第40話

ニーナが悲しいそうに泣いている。

ずっと楽しそうに、ずっとやさしかった彼女が泣いている。

どうしたの、怪我がいたいの。

つよく握りすぎただろうか。それとも


――――まだいうか!

突然、そっぽを向いていた怒っている僕が、眉をさらに吊り上げて、大きな声を出して詰め寄ってきた。


あの人がどうして、誰のせいでないているのか、まだ本当にわからないのか!

 

わからない、わからない、だって、どうして………


この卑怯な臆病者め!自分で勝手に線を引いて、自分で勝手にあきらめて、自分で勝手に傷ついて!お前は何もしてないくせに!お前をなんで買ったかなんて、もうわかっているだろう!

 

でも、でも、彼女の本当の気持ちが僕はまだわからなくて、ちゃんと教えてもらってから………


何をいうか、だからお前は臆病な卑怯者なんだ!言葉がないから、わからないと言うつもりか!お前の目は何を見て、お前の耳は何を聞いて、お前の手は何を感じていた!あの人は言葉なんかなくたって、笑顔で声であの手で握って、ずっとお前につたえてくれてただろう!わからないとはいわせないぞ!


だって………


見ろ、あの人が悲しんで泣いている!

お前のいっていることは、全部お前の都合じゃないか!ほんとはわかっているくせに、自分が痛いのが嫌だから、屁理屈を言って!伝えようともしないくせに、あの人のやさしさに甘えて!そんなので言葉があれば伝えられるというつもりか!

あの人は、あんなに伝えてくれたのに!あんなにもらっておきながら!いまさら知らないとは言わせないぞ!


………わかってた。ほんとはわかってた。だけど、彼女はとてもきれいで、ぼくなんかって思ってしまって。わからないふりして、ごまかして………


ようやく認めたか、この臆病者め!卑怯者め!


伝える事は!

知っている


伝える気持ちは!

持っている、ニーナにあった、あの時から


伝える勇気は!

大丈夫、ニーナが手をつないでくれてるから


伝えることはできるのか!いまさら気持ちだけじゃ伝わらないぞ!

大丈夫、ニーナが教えてくれている


なら早くしろ、この大馬鹿者め!いつまであの人を泣かせておくんだ!


ああ、ニーナ、ニーナ。そんなに悲しそうに泣かないで。

笑ってください、笑ってください。

あなたの笑顔が見たいんです。

あなたが伝えてくれたから、たくさん与えてくれたから、僕は必ずがんばります。

いまからあなたに伝えてみせます。

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