第2話・上森家3兄妹
そして、今に至る……
颯斗は教本が並んだ本棚とタンス、そしてノートと教本が平積みされた勉強机がある自室のベットの上で、部屋の明かりをつけたまま大の字になって思い悩んでいた。
(とりあえず「今日は考えさせて欲しい」と言って逃れたけど……次会った時には答えないといけないんだろうな……)
颯斗はゴロッと右に体を傾けて寝返りを打った。
しかし、解決策なぞ思いつくわけでもなく。両手で自身の側頭部を挟むように抱えて「ぬああああああ! どうすればいいんだぁ!」と叫びながらドタンバタンとベットの上で悶えた。
すると突然、3発の銃声が鳴り響き、いつの間に開かれた部屋の扉の前に、右手に銃口から硝煙が上る拳銃を握ったうなじまで伸びた赤髪ロングヘアで右頬に一本の引っ搔き傷のような傷跡がある水色のパジャマ姿の青年が赤黒いモザイクに覆われた颯斗に「うるせえぞバカ兄貴! 今何時だと思ってやがる?」と不機嫌な声で言い放つ。
そう、部屋の時計はもう23時を回っていた。
・颯斗は語る
部屋に乱入してきたのは上森 嵐斗(らんと) 16歳、俺の弟で今年の4月に俺と同じアーカム高校に進学している。
嵐斗の銃撃から即座に復活した俺は恥を承知で嵐斗に今回の事を相談することにした。
颯斗は自室に戻ろうと踵を返す嵐斗を呼び止めた。
「聞いてくれ嵐斗! 俺は今とんでもないことに巻き込まれてるんだぁ!」
しかし、そんな兄である颯斗に対して嵐斗は振り向くことなく「喧しい! こちとら部活で明日早いんだよ! 明日部活が終わったら聞いてやる」と冷たくあしらって部屋に戻ってしまった。
・颯斗は語る
前もって言っておくが、嵐斗と俺は仲が悪いわけではない。
仮にそうだとしたらなんだかんだ言っても話は聞いてもくれないだろう。
これ以上、ひとりで悩んでいても仕方が無かった俺は、この日はもう、寝ることにした。
翌朝、4月らしい温かい朝日が射す土曜日の朝の8時……
ベットの枕元に置いていたスマホのアラームの音で目を覚ました颯斗は「うーん」とうめき声を上げながらスマホのアラームを止めて体を起こす。
「ふああっ!」
颯斗はミシミシミシと体の軋む音を鳴らしながら大きく伸びをして、ベットから出て廊下に出た。
「あー良く寝た……」
颯斗はそう言いながら2階にあるトイレに向かって歩いていると「嵐斗」と四角形の木の表札が提げられた扉がバンッと勢いよく外側に開かれた。
勢いよく開かれた扉に反応できなかった颯斗は「ブッ!?」と扉と正面衝突し、トラックにでも撥ねられたように吹き飛んで木の床の廊下にズサァッと無様に落ちた。
「やっべえ! 寝坊したー!」
学校支給の青のジャージ姿でサブバックを右肩にかけた嵐斗はそう叫びながら自身が吹っ飛ばした颯斗に気づかず、後ろ髪をポニーテールに結いながらダンダンダンダンと勢いよく階段を下っていった。
朝から酷い目に遭って心が折れそうになっている颯斗の前に緑のネグリジェ姿の肩甲骨まで伸びた黒髪ロングヘアの赤の四角縁眼鏡をかけた少女が現れ「颯斗お兄ちゃん大丈夫?」と声をかける。
・颯斗は語る
上森 依吹(いぶき) 15歳、俺ら上森3兄妹の末っ子で来年、アーカム高校に進学する予定でいる中学3年生……
ちなみに俺と依吹が黒髪でなぜ嵐斗だけ赤髪なのかと言うと、嵐斗だけお袋の血が濃いというだけで、俺は純粋に親父似で嵐斗はお袋の家系の祖父ちゃんに似たらしい。依吹は髪の色だけ親父寄りだが、顔立ちはお袋似だ。
颯斗は倒れていたこともあり、角度的にネグリジェのスカートの下にあるモノが見えていた。
「おう今日はきい……」
颯斗は見えたモノに関して口を開いた瞬間、ズドーンとまるで雷が落ちたような地響きが家を揺らしたのが外から見て取れた。
依吹は「最ッ低!」と額に青筋を立てながら頭からプシューと煙を上げて白目をむいている颯斗を置いて階段を降りて行った。
・颯斗は語る
念押しで言っておくが、今のはただの偶然で起きた事故で別にシスコンというわけじゃないぞ?
話は変わって気づいたことだが、俺は中学の時から勉強一筋でいたこともあってまともに弟たちの相手をしてやれていなかった。
今の自分を変えたいということもあった俺はやらなければならないことが沢山あることに今になって気づいた。
少し経ってリビングの食卓で颯斗はコーヒーのポットと白のマグカップを取ってテレビで目●まし土曜日を見ながら、トーストをかじっている依吹に颯斗はこんなことを聞いた。
「依吹! 嵐斗は何部に入ったんだっけか?」
依吹はコーヒーを啜ってトーストを流し込んでから颯斗の方を向かずに「サバゲー部」と答える。
それを聞いた颯斗は少し驚いた。
「サバゲー部!? そんな部活ウチの学校にあったか?」
・颯斗は語る
まさかそんな部が存在していたとは思いもしなかった。いや、俺の場合、部活動に無関心すぎただけかもしれない。
とはいえ、体験入部期間が終わっている俺はもう部活動とは無縁の人間だ。
それを知った俺が出来ることは嵐斗がその部活で青春していればそれでいい。
そして、颯斗は更に驚くべきことを、依吹から聞くことになった。
「颯斗お兄ちゃんはまだ嵐斗お兄ちゃんから聞いてないと思うけど、嵐斗お兄ちゃん……今年から本格的にアルバイトすることになってるからね」
それを聞いた驚きのあまり、颯斗は「へ?」と間の抜けた声が出た。
「あれ? 颯斗お兄ちゃん知らないの? 嵐斗お兄ちゃん中学の時から探偵の助手してるんだよ」
颯斗は自身の無知さに驚きを隠せなかった。まさか自分の弟が中学の時から探偵の助手のアルバイトをしていたことを今になって初めて知ったのだ。
「アイツそんなことしてたっけ?」
颯斗はそう言うと、依吹は呆れた顔で「颯斗お兄ちゃん、勉強ばっかりで周りを見ないからそうなるんだよ」と言って食器を流し台に片付けて部屋に行ってしまった。
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