第22話・夏祭りデート 蜜奈編

 里奈が杏奈を探しに行って蜜奈と別れてすぐのこと……

「ゴメン蜜奈、待たせたかな?」

颯斗は蜜奈の元に駆け寄りながらそう言うと、蜜奈は特に気にすることも無く。

「いえいえ、ちょうどいいところでした!」

蜜奈はそう言って、颯斗の右腕に抱き付き、会場の奥へ歩き出した。


・颯斗は語る

 最近思った事だが、蜜奈は杏奈に比べてスキンシップが激しい気がする。

杏奈は手を繋ぐ程度だが、蜜奈の場合は腕に抱き付いてくるため、動きづらいし周りの目を引く。

あまり目立ちたくは無いな……本人はそんな気は無いんだろうけどさ。

少しは遠慮をしてもらいたい……


 そんな状態で颯斗は蜜奈と一緒に会場を回った。

時刻は16時を回ったばかりで小腹が空いている程度だった2人は射的屋で足を止めた。

「颯斗さん、こう言うの得意ですか?」

コルク銃にコルクを装填しながら颯斗は蜜奈にそう聞かれると、引きつった笑顔で答える。

「いや、俺よりも弟の嵐斗の方が得意だと思う」

 そう、実際に颯斗がこの祭りに来たのが数年ぶりで普段からサバゲーでエアガンなどの遊戯銃に触れている嵐斗に比べれば、火を見るよりも明らかな結果になるであろうと容易に想像できた。

(うーん、狙うなら……やっぱり右端にあるクマのぬいぐるみかな? 女の子は基本そう言うのが好きそうだし)

颯斗は無茶を承知で標的をひとつに絞ってコルク銃を構える。

しかし……1発目は大きく左に反れて台にコツンと当たり、2発目はぬいぐるみの上を通過した。

(ムムム……嵐斗に射的を習うべきだったか?)

残り玉は3発……かすりもしないこの状況に颯斗の笑顔は更に引きつった。

 だが、ここで颯斗の脳裏にある記憶が蘇る。

(そう言えば……少し前に嵐斗が依吹にこんなことを言っていたような……)

それは、数日前の夕方のこと……

 自宅の裏庭で地面に打ち付けた3本の直径1cm・長さ・1mの園芸用の支柱の頭にジュースの空き缶を刺した射撃の的に依吹は自動拳銃を構えていた。

「肩の力を入れすぎるな。落ち着いて狙いを定めて引き金を引け、実戦と違って標的が動きもしないし反撃もしてこないから狙うのに時間をかけろ。時間はたっぷりあるんだ」

などと依吹の右隣に立ってレクチャーをする嵐斗の事を思い出した。

 そのことを思い出しながら颯斗は3発目を装填して構える。

(落ち着いて……ゆっくりと的を狙って……)

心の中でそう意識しながらコルク銃を構え、狙いを定めた。

 照準の先にあるのはクマのぬいぐるみ、狙いすました一撃を放とうと引き金にかかる人差し指に力をこめたその時……

 右隣から飛んできたコルクが狙っていたぬいぐるみにコツンと直撃し、大きく後ろに傾いて台から落ちた。

(おや? どうやら先を越されたようだ)

颯斗は一度コルク銃から顔を離して次の標的(蜜奈が喜びそうな景品)を探す。

 目に付いたのが、白兎の顔のイラストがプリントされた手帳だった。

(おっ! あれとか……)

そう思ったその時……右隣から飛んできたコルクが標的にしていた手帳の右角に命中し、手帳がクルリと一回転して台から落ちた。

 颯斗は場違いにも戦慄した。このままでは狙う景品がなくなるのではないかと……

(ヤバイ! 選んでから狙ってる場合じゃない!)

慌ててコルク銃を構え、標的を選ぶ。

 だが……目覚まし時計、ブレスレットなどのことごとく狙った標的を先に取られるうえに動揺で照準がぶれてコルクを真っ直ぐ飛ばすことすらできなくなって終わってしまった。

 漂白剤で脱色したかのように真っ白になった颯斗の隣では「流石、俶! 1年の頃から3年も部内でエーススナイパー張ってるだけはあるよね」と黒髪ショートポニーテールの淡いピンク色の生地を基調としたグラデーションの浴衣姿のユイと「そうか? 1年の麻衣ちゃんも隻眼とは言え、いい腕してるぞ?」と答える深緑色の浴衣に身を包んだ俶が景品を受け取っていた。

「ん?」

 景品を受け取りながら俶は自分達の左隣で消し炭通り越して真っ白な灰と化している颯斗と、そんな颯斗にアワアワしている蜜奈に気づいて声をかける。

「えっと……杏奈ちゃん? だっけ?」

 声をかけられた蜜奈が「いえ、双子の妹の蜜奈です」と返す。

そう、蜜奈は杏奈と違ってサバゲーの知り合いは今のところ里奈と嵐斗しかいないのである。

 それから4人で会場内を歩きながら颯斗たちはサバゲー部の身内トークを俶たちから聞いていた。

明里「嵐斗君はバイトで部活を休む時が多いけど、前に行ったサバゲーのイベント戦では大健闘していたからね」

俶「後方からライフルのスコープで動きを見てはいたけど見失うと同時に裏取りが完了してショットガンの弾幕であっという間に敵を殲滅してたから奇襲要員としては心強いかな」

颯斗は自分が全く知らない嵐斗の事を聞きながら颯斗たちは日が西に傾く空の下を歩いた。

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