助けてくれ! ヤンデレとメンヘラに迫られてるんだ!

荒音 ジャック

第1話・どうしてこうなった?

 温かく心高まるそよ風が吹く4月中旬、これはD県G市に住む。あるひとりの高校生と、その周りで起こる。青春の物語……



 綺麗な満月が夜空に浮かぶG市の住宅街にて……

青の駒形切妻屋根が特徴の2階建ての住宅、そこの風呂場の洗面所に、彼は黒のパジャマ姿で突っ立っていた。黒髪ショートヘアの少し痩せ型だが整った顔立ちのその青年は歯磨きをしながら物思いに更けていた。


・颯斗は語る

 歯を磨きながら俺は左手で前髪を七三に分ける。俺の名前は上森 颯斗(はやと) 17歳……早速で悪いが言いたいことがある。

どうしてこうなった!?


 颯斗がなぜそうなったかと説明すると、約12時間前のこと……

G市公立アーカム高校にて、入学式が終わって、2年生になった颯斗は教室の自分の席に座ってボーッと窓の外を眺めていた。

(ああ、気づけばもう2年か……)

颯斗は呆けた顔でそう思う。


・颯斗は語る

 中学の時から勉強一筋で突っ走て来た俺は今の自分に落胆していた。

なぜ落胆しているかって? 周りを見て気づいたんだ。他愛のない楽しい会話しているカップルに趣味や部活の話をしているグループが俺の周りにいる。

 俺には他愛のない会話のネタも無ければ、付き合っている彼女もいない。部活動に所属していないうえに、趣味も無い。

あるのは勉強一筋で通って第1志望の高校に落ちて第2志望のここアーカム高校に入ったという実績だけ……


 担任の男性教員が教室に入って全員が席に着き、朝のSHR(ショートホームルーム)が始まる中、颯斗はふと思う。

(はあ、今からでもいいから青春してえな)

そんな颯斗の心の声を神が聞いていたのか。担任がこんなことを言いだした。

「さて、今日は先週話していた転校生を紹介する! 入って来なさい」

 担任がそう言うと教室の引き戸がカラカラと音をたてて開き、学校支給の赤のサブバックを左肩にかけたひとりの少女が入ってきた。

 茶髪の右に寄せたサイドテールで輪郭の綺麗な顔立ちの美少女だ。

「はじめまして、中町 杏奈(あんな)です! 今日からよろしくお願いします!」

美少女の登場にクラスの男子が盛り上がる中、颯斗は杏奈に見惚れていた。

 担任が「静粛に!」と鋭い声で言うと、静寂が教室を包む。

「君の席は颯斗の隣だ」

担任はそう言って颯斗の右にある空いている席を指した。

 杏奈は担任の指示通り、席に向かって歩き出す。

そんな時にふと颯斗と目が合い、颯斗は自身の胸の鼓動が早まったのを感じた。

杏奈サブバックを机の横にかけながら席に着くと、SHRの続きを担任が始める。

 SHRが終わり、1日があっという間に過ぎ去って気づけば、放課後、SHRが始まるまでの時間になってのこと……


・颯斗は語る

 この時、俺はあっという間に過ぎ去った時間に、焦りを感じていた。

青春したいなと思った矢先に、美少女の転校生が自身の隣の席に来るという余りにも完璧すぎるタイミングは神様がくれたチャンスかもしれないというのに、勉強一筋でいたせいでどう話しかければいいか解らなかった俺はまだ一言も声をかけれずにいたのだ。


 そんな颯斗に帰りの支度を終えた杏奈は急に左を向いて颯斗に声をかける。

「ねえ、颯斗君! 今日一緒に帰らない?」

とんでもない不意打ちに颯斗は「ふえ!?」間抜けな声を出す。

「私まだこの街に詳しくないから帰り道一緒に来てくれる人探したんだけど、殆どの人が反対方向で颯斗君が私と帰り道の方向一緒だって聞いたから」

 杏奈はそう言うと、動揺していた颯斗は「おっ、俺で良ければ……」と答えた。

了承を得た杏奈はニッと笑い、「じゃあ決まり! 駐輪場の近くで待っててもらえる? 先生に呼ばれて少し遅くなるから」と言うと、ちょうど担任が教室に入って来て放課後のSHRが始まる。


・颯斗は語る

 神様がくれたこのチャンス、絶対にモノにしてみせる! 教室を出てからトイレの洗面台の鏡の前で、そう決心した俺は昇降口を降りて駐輪場へ向かった。

だが、この時の俺はこれからとんでもないことが起こるとは知る由も無かったのである。


 颯斗が駐輪場近くにつくと、そこに茶髪の左に寄せたサイドテールの杏奈がいた。

(あれ? 俺より先にいるってことはそんな長い話じゃなかったのか?)

颯斗はそう思いながらも杏奈? に声をかけた。

「杏奈さん! 待たせてゴメン!」

 颯斗はそう言って杏奈? に近づくと杏奈? はとぼけた顔で颯斗にこう言った。

「アナタ誰ですか?」

思ってもいなかった一言に颯斗は「はい?」と疑問を持つと、後ろから声をかけられた。

「颯斗君! 待ったぁ?」

 颯斗は後ろを振り向くとそこには杏奈がいた。

「え? え? ええええええ!?」

上ずった声をあげながら颯斗は杏奈と杏奈? を交互に見比べる。

 動揺している颯斗に杏奈は杏奈? の後ろに回って両手を両肩にポンと置いて杏奈? を紹介した。

「そう言えば言ってなかったよね? この子は私の双子の妹の蜜奈(みつな)、隣のクラスなの!」

それを聞いた颯斗は「ええええええ!」と驚きの声を上げ、その声は夕焼けの空に鳴り響く。

 少し経って3人はG市の商店街を歩いていた。

「颯斗さんって部活動とかには入っていないんですか?」

蜜奈にそう聞かれた颯斗は戸惑いながら答える。

「え? ああ……えっと、入っていない。帰宅部だ」

 今までまともな人付き合いをしなかったこともあり、颯斗の受け答えはたどたどしい。

「いきなりだけど、颯斗君って好きな人とかいるの?」

杏奈の不躾な質問に颯斗は「え!?」と動揺した。

「いっ……いや、そもそも女子と話をすることすらほとんどなかったから……」

顔を赤くしてそう答える颯斗に、2人は声をそろえてこんなことを聞いてきた。

「「なら……私と付き合ってくれませんか?」」

そう聞かれた颯斗は自身が望んでいた青春の行き過ぎな程の右斜め上のことに心の中で叫んだ。

(どうしてこうなった!?)

こうして颯斗の青春の歯車は火花を散らすような勢いで回り始めたのである。

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