第4話・デートプラン

 金曜日の朝、上森家宅にて……

「3人とも! 早く起きないと遅刻するわよ?」

2階の踊り場に下から母親の声が鳴り響き、真っ先に開いたのは嵐斗の部屋の扉、嵐斗は眠い目を擦りながら依吹の部屋の扉をコンコンとノックする。

「依吹、入るぞ!」

そう言って嵐斗は依吹の部屋に入った。

 部屋に置かれている家具は颯斗と大差ないが、勉強机の脇に長さ1m・幅5cm・厚さ3cmの角材の先端に縦10cm・横3cm・厚さ2mmの金属板とM12・30mmサイズの金属ボルト3本が縦に並んで打ち込まれた棍棒のようなモノが立て掛けてあった。グリップの部分に医療用テープが巻かれており、完全に武器として使える物である。

 嵐斗はベットで未だに熟睡している依吹の左頬を右手人差し指でぷにぷにとつつきながら起こす。

「起きろー遅刻するぞー」

依吹は「うーん」と寝ぼけた顔でゆっくり起き上がり、嵐斗と一緒に廊下へ出た。

「洗面所で顔洗ってこい!」

嵐斗はそう言いながら、パパッと手早く依吹の後ろ髪をおさげに結って大きな欠伸をしながら階段を下る依吹を見送り、颯斗の部屋の扉をコンコンとノックして入った。

「兄さん、早く起きないと遅刻するぞ!」

そう言いながら枕元に日帰り旅行の雑誌を置いて、熟睡している颯斗の肩を左手で押して揺らすと、颯斗は「あと5分だけ」と寝ぼけた声で寝返り打つ。

 嵐斗はポンプアクションショットガンを取り出してガシャコンと無言でコッキングすると、殺気を感じた颯斗は「はいただいま目が覚めました! 即刻顔洗ってきます!」と飛び起きる。

 身支度を終えて家を出て通学路を歩きながら、嵐斗は颯斗にこんなことを聞いた。

「兄さん枕元に地元の旅行雑誌が置いてあったけど、週末どこか行くのか?」

嵐斗の質問に、颯斗は週末の予定を話す。

「ああ、お誘いを受けてな。行く場所を探していたんだが……どこもちょっとな」

 颯斗は何か言いにくそうな口調でそう言うと、事情を察していた嵐斗が口を開く。

「兄さんの資金事情じゃ入館料とか取る場所は無理だろ? 奮発して映画館デートか無難に公園の散歩の方がいいんじゃないか?」

そう言われた颯斗は困った顔でこう言った。

「そうは言ってもな。女子と一緒に見る映画なんてどれを選べば解らないし、公園を散歩するだけなんてそもそも意味があるのか?」

 颯斗の言葉を聞いて嵐斗は呆れた。

「歩きながら身の上話でもすればいいじゃん。多分その方が互いのことを知ることが出来るしね」

 ここでふと、颯斗は嵐斗にこんなことを聞いた。

「そう言えば嵐斗は付き合っている子とかいるのか?」

嵐斗はその質問につまらなそうな顔で「アンタは知らないのも無理はないが、俺は中学の時から既に付き合っている子がいるからな」と答えた。


・颯斗は語る

 弟の衝撃的なカミングアウトにこの時、俺は動揺を隠せなかった。

器用な嵐斗のことだ。恐らく相当かわいい子と付き合っているのだろう。


 衝撃を受けた颯斗はどんな子なのか。興味本位で聞いてみた。

「ちなみにどういった子だ?」

嵐斗は右手の親指で右頬の傷を指して「この傷跡をつけた奴」とだけ答えた。


・颯斗は語る

 コイツは一体どんな恋愛してんだ?

だが、俺の記憶が正しければ、嵐斗が右頬にこの怪我を負ったのが今から3年前……嵐斗が中学校に入学して間もない頃だった。

当時のことを覚えていそうなのは……依吹か?


 そんなこともあり、学校にて……

休み時間になって杏奈は颯斗に「ねえ颯斗君、明日どこ行くか決まった?」と期待した目で尋ねきた。

「ゴメン、まだ決まってない……」

 颯斗は申し訳なさそうな気持ちでそう言うと、杏奈はこんなことを提案した。

「ならお花見行かない? 遅咲きの桜が残ってるならそれを見に行こうよ」


・颯斗は語る

 お花見か……小さい頃に行った記憶はあるが、いつのことだったかも思い出せない。

この街だとT池公園が名所だったか? 今でも咲いてるといいんだが……


 他に思いつくことも無かった颯斗は「じゃあ、それにしようか」といって杏奈とのデートプランが決定した。

「じゃあ、決まり! 場所はあとで調べてから決めよっか」

杏奈も予定が固まってきたこともあってか目を輝かせながらそう言った。

 そして放課後……

アーカム高校の西棟の1階の隅にある「サバゲー部」の表札がついた教室を杏奈は訪れていた。

「兄さんの好きな食べものですか?」

分解された拳銃が置かれた机についてジャージ姿で嵐斗は杏奈にそう言うと、杏奈は「そう! どうせ何か作っていくなら好きな物の方がいいでしょ?」と真剣に言う。

 右隣に黒髪ショートヘアの先輩と思しき女子部員が右手にストップウォッチのスイッチを入れると、嵐斗は困った様子で手早くカチャカチャと拳銃を組み立てながら答える。

「とは言っても最近まで兄さんとまともに話をすることも無かったですし、俺が兄さんのことで知っていることと言えば「ただの勉強一筋のインテリ系」ってだけです」

そう言って組み上げた拳銃に弾倉を差し込み、机の上に置くと女子部員はストップウォッチを止めて「11秒ジャスト!」と言って話に入ってきた。

「にしても2人揃って同じ人を好きになるとか。嵐斗君のお兄さんも罪な人だよね」

 そう言った女子部員に対して杏奈はこう言った。

「里奈ちゃんは好きな人とかいるの?」

上ヶ島 里奈 17歳、中町姉妹とは同郷の友人で中学の時にG市に越してきたため、今年になって越してきた姉妹と運命的再会を果たした。

 里奈は呆れた顔で答える。

「いるわけないでしょ? サバゲー女子と付き合うなんて同人か余程の好事家だよ」

そんな話をしていると、部長と思しき男子部員が「陣形練習やるぞ! 外に集合!」と声をかけてきたため、2人も他の部員と一緒に「はーい」と返事をして拳銃を片付けて部室をでる。

部室を出て別れ際に嵐斗はふと思いついたアドバイスを杏奈に伝えた。

「そうだ杏奈さん、どうせならお菓子とかにしたらどうですか?」

それを聞いた杏奈は「うん、それにしてみるよ。ありがとう!」と言って別れた。

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