第20話・夏祭りデート 出発編
G市の商店街近くのメイン通りに出店が並び、電柱や掲示板には今日が夏祭りである知らせが貼られていた。
時刻はPM14時、上森家宅にて……
颯斗は嵐斗に手伝ってもらいながら藍色の浴衣に着替えていた。
・颯斗は語る
今日は夏祭りの日、去年までは勉強を理由に行くことがなかったのだが、今年は杏奈と蜜奈のデートで行かなければならないため、夏祭りの1週間前に嵐斗と一緒に呉服屋でわざわざ浴衣を選んできたのだ。
帯を締めながら手伝ってくれている仕事着の嵐斗に颯斗は「悪いな嵐斗、手伝ってもらって」と言うと、嵐斗は「別にいいよ。でも兄さんあれだな? 杏奈さんと蜜奈さんの2人と回るんだったら両手に花になるな」と茶化す。
「最初は杏奈と会場を1周回ってその後に蜜奈と回るからそうとは言い切れないだろ?」
颯斗はそう言うと、嵐斗は打ち上げ花火の事を思い出す。
「打ち上げ花火を見る時はどうするんだ?」
それを聞いて颯斗は気づいて「あっ」と漏らす。
「結局両手に花になるじゃないか!」
玄関まで見送りながら嵐斗はそう言うと、あることを思い出した。
「ああ、そうだ! 兄さん、打ち上げ花火が終わったらサバゲー部の先輩たちと花火とかやるからそっちが良ければ3人で来てくれ。部長も人が多いほうが良いとか言ってたから」
颯斗は下駄を履いて家を出て、夏祭りの会場に向かった。
・颯斗は語る
さて、夏祭りに行くのは実に4年ぶりだ。小さい頃は両親に連れられて嵐斗と依吹も一緒に兄妹揃って回っていただろう。
4年ぶりに見る打ち上げ花火はどう見えるのだろうか? 去年までは自室で勉強をしながら音しか聞いていない。
勉強以外の昔のことをほとんど忘れている俺からしてみれば恐らくとても新鮮な景色になるだろう。
そんな思いで胸を膨らませながら、俺は杏奈との待ち合わせ場所に向かった。
一方、中町宅にて……
普段はお洒落をしない杏奈だが、この日は白を基調とした生地に赤の金魚が描かれた浴衣を纏い、藍色の巾着バックを左手に持って「行ってきます!」と言ってスニーカーを裸足で履いて玄関を出た。
扉が自然に閉じて数秒後、慌てた様子で杏奈は扉を開けて、玄関で「履いていくものを間違えた!」と顔を赤くしながら、スニーカーから下駄に履き替えて再び出る。
洗面所までその音が聞こえており、水色を基調とした生地にピンクや紫の朝顔の花が描かれた浴衣を纏った蜜奈がおめかしをしており、おかしなところがないかをチェックして「よし!」と納得し、杏奈と同じ藍色の巾着バックを右手に持って玄関に向かった。
(約束の時間まで余裕はあることですし、それまで里奈ちゃんと回りましょうかね?)
時間潰しを決めた蜜奈も杏奈の後を追うように下駄を履いて出発した。
場所は戻り、上森家宅にて……
嵐斗はえんじ色の浴衣に打ち上げ花火が描かれた浴衣に身を包んだ依吹を食卓の椅子に座らせて普段はおさげにしている髪をロープ編みにしてうなじの上で纏めていた。
「嵐斗お兄ちゃんは浴衣とか着ないの?」
依吹は嵐斗にそう聞くと、嵐斗は纏めた依吹の髪を止める赤の風車の装飾がついたかんざしを刺しながら答える。
「祭りの日でも関係無しに事件は起こるからな。外出中に呼び出し受けてもすぐに行けるようにしてるだけだ」
そう言ってかんざしがしっかり固定できているのを確認してから「よし、出来たぞ」と言って両肩を叩いた。
依吹は手鏡で仕上がりを確認していると嵐斗は依吹にこう言った。
「お前も好きな人が出来ればいいのにな……」
そんな嵐斗に依吹は「あたしに彼氏ができたら寂しくなるよ?」と茶化すが嵐斗は特に気にする様子も無く。
「その方が兄離れしてくれるし、俺ら兄妹の中で恋愛してないのはお前だけってのもあるしな」
そう答えた嵐斗に台所で食器を片付けていた母親は苦笑い、依吹は「最後のは一言余計じゃい!」と返して夏祭りの会場に向かった。
「そう言えば嵐斗、最近麻衣ちゃんとはどう言った感じなの?」
母親の質問に嵐斗は「母さん、それは野暮ってやつだよ」と言って玄関に向かった。
嵐斗「帰りは兄さんたちと一緒に帰るから、多分8時は回ると思う!」
それを聞いた母親は「気をつけて行ってくるのよ!」と言って嵐斗は「行ってきます!」と返して家を出た。
そして、一足先に夏祭りの会場であるメイン通り付近についた颯斗だったが……
(夏祭りってこんなに人が集まったけ?)
時刻はまだ15時だというのに辺りは人で溢れかえっていた。色とりどりの浴衣に身を包む若い男女に幼稚園児位の子供を連れた夫婦がメイン通りの出店の間を歩いている。
人混みが苦手な人は間違いなく人酔いを起こしそうなメイン通りを眺めていると、後ろから「颯斗君!」と聞きなれた女性の声が聞こえた。
振り向くと、そこには白を基調とした生地に赤の金魚が描かれた浴衣姿の杏奈が手を振りながらこちらに来た。
「早速だけど案内よろしくね!」
そう言って杏奈は颯斗の左手を握って一緒に歩きだした。
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