第二章
第18話
ヴェルニーナは都市国家の一つであるテオの街から竜騎士の職を任されていた。
騎士とはかつて王制時代には王に仕え忠誠を誓ったものを指したらしいが、いまは大きな街ごとに高い戦闘能力をもち外敵を打ち払う職についたものを指す。
都市国家間の争いはまず起こりえないので、外敵とはすなわち獣である。大きな都市は通常、それらの外敵から身を守る城壁を備えていたが、それすら破壊する特別大きな力をもった獣も生息しており、まれに人間の領域を脅かしに来る。それらを討伐し、都市およびその周辺の村や街道の安全を確保するのが騎士の役目であった。
では竜とはなにか、というと獣のなかでも極めて大きな力――とくに魔力――をもつ種であった。竜は人間にとっても脅威ではあるが、はるか昔から食物連鎖の頂点たっていたからか、人間を含め多くの動物たちは竜の魔力を本能的に恐れる。竜は縄張り意識がつよく迂闊にそこに立ち入るとただではすまないからだった。
そして人間であっても竜と似た魔力を持って生まれるものがいた。ヴェルニーナは竜とかなり似た魔力を持って生まれ、それを修行により高めた。その上で騎士の職についたので特別に竜騎士と呼ばれているのだった。
さて、そのヴェルニーナは職務を果たすために、剣を携え鎧を着こみ、テオの街から北に離れたところにある砦に来ていた。
砦の城壁に立ち、いつもとは逆に集中して気を高め、都市の外側へむけて全力で魔力を放出した。これを定期的に、四つの砦で行うのだ。それらの砦はテオの街の東西南北を守る位置に配置されていた。
こうすることで、疑似的にテオの街を竜のなわばりと化して獣から街とその周辺を守っているのだった。まれにお構いなしに侵入してくる獣がいるが、それらを討伐する役目も負っている。それらの不届きものたちは、強力な獣と決まっているので生半可な騎士では太刀打ちできない。
というわけでヴェルニーナの職務は街にとって極めて重要であり、高額の対価をもらっていた。また人々からも基本的にはかなり尊重される立場であった。直接対面しなかったら、の話ではあったが。
もっともヴェルニーナはこの仕事に誇りをもっており、評判はもうどうでもいいと達観していた。それにいまや、街にある彼女の家には彼女が大切にするものがいるのだから、何をかいわんや。
ヴェルニーナは、黒髪の少年の顔を思い浮かべ、真剣に職務に向き合い、再び気を高めて大きな魔力を放つのだった。
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