第5話・・・ただいま・・・
プルプルプルプル
発車のベルが鳴る。
「電車出ちゃう。」
「あかり、東京行っても、連絡してな。お願いやから。」
「うん、なおくん。もちろん。」
「好きや。」
「私もや。バイバイ。」
「行ってらっしゃい。」
5年前、高校生の僕とあかりは、こんな会話を交わした。
結局、彼女から連絡がくることは、なかった。
「な・お・と!」
そう言って、僕の彼女であるココロが飛びついてきた。
「何?ココロ。」
「なにって、失礼な。1週間も会われへんかってんで。この薄情者!」
「うるさい。」
「・・・なおと。私のこと、ほんまに好き?」
友達として
「好きに決まってるやろ。」
そう言って、僕はキスをした。
「えぇ、今?不意打ちすぎるわ。」
そう言うココロの頰は、紅葉のような紅だった。
「なぁ、今度、なおとの家、行っていい?」
「えっ。」
「あかん?」
「おぉ。ええけど・・・。」
お前は本気じゃない。
「なんか、あかん事あんの?」
「・・・いや。なんでもない。」
「そう?そんな顔じゃないけど・・・。」
ドキリ
「まあ、いっか。」
この際、適当な性格の彼女に感謝した。
「でも、なんかあったら、ちゃんと相談してや。」
「うん。」
ココロのことは、好きだ。それが、俗に言う「love」の方ではないことは、確かだ。
2年前
「あ、あの、小桜先輩!私、先輩のことが・・・好きです。」
大学の後輩であるココロが告白してきた。その時、あかりの顔が浮かんだが、連絡ない
「いいですよ。付き合いましょう。」
と言った。ココロは結構人気があり、ビッチだと聞いていた。だから、ちょうど、都合が良かった。
だってまだ、あかりのことが、忘れられなたったから。遊びには、そう言う人がいいと思った。遊びのわりには、よく2年も続いたと思う。
「––と。––おと。なおと。」
ココロの声に戻された。
「なに?」
「大丈夫?上の空だったけど。」
「ごめん。ちょっと、疲れてるねん。帰ってもいい?」
「・・・いいよ。」
ココロの顔が暗くなった気がした。
「ありがとう。じゃあな〜。」
「じゃあね。」
そう言って、僕は、家路についた。
「疲れた。」
僕は、寝台に座った。そのまま、寝転ぶ。昼の暖かい光が僕を包む。疲れた時は、寝るのが1番だ。
ヒグラシの鳴き声。カラスの声。子供の笑い声。車の発信音。電車の音。この世の中は、音で溢れている。
重い体を持ち上げる。顔を洗う。寝ぼけた顔に、冷たい水がかかる。その温度差が気持ちいい。
目も覚めたことだし、散歩にでも行くか。そう思い、僕は靴をはき、家をでた。
空は、曇っていた。だが、その雲に日光の赤色があたり、ピンク色に染まっていた。
「綺麗。」
誰かが、呟いた。声の方に目を向けると、綺麗な女の人が立っていた。その人も、こちらを向く。目が合った。
「なおくん⁉︎」
「へ?」
「なおくんじゃん‼︎」
僕のことを“なおくん”と呼ぶのはただ一人。あの人だ。
「あかり・・・?」
「そうだよ。久しぶり。」
キュウと締め付けられる。痛い。
「おう。5年ぶり?」
意外と、僕は、冷静だった。
「そうだね。声、低くなったね。」
「うん。」
「背、高くなったね。何センチ?」
「179。」
「彼女、いる?」
「いきなりやな。・・・いる。」
彼女の顔が曇った気がした。
「そっか・・・。いつから?」
「2年前から。なぁ、立ち話もなんやし、家に来ぉへん?」
「・・・いいの?彼女さんは?」
「いいの。僕、話したいこと、めっちゃあるから。」
「うん。」
僕の家に着くまで、僕らは無言だった。
「どうぞ。」
「お邪魔しま〜す。一人暮らしだったんだね。」
「うん。」
「実家暮らしだと思ってた。」
「そっか。」
「なぁ、なんで、連絡くれへんかったん?」
この5年間、ずっと思っていたことを言った。
「えっ。えっと、なおくんのメールを待っとった。」
今日初めての、大阪弁だ。
「そっか。」
「なおくんは、なんで、くれへんかったん?」
「僕は、あかりが先にくれると思っとったから。僕が、連絡したら、図々しいかなって。」
「図々しくないで。今も。」
「えっ。」
と、いうことは、僕らは、すれ違っていただけだということか。なんてことだ・・・。
「私・・・まだ、なおくんのこと・・・すっ、好きやねん。」
ドキン
心臓が高鳴る。待ち望んでいた言葉だった。
「・・・ごめん。僕、彼女おる。」
「そっか、じゃ仕方な」
「待って、今電話するから。」
「えっ。彼女に?」
「うん。」
プルルルル プルルルル
[もしもし。なおと!どうし]
「ココロ。別れて。」
その言葉は、自分でも驚くほど、安安と言えた。
[はぁ?どういうこと?]
僕は、あかりを見た。彼女と目が合う。
「好きな人できた。」
あかりの頰が紅く染まるのが分かった。
[えっ、どういうこと?]
「そういうことや。じゃ、今までありがとう。」
[待ってや。ちょ、ちゃんと説め]
プツ
「良かったん?」
「うん。」
「ほんまに?」
「うん。本気じゃなかったから。っていうか、お前にしか、本気になられへん。」
「まじで。」
「うん。」
「ちょっと、時間欲しい。彼女、納得させて来るから。」
「うん。」
「今度は、僕が迎えに行くから。向こうで、待っとけよ。」
「うん。グズン・・・ありがとう。」
なぜか、彼女は泣いていた。ただただ愛おしい彼女を、いつまでもいつまでも、抱きしめた。
半年後。
「もしもし。小桜です。」
[なおと。]
「僕、今、新宿駅におるねん。」
[今からでる!5分くらいま]
プープープープー
「えっ。慌てすぎやろ。」
5分。そのたった5分が、どんなに待ち遠しかったか。
「なおと!」
そう言って、あかりは、僕の胸に飛び込んできた。
「久しぶり。会いたかったよ。––––––」
「––––––おかえり。」
僕は、そう言って彼女を抱きしめた。
「ただいま。」
その彼女の囁くような声が、僕の心臓を締め付けた。
これから、僕らは、どうするのだろう。どうなっていくのだろう。ふとした瞬間に怖くなる。未来の僕に、聞きたくなる。
でも、それが人生の面白さなんじゃないかな。だから、僕は、生きていける。僕たちには、無限大の可能性が秘められているから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます