chapter.3 男同士だとか
先生は長たらしく弁明を続けている。そろそろ足が痺れてきたし、体勢を立て直して、先生の口を閉じた。モゴモゴとまだ続けようとするので、舌を入れてやった。そうして、歯列をなぞってやると、大人しくなるのだ。先生はひどく単純で、悲しい生き物だ。
「先生、こういうときはどうしたらいいんでしたっけ?」
「…………言い訳しない」
とろけた表情で先生は言った。そんな顔で僕の目を見つめている。大方、続きをしてほしいのだろうけれど―――そういうわけにはいかない。
「さすが先生、よくわかってらっしゃる。じゃあ次に何をするかもわかってますね?」
「…………ああ」
すうっと目から光が無くなっていく。先生は立ち上がると、服をゆっくりと脱ぎ出して裸になる。
「待て待て待て待て待て待て!!!!!」
「なんですか先生これからいいところなのに」
「おれは何を見せられてるんだよ!前半は確かにそうだけど、後半は完全にイズミくんの妄想じゃねえか!おれがいつ!お前とキスしたんだよ!」
「何千回としてますけど?(妄想の中では)」
先生は力強く机を叩く。古い机は少しだけ軋んだ音を出したのだった。
本人に見せるつもりは全くなかったのだけど、先生が
先生は、赤くなったり青くなったりしながら、僕が描いた本をぺらりぺらりと捲っている。恥ずかしいのに嫌なのに、それでも読み続けているのは弟子になんと思われているのかが気になるからか。
読み終わった後は、ぐったりと机にもたれかかり項垂れている。ゆるく結ばれた黒く長い髪が机に散らばっていた。
「イズミくん……これはフィクションだよな?」
地の底から出しているかのような声が響く。
もちろんこれはフィクションである。前半だって実際にあったことではなくありそうなことであるし、後半に至ってはこんな事実は当然ない。なので僕はこう答えた。
「もちろんフィクションですよ。それにこれは趣味で作ったものですので」
趣味、もちろんこれは嘘ではない。嘘ではないが、本に描いてある通り、描いてある以上に、先生に対してほの暗い感情を持っていることは言わなくてもいいだろう。気にする先生はかわいいだろうが、必要以上に警戒してくるに決まってる。そんな面倒になることぐらいなら言わない方がいいだろう。
「……そうか。」
「ええ」
「……で、イズミくん。今日はどんな厄介事を持ってきたんだ」
「今日はこれですね」
スっと箱を取り出して、机の上に置く。見た目は普通の箱であるが。
先生は眼鏡をかけて、それを眺めた。だんだんと顔色が渋くなっていくのがわかる。眉間に皺を寄せて、こちらを睨む。
コレが何であるかを大体把握したらしい先生は、躊躇なくその箱を開けて、ガコガコと箱を揺すり、隠された段の中身を確認した。ただの箱ではなく、仕掛けのある、いわゆる細工箱のようであった。
中には、米粒数グラムと赤黒い布のようなもの、それに生爪が数枚入っている。簡易的な、適当な、呪いの箱。
「これは誰に渡された?」
「先生のことが好きだって女生徒からですよ。先生に、って」
「……おれ絡みだったかー…………」
箱を放り投げ、再びうなだれる。大体、厄介事は僕の元に届くのだが、大抵は先生宛の物であるときが多い。先生の弟子だということが知れ渡っているので、厄介事は先生に直接ではなく、僕を介して行われることが多かった。これが、
僕がいなければ、きっと死んでいた。それぐらいにはおかしなのに好かれている。もちろん僕を含めて。
「さて、これどうしましょうか。処分します?」
「処分に決まってるだろ」
「処分したらたぶん先生に跳ね返りますけど大丈夫ですか」
「…………。大丈夫なわけないだろ!」
再び机を思い切り叩く先生。うーん、これぐらいなら跳ね返っても数週間寝込むぐらいで済むと思うんだけどな。
バックから聖水を取り出して、箱にかける。
「ちょっと待て!」
「いやいや。先生、もうこれ開けた時点でダメですから。とっとと処理しておかないともっと大変なことになるの、先生だっておわかりでしょ」
「いやまあそうだけど……。」
「諦めて。おつかれさまでした」
ギリギリと歯を食いしばる先生は、とても嫌そうで悔しそうだ。
聖水をぶっかけた後は、その箱を庭に放り出し、火をつけてキャンプファイヤー。燃料は箱と火しかないのに、囂々と燃えさかる。悔しそうに恨めしそうに炎が先生を舐め取ろうとするので、無言で先生に聖水をぶっかけた。当然先生は怒って、僕を殴った。当然なのだがなんだか釈然としない。
キャンプファイヤーは数分後には終わり、箱はただの消し炭と化した。
「さ、終わりましたよ。数週間は体調激悪でしょうけど、頑張ってくださいね」
「寒気してきたわ……。ハァ、なんでいつもこうなんだろうな」
「先生が適当に相手するからですよ。この機会に人生見つめ直してください」
「ええ……?」
ひどく不満げな先生を置いて、立ち去る。
僕は、後処理のために大学へと向かうのだった。
適当 武田修一 @syu00123
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