里奈に杏奈は「そうだよ!」と嬉しそうな笑顔で答えた。

「あたしは蜜奈に呼ばれてこれから合流するところ!」

そして、ふと何かを思い出したように別れ際に杏奈にこう言った。

「そうだ杏奈、打ち上げ花火が終わったらサバゲー部で花火とかやるから良かったら商店街の北側にあるコンビニで来て! 蜜奈にも言っておくから!」

杏奈は「うん、解った!」と返して里奈とはその場で別れた。

 里奈と別れてから杏奈は屋台で里奈と同じ葡萄飴を買った。

なぜ杏奈が葡萄飴を買ったのかと言うと、やりたいことがあったからだ。

「はい、颯斗君あーん♪」

杏奈はそう言いながら葡萄飴を颯斗の口元まで運ぶ。


・颯斗は語る

 さて、ここはベタに一口貰うべきなのかそれとも恥ずかしいから断るべきなのか?

少し悩んだ俺だが、前は割と消極的なこともあり、今回は積極的に行くことにした。


 颯斗は迷わず葡萄飴を先端の一粒をパクッと食べた。

「うん、久しぶりに食べる味だ」

率直に葡萄飴の感想を言いながら煎餅の出店に目が行った。

 甘いものを食べた後のため、塩気のあるものが食べたくなった颯斗は焦がし醬油の香ばしい匂いが漂う煎餅の出店に行き、煎餅を焼いている男性に「3枚入りをひとつください」と言って支払いを済ませて油紙に包まれた煎餅を受け取る。


・颯斗は語る

 恐らく高校生活で初めて食べ歩きを楽しんでいる。

久しぶりに食べた葡萄飴の味は、甘く……そしてほのかに酸っぱかった。

 買った醤油煎餅を齧ると口の中に焦がし醤油の香ばしい風味と程よい醤油の塩気が甘ったるくなった口に新たな刺激を与える。


 そして、葡萄飴を食べ終わった杏奈は串を近くのゴミ箱に捨てて、颯斗の持っている醤油煎餅に目が行った。

それに気づいた颯斗は左手の油紙に包まれている醤油煎餅を一枚取り出してスッと杏奈の口元まで運ぶと杏奈はバリッと良い音をたてながら煎餅に齧りついた。

齧りついた瞬間に颯斗は手を離し、杏奈は右手で醤油煎餅をつまむ。

「このおせんべい美味しい! 焦がし醤油の風味がよく出てる!」

杏奈は幸せそうな顔で醤油煎餅を齧りながらそう言った。


・颯斗は語る

やっぱり美味しいモノは他の人にも奨めたくなるものだ。

最後の一枚を半分に割って杏奈と半分個した。

さて、そろそろ小物などを取り扱ってる出店を回るのもいいかもな。

杏奈はどう言った物が好きなのだろうか?


 杏奈と颯斗が出店を回っている中、入り口付近の方では蜜奈と里奈が出店でカキ氷を買っていた。

 里奈と一緒にカキ氷をかきこみながら2人揃ってアイスクリーム頭痛(アイスを一気に食べるとなるやつ)に「クーッ!」と悶絶する。

 頭痛が治まったところで、里奈は蜜奈にこう切り出した。

「そろそろ蜜奈ちゃんの手番だね。どのお店を回るか決まってる?」

里奈の質問に蜜奈はカキ氷を食べる手を止めて答える。

「一応決めてありますよ。最初は射的屋とかを回ってある程度いい時間になったら夕食を買って、杏奈と合流して打ち上げ花火を見ようと思ってます」

 ちょうど時同じくして、前半戦である杏奈と途中で別れ、颯斗は蜜奈を迎えに入り口付近へ向かった……後半戦の開幕である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る