第18話・人は見かけによらない
席に着いた3人はメニューを見て、注文を決める。
「2人とも決まった?」
颯斗は2人に尋ねると2人は揃って「はい」と答えた。
「すいません!」
颯斗は店主を呼ぶように右手を挙げると、店主は手帳とペンを持って3人のいる席に向かい、颯斗の前で止まった。
目の前に立たれると流石にそのルックスに圧倒される颯斗だったが、嵐斗が奨める店ということもあって普通に注文を口に出す。
「すいません。アイスコーヒーとレアチーズケーキをひとつ」
そして、颯斗に続くように2人も注文を口に出した。
杏奈「パンケーキとアイスコーヒーをひとつ」
蜜奈「桃のタルトとアイスティーをひとつ」
男性は「はい、少々お待ちを!」と言って厨房に向かって3人は勉強道具を取り出した。
学校の課題だけの自分達と違い、経済学などの本を取り出した颯斗を見て、蜜奈は「颯斗さんは進学を考えているんですか?」と尋ねた。
蜜奈の問いにそう言えば話していなかったことを思い出した颯斗は2人に自身の身の上を少し話す。
「まあね。中学の時から大学進学を考えていて、本当なら高校も今通ってるアーカム高校じゃなくてもっと上の高校を目指してたんだけど……結局落ちて今に至るんだよね」
それを聞いて杏奈は少し複雑な気持ちになった。
「なんかそれを聞くと少し私たちからしてみれば複雑だね。逆に颯斗君がその志望校に受かっていたら会うことも無かったかもしれないし」
2人の気を悪くしてしまったような気がした颯斗は誤解を解くために少し焦る。
「いや、別に悪気があってのことじゃないんだ。俺自身も勉強一筋で趣味が無い自分に嫌気が刺したきっかけにもなったわけで、逆にそれが無かったらあの日杏奈に声をかけられても断っていたかもしれないし」
そんな話をしているとトレーに注文した飲み物とデザートを載せた店主が話を聞いていたのか。
「おにいさん、大学進学を考えてるのかい?」
唐突にそんな質問をされた颯斗は「え? はい、そうです」と答えると店主はトレーの上のモノをテーブルに並べながら「学科は何を専攻してるんだい? 良ければ同じ学科を専攻してる常連を講師として紹介するけど?」と尋ねる。
颯斗はそれを聞いて「いや、でも……それって本人の迷惑になりませんか?」と尋ねると店主はがっはっはっはと豪快に笑ってから答えた。
「心配いらんよ。ウチに来る常連の大学生は皆、下の子に対する面倒見がいいんだ。そう言えばおにいさんの名前は?」
名前を聞かれた颯斗は少し驚きながらも「上森 颯斗です」と答えると店主は「上森?」と首を傾げてから何かを思い出したかのように驚いた。
「ああ、もしかして嵐斗君のお兄さんかい?」
嵐斗の名前が出た時点で、颯斗は事の成り行きを簡潔に話す。
「ええ、そうです。今日は図書館で勉強しようと思ってたら嵐斗が良い店があるからそこに行けって言ったのでここに来ました」
店主はトレーを左脇に挟んで右手で頭を撫でながら嵐斗の事を少し話した。
「いやぁ、あの子にはだいぶ世話になってるよ。アルバイターの子しかいない時のマナーの悪い客に対応してもらったり、あの子の師匠の静留ちゃんと一緒に食い逃げ犯捕まえてもらったりしてるからね」
弟の活躍を聞いて颯斗は「マジっすか」と驚くと気になった蜜奈が颯斗に「嵐斗君って普段何をしてるんですか?」と尋ねる。
「アルバイトで探偵の助手をしてるってぐらいしか解らない……あと、異常なぐらいに顔が広いってところだな。自分の弟ではあるんだけどだいぶ得体が知れない」
それを聞いて2人は声を揃えて「へっ……へえ……」と静かに驚く。
それから3人はデザートを食べて糖分を補給し、夕方になるまで勉強に集中した。
時間は進み、時刻は17時……
外はまだ明るいがそろそろ帰る時間になったため、3人は支払いを済ませて店を出た。
自転車を手で押しながら帰り道を歩いている時に杏奈は颯斗にこんなことを言った。
「颯斗君、講師の人が決まったら私にも合わせてね?」
それを聞いた颯斗は「へ? 一体どうして?」と疑問を尋ねる。
「だってもしかしたらその人が颯斗君のことを狙うかもしれないじゃない!」
そう、忘れてはいけない。杏奈はヤンデレであることを……
そしてそんな警戒をする杏奈とは裏腹に蜜奈はこう言った。
「私は逆にその人と仲良くなりたいですね。そもそも颯斗君のことを狙うなんてことは早々、無いと思いますし」
そう、蜜奈はメンヘラのため、颯斗のことが好きだが、あくまで自分を愛してくれる颯斗が好きというだけなのである。
2人を送ってから家路に着いたこともあって家につく頃には18時になってしまった。
(やっべ、確か今日の風呂掃除俺だったわ!)
家の裏手に自転車を止めながらふとそのことを思い出した颯斗は玄関を開けて「ただいまー」と家に上がってリビングに行くと、台所で夕飯の支度をする依吹がいた。
「颯斗お兄ちゃんお帰り! 今夜はチャーハンだよ」
依吹はそう言いながらフライパンを振るってチャーハンを作って颯斗はバックを食卓の椅子にかけながら「おう、じゃあ風呂いれとくわ」と言って風呂掃除にかかる。
夕食と風呂が済み、パジャマに着替えた颯斗は自室でバックから勉強道具を取り出して机に並べて参考書を本棚に戻していると下の段にはまっていた「中学校の卒業アルバム」に目が留まった。
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