第3話・双子の本性
時は経ち、お昼過ぎ……
自室で来たる大学受験に備えて勉強をする以外やることがなかった颯斗は空になったマグカップを持ってリビングに下りると、玄関の扉が開かれる音がし「ただいまー」と嵐斗の声が聞こえた。
汗だくの顔で嵐斗はリビングにつくと、颯斗が「お帰り」と向かえる。
「昼飯は食べたか?」
颯斗の問いに嵐斗は「帰り道に先輩たちと一緒にラーメン食べてきた」と答えて、昨日の件を思い出す。
「そう言えば、昨晩とんでもないことに巻き込まれたって言ってたけど何があったの?」
嵐斗にそう聞かれた颯斗は「ああ実は……」と切り出して、そのことを話した。
食卓に向かい合うように座って缶ジュースを飲みながら経緯を聞いた嵐斗はつまらなそうな顔でこう言った。
「へえ、勉強一筋のつまらなそうな学校生活送ってた兄さんが初対面の女子2人に告られるとはね……」
そう言う嵐斗に真面目に取り合う気を感じなかった颯斗は「お前他人事だと思ってるだろ?」と言うと、嵐斗は背もたれにギッと体を預けて答える。
「そりゃあね。告られたのは俺ってわけじゃないしな」
嵐斗はそうは言ったものの、兄貴なりに今の自分を変えたいという意図を感じたのか。ハアッと溜息をついて頭を抱える颯斗にこんなこと奨めた。
「どうせならさ。どっちとも付き合えばいいじゃん」
そう言われた颯斗は「はあ!? 何言ってんだ?」と驚く。
そんな颯斗に嵐斗は詳しく説明した。
「いやだってさ。初対面でお互いのことを全く知らないんだろ? だったらいっそのお互いのこと知るために付き合えばいいじゃんか。それでウマが合うかどうか解るわけだし」
嵐斗の言うこともごもっともだが、人間関係不器用だという自覚がある自分に上手く出来るか不安だった。
「それでもだな。もしそれで嫌われたらどうすんだよ!」
颯斗はそう言うと嵐斗は席を立ちながら答える。
「好きになるか嫌いになるかはその人の勝手だよ。少なくとも俺はそうやって今の人間関係を保ってる」
嵐斗はそう言ってから「シャワー浴びてくる」といって風呂場へ向かった。
そして、月曜日……
昼休みになって颯斗は購買へ行こうと席を立つと、サブバックから赤のナイロン製ランチバックを取り出しながら杏奈が声をかけてきた。
「颯斗君、お昼一緒に食べよ?」
屋上の隅で颯斗は杏奈と2人きりでお昼を食べた。
食事が済んで気になっていたことがあった颯斗は杏奈に尋ねる。
「そういえば今日、蜜奈ちゃんは?」
颯斗の質問に杏奈は思い出したように口を開く。
「蜜奈はクラスメイトの女子たちと教室でお昼食べてる」
それを聞いた颯斗は双子に関する偏見を口に出す。
「そうなんだ。双子って言うから常に2人で行動しているとばかり思ってたよ」
杏奈は「そんなことないよ」と言って先週の返事を求めた。
「ところでさ……先週の返事、聞かせて欲しいな」
・颯斗は語る
やっぱり聞いてきたか……この時の俺はそう思ったが、嵐斗に言われたこともあって動揺しなかった。
ただでさえ俺は、自分の弟たちのことで知らないことが多い。
ましてや出会ったばかりのこの2人に至っては尚更だった。
颯斗は落ち着いた様子で杏奈の問いに答えた。
「その前に俺は2人のことを知りたいな。お互い初対面だし」
それを聞いた杏奈は「ふーん」といってこう言った。
「なら今日の放課後、蜜奈にもそのこと言ってあげて、私は今日、一緒に帰れないし」
嫌われることを心配していた颯斗は「あっ……ああ、解った」と答えた。
そして放課後、颯斗は蜜奈と一緒に校門を出た。
「まあ、そう言うことだけど……別にいいかな?」
商店街を歩きながら颯斗はそう言うと、蜜奈は特に気にするような様子も無く。
「別にいいですよ。私も颯斗さんの事を全然知りませんし、異性との関係は友達からですから!」
そう言うこともあり、とりあえず話は丸く収まった。
数時間後、中町家が住むマンションにて……
双子の姉妹ということもあり、自室は10畳の部屋を相部屋にしている。
自室で2人は黒のYシャツと赤のバスパンの格好で黄緑のカーペットが引かれた床に座って2人は颯斗のことで話していた。
「にしても颯斗君ってかっこいいよね。インテリ系の不器用なところも何か愛したくなる」
そんなことを言う杏奈に蜜奈は同感するところがあった。
「私も颯斗さんのちょっと不器用なところが好きです。ああいった人に愛されたいですね」
そして、2人の話は盛り上がり始めた。
杏奈「絶対振り向かせたいな。今日は初対面ってことで先延ばしになっちゃったけど、あの人に私の愛を絶対に伝えてみせるわ。他の人を見れないぐらいにね!」
蜜奈「なら私も負けられませんね。先週会って一目で思いましたからね。初めて私の心に空いた空白を埋めてくれる人と出会えたって……」
そう言って2人は目を合わせ、少し黙ってから口を開く。
杏奈「でも……解ってるよね?」
蜜奈「ええ……解ってますよ?」
2人は声をそろえてこう言った。
「「落とす時は正々堂々とフェアにね!」」
ヤンデレ気質の杏奈とメンヘラ気質の蜜奈、似て非なるものであるものの、双子である限りそこだけは考えは同じだった。
そして、そんなことを知らない颯斗はどうなるのだろうか? それは神のみぞ知る。
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